2024年07月17日( 水 )

米国債市場に流動性危機の恐れ(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏

 今回破綻したシリコンバレー銀行は米国債を多数保有していた。金利上昇にともなって保有していた債権価格が下がり、その結果、大きな損失を出したことがきっかけとなって破産してしまったのだ。米連邦準備制度理事会(FRB)の急激な利上げにより、安全資産と言われていた国債の市場にも異変が起きている。世界最大の金融市場である米国の国債市場に現在何が起こっているのか、また、その背景には何があるのか、今回取り上げてみよう。

国債の意義とメカニズム

アメリカ 経済 イメージ    米国の国債市場は、残高が26兆ドル(3,640兆円)という世界最大の債券市場である。

 それは米国政府が資金調達する場であると同時に、世界の中央銀行、機関投資家やファンドなど、多彩な投資家が参加する市場もである。最高の信用力を誇り、しかも、いつでも購入ないし換金できるというその高い流動性ゆえに、各国の政府や金融機関がメインの運用の場としているのである。米国国債の3分1は海外で保有され、残りの3分2は米国内の機関投資家などによって保有されている。年金基金や銀行、保険会社などが米国債の最大の顧客である。

 国債とは、簡単にいえば国が発行する債券のこと。債券とは資金を借り入れする際に発行される有価証券のことだが、国によって発行されるから「国債」という。債権にはこの国債以外にも、企業が発行する社債などがある。政府は財政支出が税収入で賄えなくなると、国債を発行して投資家からお金を募る。国債を発行することで、国は税収の不足を補っているのである。

 国債市場も需要と供給によって価格が形成される。国がむやみに国債を多発すると、供給が増え、国債の価格が落ちることになる。ところがいま、流動性の一番高い市場であったそのまさに米国債市場において、流動性危機が懸念されている。FRBが量的緩和から量的縮小に方向転換したために米国債の供給が増えたところへ、日本や中国なども自国通貨を防御するために米国債を売りに出し、ますます供給過多になっているというわけだ。ある債権投資家は、米国の国債市場がこんなに流動性が弱まっているのは70年ぶりのことだと、驚いているという。

流動性不足の背景には

 流動性不足とは、需要と供給のバランスが崩れて一方に偏った状態のことで、取引成立につながらなくなることだ。それでは、どのようなときにこのような現象が起こるだろうか。

 たとえば、今日は100円の債権が、明日になったら確実に90円に価格が下がるとしよう。明日価格が下がるので、その債権を今日買おうとする投資家はいないだろう。それで取引は成立せず、市場の流動性は下がることになる。米国の国債市場でいま起きているのは、まさにそうした現象である。

 FRBはインフレを抑制するために利上げを続けているし、各国の中央銀行もこれに追随している。金利が上がると債権価格は下がる。それに、今まで量的緩和を進めてきたFRBが量的縮小に舵を切ることが確実となると、国債の保有者はそれを売却することになるため、国債の供給は増え、価格はますます下がることになる。下がることがはっきりしていれば誰も買おうとせず、待つことになるので、供給が増えて需要がない状況となる。これが、米国債市場が「流動性危機」といわれるゆえんである。

 今のところ、米国債市場で売買がまったく成立しないといった事態にまでは立ち至っていない。しかし、大きな金額にはなかなか買い手がつかなっかたりなど、取引成立が鈍ってきたことは事実である。

(つづく)

(後)

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