米国債市場に流動性危機の恐れ(後)
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日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏今回破綻したシリコンバレー銀行は米国債を多数保有していた。金利上昇にともなって保有していた債権価格が下がり、その結果、大きな損失を出したことがきっかけとなって破産してしまったのだ。米連邦準備制度理事会(FRB)の急激な利上げにより、安全資産と言われていた国債の市場にも異変が起きている。世界最大の金融市場である米国の国債市場に現在何が起こっているのか、また、その背景には何があるのか、今回取り上げてみよう。
流動性不足の背景には(つづき)
流動性危機が生じるもう1つの要因として、米国の利上げがもたらしたドル高の副作用がある。
ドルが強くなると、相手国の通貨は弱くなる。したがって、海外の国では外貨が流出しないよう、自国通貨を防御しなければならなくなった。ところが、現在のようなドル高の時期に、ドルで資金調達することは簡単ではない。それより保有している米国の国債を売却する方が早い。日本政府にしても、円安になりすぎた円を防御するため保有していた米国の国債を市場で売却し、そのドルを売って円を買う為替介入を数回やったと言われている。問題は、このように、今まで米国の国債を多量に保有していた日本や中国などが外為市場でのドル売り介入の原資を調達するために米国債を市場に売却し、米国債の供給を増やしていることなのである。
国債市場のなかで最も大きな買い手であったFRBと日本銀行が市場から引き上げつつあることは、買い手不在の一因となっている。インフレとの戦争に突入したFRBも、量的縮小の度合いを強めている。それによって、米国の国債市場では深刻な流動性危機が危惧されているというわけだ。コロナの真っ只中にあった2020年3月、流動性は危機的な低水準を記録したが、現在はその2020年3月をも上回る流動性不足が起きているとの指摘が多い。実際、ブルームバーグの米国債の流動性指数は、コロナウイルス感染拡大が始まった2020年第一四半期以降最高値を記録している。数値が高いほど、流動性は低いようだ。
このように流動性が低下すると、市場のボラティリティが高まり、大きく値が動くことにつながる可能性は高くなるが、このボラティリティの増大が一段の流動性低下につながるという悪循環をもたらす。
現在の流動性問題は、価格変動が激しいことに加えて、買い手が不在であることが原因だ。それに、金融市場における売買は米国債を媒介にして行われることが多い。国債が金融取引において担保の役割をはたすからだ。国債の流動性が落ちると、担保としての国債の価格も下がることになる。担保の価値が下がると、追加の担保を提供せねばならなくなり、金融市場はますます収縮する。米国の利上げは経済成長を阻害するだけでなく、このように金融システムの安定を脅かすような要因ともなっている。利上げをしなければ物価を抑制することができないが、利上げを続行すると景気の冷え込みと金融不安につながるのだから、米国の通貨当局の悩みも深いだろう。
世界最大の金融市場で、安全とされていた国債市場の動揺には、米国の関係当局も神経を尖らし、推移を注視している。昨年11月頃、流動性危機が噂されていた米国の債権市場は、今のところ落ち着きを見せているものの、今度どのような展開になるのか誰も予測できない。米国の利上げで多くの新興国がデフォルトの危機に陥っているのも現実である。
(了)
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