大西洋両岸、GAFAMとLVMHの繁栄~奢侈品需要が目安になる(前)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は5月8日発刊の第331号「大西洋両岸、GAFAMとLVMHの繁栄~奢侈品需要が目安になる」を紹介する。ハイテク株価の顕著な立ち直り
総悲観で始まった2023年の米国株式市場の大きな誤算は、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の復活とハイテク株の立ち直りであろう。
コロナ禍以降、突出した技術革新と株価上昇で時代をけん引してきたGAFAMは、2022年はコロナ特需の終焉、スマートフォン需要の頭打ちに加えての急速な利上げにより株価が急落、ブームの時代は終わったかと思われた。しかし、さにあらず、再度出直りが急ピッチである。今年に入ってからの米国株価を見ると、NYダウ指数は1.5%の上昇にとどまっているのに対して、ハイテク主体のナスダックは年初来17%上昇と大きく差がついている。
ChatGPTなどAIの新しい技術が新次元のイノベーションを引き起こすことが見えてきた。GAFAMや半導体などのハイテク株が再び市場をリードし始めている。ChatGPTなどAIに使われる半導体GPUを一手に供給するNVIDIAの株価は一年前の史上最高値から昨年10月にかけて66%の大暴落となったが、その後半年で2.4倍と急回復しているのである。
欧州ブランド・コングロマリットの躍進
一方、目を欧州に転ずると、全くカテゴリーの異なるブランド企業の躍進が際立つ。その代表であるLVMHの株価は年初来で25%上昇して史上最高値の更新を続け、時価総額は4,363億ドル(65兆円)と欧州最大の企業にのし上がった。フランスのLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は世界最大のブランド企業で、全世界で20万人を雇用し、2022年度の売上高は792億ユーロ(11兆円)に上る。
1987年にモエ・ヘネシーとルイ・ヴィトンが合併したことからはじまり、現在ではルイ・ヴィトン、フェンディ、ジバンシィ、ケンゾー、ロエベなどファッションをはじめ、ジュエリー、香水、酒類など幅広いカテゴリーで数多くのブランドを傘下に持っている。
最高経営責任者(CEO)かつ筆頭株主のベルナール・アルノー氏は2023年版世界長者番付において、推定保有資産額が2,110億ドル(約28兆円)とテスラ創業者のイーロン・マスク氏を抜き首位になった(フォーブス誌)。その他、グッチやサンローランなどを抱える仏ケリング、カルティエ、ダンヒル、クロエなどを抱えるスイスのリシュモンなどファッション・ブランド業界の世界3大コングロマリットも好調である。
一見好対照と見える米ハイテク企業と欧ブランド企業の大西洋両岸の躍進をどのように見ればいいのだろうか。実は根底で両者はつながっているのではないか。新産業革命で形成された膨大な価値がブランド品需要となって欧州企業に再配分されている、という構図である。
ドイツの歴史派経済学者ヴェルナー・ゾンバルトはその著書「恋愛と贅沢と資本主義」において、贅沢が需要創造の契機となり、資本主義を発展させてきたと論じた。需要サイドの分析に力点を置いた経済学者の卓見は、欧州ブランド産業の隆盛を現在の資本主義経済の堅調さのメルクマールとして見ることに意義があることを示唆している。
根底で繋がる大西洋両岸企業
大西洋東岸の米国ではインターネット、AIなどの新産業革命が進行し、空前の生産性向上をもたらし、労働投入の必要量を著しく低下させている。また、技術革新はデジタル機器をはじめとする設備機器やシステムの急速な価格低下を引き起こし、企業は減価償却額のすべてを再投資する必要がなくなっている。
GAFAMは巨額の収益を生んでいるが、事業を継続していく上での再投資の必要額は驚くほど小さい。企業部門の生み出す価値の増大はそのまま資金余剰の増加に結びついている。この豊饒ともいえる価値創造は、コロナパンデミックでも資源価格やサプライチェーン分断による物価急騰でも、史上最速と言える利上げ・金融引き締めによっても、殆ど損なわれていないことが、明らかになりつつある。
この豊かな価値創造は、米国においては旺盛な消費を刺激し、広範な雇用機会をもたらすという好循環をもたらしている。金融引き締め下でも企業の求人意欲は強く、大半のセクターで雇用が増加している。4月の失業率は3.4%と戦後最低水準であり雇用ブームが持続している。
しかし他方では、富裕層に蓄えられた所得が一味違う高額品への世界的需要を引き起こしているのである。このような高額消費増大の流れが、日本においては大幅な海外からの観光需要増加をもたらしている。
昨年は、コロナ禍の下での極端な金融緩和が不動産や高級ブランド品、株式などの投機を引き起こしてきたとの批判が高まった。そうした観測にもとづき、金融引き締めが広範なバブル崩壊をもたらすとの警報が多くの専門家から発せられた。
しかし、米国では一年間に合計10回、5%もの最速の利上げが行われたにもかかわらず50年ぶりの低失業が続き、世界的にハイテクと奢侈品や観光など高額消費の需要が依然旺盛なのである。
(つづく)
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