2024年10月04日( 金 )

タイ総選挙 野党が下院で過半数獲得も、王室への姿勢が争点に

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野党が過半数、親軍派は議席大幅減

タイ イメージ    2014年から親軍政権が続いているタイで14日、下院(定数500)総選挙の投開票が行われた。暫定結果が15日に発表され、軍の影響力排除などを掲げる革新系の野党「前進党」が152議席を獲得して第1党、タクシン元首相派の最大野党「タイ貢献党」が141議席で第2党となった。この野党2党で過半数を得たかたちだ。一方、14年の軍事クーデターを率いたプラユット首相の新党「タイ団結国家建設党」は36議席と伸び悩んだ。同じく親軍政権を構成する「国民国家の力党」は前回選挙時の116議席から大幅に議席を減らし40議席にとどまった。

 選挙前の調査(国立開発行政研究院実施)では、既得権益層と結びついた親軍派の支持率が低迷、タイ貢献党が優勢であり、野党による連立政権構想が熱を帯びていたなか、次期首相候補として有力視されてきたのはタクシン元首相の次女で同党の首相候補であるペートンタン氏であった。しかし大方の予想を上回り、前進党が第一党に躍り出たことにより、同党党首のピタ氏が次期首相の最有力候補に擬せられることとなった。前身党の躍進は、貢献党よりも歯切れのよい親軍政権への批判を展開したことが都市部の若者を中心に広く支持を集めたことによるもの。ペートンタン氏もピタ氏と協議をし、連立交渉を行うことで一致した。

 今後、軍の排除を掲げる前進党、貢献党両党により、軍主導の政治からの転換がもたらされるか注目される。

首相指名への高いハードル、上院議員の支持を得られるか

 タイの首相は、総選挙で25議席以上を獲得した政党が推す首相候補から議員の投票で選ばれる。投票権をもつのは今回改選された下院議員500名に上院議員250名を合わせた計750名。つまり首相として指名されるにはその過半数の376名からの支持が必要となる。しかし、連立協議を行っている両党を含む野党6党の総議席数は310議席。現在の上院は14年のクーデター後に設置されたもので、議員は親軍派が多数を占める。首相指名を得るには上院からも一定の支持を得る必要がでてくる。

 そこで注目を浴びている争点の1つ王室をめぐる姿勢だ。タイの刑法は王室への侮辱行為を不敬罪と定めている(同第112条)。前進党はほかの野党と異なり、公約の1つに不敬罪改正を掲げている。前進党の前身である「新未来党」は19年の総選挙で反軍政を掲げ若い有権者の支持を集め、81議席を得ていたものの、20年に政府から解党を命じられていた。それに反発する若者たちが批判の矛先を王室にも向けたところ、不敬罪が適用され逮捕される参加者が続出したという歴史がある。

 前進党が刑法改正を掲げていることに対して、上院議員数名がピタ氏には投票しないとすでに表明している。親軍派議員を懐柔するために選挙で掲げた公約をうやむやにすることは支援者の離反を招きかねない。また、投開票前、貢献党はタイ団結国家建設党とは組まないとしていたものの、国民国家の力党との協力の可能性についてはあいまいにしていた。野党の連立協議が順調に進展しない場合、貢献党が別の連立形態を模索する可能性もないとはいえない。元実業家で42歳と若いピタ氏がどのような政治手腕を発揮し、親軍政治からの転換を実現しうるか、注目される。

【茅野 雅弘】

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