2024年07月16日( 火 )

7月衆議院解散説も浮上 永田町に高まる総選挙の風

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国会 イメージ    通常国会の会期は今月21日までだが、与野党において衆議院解散・総選挙が近いという観測が強まっている。与党内では解散時期をめぐる発言が相次ぐ。一方、野党は対決姿勢を強めており、入管難民法と防衛費増額の財源措置法が大きな山場になりそうだ。

LGBT法は今国会成立の見通し

 6日になって衆議院内閣委員会の与野党筆頭理事は、9日に「LGBTへの理解増進法案」を審議入りすることで合意した。現在、自民・公明両党による法案と、立憲や共産などによる法案、そして維新と国民民主による自公案を修正した法案の3つが提出されている。いずれも内閣提出法案ではなく、議員立法である。いずれも2021年に超党派の議員連盟がまとめた法案を基にしているが、「性自認」の表現の扱いをどうするのかについて意見が分かれている。自民・公明の案は、超党派議連でまとめた性的指向などを理由とした「差別は許されない」との文言を「不当な差別はあってはならない」に変更し、「性自認」についても「性同一性」との表現に変更した。当事者団体や立憲や共産党などは「大きな後退であり、差別の容認」と批判を強めている。

 この法案をめぐっては、伝統的家族観を重視する保守層の強い反対を受け、自民党内では審議の先送りを求める声もあった。しかし、自民党執行部は9日の審議入りし、13日に衆議院本会議で与党案を成立させ、参議院に送る考えで、岩盤支持層といわれる保守層の抵抗を押し切ってでも今国会での成立を目指すのは、岸田首相の意向を踏まえたものとみられる。安倍元首相が存命であれば、法案提出は困難だったといわれており、同性婚やLGBTの人権擁護に反対する旧統一教会との事実上の決別を示すことにもなる。

与党内から出る早期解散の声

 問題は、入管難民法改正案と防衛費増額の財源確保措置法案の行方である。両法案は与野党対決の構図になっている。与党は、入管法に関し、8日の参議院法務委員会と9日の本会議で採決し、成立させる意向だ。一方、本国で迫害を受ける恐れがある人を帰すことは、人権、人道上の問題があると批判も少なくない。防衛費増額の特別措置法は、13日に参議院財政金融委員会で採決し、14日に成立させる見通し。これに対して立憲は、委員長解任決議案や鈴木財務大臣の問責決議案提出などで抵抗していく構えである。

 会期末を控え、与党内からは、今月末までの会期延長を行い、今国会で成立を図るべきとの声が挙がっている。仮に野党が内閣不信任決議案を提出した場合、岸田首相は伝家の宝刀を抜く、つまり衆議院解散のカードを切るのではないかとの見方が根強い。

 それを裏付けるように、3日に自民党熊本県連の大会で講演した茂木敏充・自民党幹事長は「今年の秋に折り返し点を迎える。常在戦場は間違いない」と指摘。岸田首相と距離を置く二階俊博・元幹事長も「いつあっても結構だ。だが、何にもしないのに解散風を吹かせることはけしからんと思っている」と述べ、永田町に広がる解散論をけん制しつつも、茂木氏同様、いつ解散が行われてもおかしくないとの見方を示した。

 早期解散論が言われているのは、首相の地元広島でのG7サミット開催で内閣支持率が上昇したことと、野党第一党の立憲や維新の選挙態勢が進んでいないことが大きい。立憲も野党共闘について、支持団体の連合との関係上、共産党を含めた枠組みに消極的で、兄弟政党といってよい国民民主党との調整も進んでいない。維新は4月の統一地方選挙で、それまでの関西中心から全国に大きく議席を増やしたとはいえ、組織基盤は脆弱で、無党派層の多い都市部以外の地方では厳しい。自民党幹部などから早期解散の声が挙がるのはこうした野党の状況を見透かしているからである。

福岡においても軋む自公連立

 ただ、自民党も楽観視できない。公明党は早期解散に否定的である。統一地方選挙を終えたばかりであるためで、支持団体の創価学会の意向とみられる。

 また、20年にわたり連立を組んできた自民党と公明党は、ここにきて関係がぎくしゃくしてきている。先月25日、公明党は東京の選挙区では自民党の候補者に推薦を出さない方針を決定したが、東京だけにとどまらない。

 福岡においても自民党県連は公明党県本部の統一地方選での対応に強い不満をもっている。公明党は、4月の福岡県議選において、自民党現職で重鎮である蔵内勇夫氏への対抗馬を推薦したことで、改選後の県議会における各常任委員会の正副委員長ポストから外された。自民党県議団が公認以外も入会を認め、単独過半数にもっていったのも、公明党へのけん制とみられる。

 ただ、県議レベルでは対立していても、国会議員となると話は変わってくる。県内11選挙区のなかで手堅い公明票に頼る自民党議員は少なくない。たとえば2区の鬼木誠・衆議院議員は、これまでの選挙において「比例は公明に」と書いたチラシを配るなど、公明党への配慮を欠かさない。公明党とその支持母体の創価学会との関係が薄いのは、8区の麻生太郎元首相くらいである。

 16年の福岡6区補欠選挙の遺恨が残る鳩山二郎氏は、いまだ県連入りが認められず6区支部長になれないままだが、公明党筑後総支部の全面支援を受けており、ある地元の久留米市議(保守系)は「鳩山さんが、学会や旧統一教会など宗教票を押さえてますね」と指摘する。6区は、原口剣生・自民党県連会長の子息が次の衆院選に出るとの話があり、保守分裂になる公算が高い。自民党の一番の問題は、各地でこうした保守分裂の可能性があることだろう。

 いずれにしても、解散権を握るのは岸田首相であり、今後の政局をどう見るのか、国内だけでなく国際情勢も混とんとしている。国民が納得する理由がないまま解散を行えば、自民党は大きく議席を減らす可能性がある。

【近藤 将勝】

関連キーワード

関連記事