【企業研究】持続可能社会実現へ森と木の知見ベースに多方面での展開模索
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住友林業(株)
山林経営、木材・建材の取り扱い、木造住宅の供給など森や木の活用を軸に事業展開を推進してきた住友林業(株)。近年は持続可能社会実現への動きを追い風に、そこから得られた知見を生かし、木造非住宅・大規模建築物の普及など多方面での展開を進めている。
330年以上の歴史を有する老舗企業
住友林業(株)は、住友家(住友グループの前身)が1691(元禄4)年に開坑した別子銅山(愛媛県新居浜市)を起源とする330年以上の歴史を有する企業だ。具体的には当時、銅の製錬に欠かせない薪炭用の木材や坑道の坑木、採掘・製錬に従事していた人々が暮らす家の建築用木材などを調達する「銅山備林」が原点だとしている。
銅山開発により現地の森林が失われたが、1894年に当時の別子支配人・伊庭貞剛(いば・ていごう)氏が「国土報恩」に基づく「大造林計画」を開始。大規模な植林を実施し、今では銅山跡は豊かな山林を取り戻している。同社が現在、木を前面に出しサステナブル経営を展開しているのには、この別子銅山の森林再生の経験がベースとなっている。
上記のような経緯からわかるように、当初は山林経営から事業をスタート。1948年の財閥解体を経るなどし55年に現商名となり、以降、木材の輸入など木材建材事業、木造戸建注文住宅事業などに進出してきた。これら3つの事業が長く同社における屋台骨となってきたが、このうち山林事業では総面積約4.8万ha(国土面積の約800分の1)の社有林をもつ、国内有数の山林経営事業者である。
木材建材事業では国内外から良質な木材・建材を仕入・販売・流通を手がける国内取扱高トップの商社という地位を占めており、住宅事業でも木造戸建住宅分野では国内のトップブランドの1つとして、高い知名度を得ている。なお、木造戸建は2022年12月期に8,300棟を販売。最多で年間4万棟超を販売する同業他社(パワービルダー)に比べ量的にはそれほど多くないが、1棟当たりの平均単価が4,150万円となるなど、高付加価値な住まいを提供する事業者として高い評価を得ている。
23年12月期から「資源環境事業」「木材建材事業」「住宅事業」「海外住宅・建築・不動産事業」「生活サービス事業」の5つのセグメントに分かれ、事業を行っている。このうち、資源環境事業のおいては国内の社有林事業、ニュージーランド・東南アジアにおける植林事業という山林経営に加え、森林アセットマネジメント事業、再生可能エネルギー発電事業なども展開。住宅事業については、注文住宅だけでなく分譲住宅事業、賃貸住宅事業、リフォーム事業、不動産管理・仲介業、外構・造園事業なども行っている。
著しい成長をみせる海外住宅事業
現在、住友林業において最も注力し成長著しいのが海外住宅・建築・不動産事業だ。
セグメント別売上高の推移は【図】の通り。22年12年期の海外・不動産事業は、売上全体の1兆6,697億円のうちほぼ半分となる8,487億円となっている。なかでも、海外住宅事業についてはアメリカとオーストラリア、東南アジアの一部で現地企業をM&Aするなどして戸建住宅を中心に供給を行っており、22年12月期の戸建住宅引渡戸数は1万3,031戸となっている。これは国内ハウスメーカーの海外戸建事業でトップの実績であり、海外で住宅供給を行う住宅企業というカテゴリーでみれば世界的にもトップクラスの実績といえる。また。全1万3,031戸のうちアメリカが1万244戸を占める。2019年時点と少し古い数字とはなるが、米国のビルダーランキングにおいて第10位に相当する規模となるなど、現地での存在感を年々高めている。
近年、日本のハウスメーカーによる海外進出が珍しくなくなったが、実は1970年代に大和ハウス工業(株)や積水ハウス(株)などのプレハブ系ハウスメーカーが取り組んでいたという歴史がある。しかし、各地の文化や風土、供給システムに適した住宅を供給することがかなわず、ほとんどのケースが失敗。再進出は2000年代に入ってからで、そのなかでも住友林業は木材建材事業における商社として海外各国で事業を展開するなかで、国際感覚を有する人材を多数抱えていたことを武器に、03年にアメリカで、2000年代中盤には韓国で戸建住宅事業に乗り出すなど、再進出の口火を切ったハウスメーカーの1つだ。韓国事業については撤退するなど苦い経験も経てきたが、20年前後からはアメリカでの事業を中心に採算ベースに乗るようになり、今ではこの事業分野が稼ぎ頭となっている。
木造による非住宅、高層建築物普及に注力
住友林業の事業でもう1つ特徴的に強化を進めているが、「木化事業」。これもセグメント上で海外住宅・建築・不動産事業に振り分けられている。10年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されるなど、非住宅建築物の木造化、木質化の拡大が国策の1つとなったこともあり事業を本格化した。現在では、商業施設や教育機関、保育施設などの非住宅分野、低層から中層までの木造・木質建築物を供給している。なかでも同社のこの分野における取り組みを象徴付けているのが、木造超高層建築の開発構想「W350計画」だ。
これは東京のど真ん中に、高さ350m、70階建ての超高層ビルを建築する野心的なプロジェクト。もちろん、あくまで開発構想であるが、その高い目標に向かって挑戦することで、国内外における木造・木質建築物のトップランナーになろうという意気込みを示した。構想実現に向けて17年にゼネコンの(株)熊谷組と資本提携しグループ化。木造建築物の大型化とそれにともなう不動産事業の拡大に挑戦するにあたって、熊谷組の技術力やノウハウが必要になると判断したためで、両社は昨年6月、札幌市内で地下1階地上10階建ての耐火木質ビルを着工、23年6月に竣工を予定している。
これは鉄骨造と木造のハイブリッド建築物(7~10階に木質ハイブリッド集成材を使用)だが、海外ではオーストラリア・メルボルンで15階建てすべてを木造とするオフィスビル(NTT都市開発(株)との共同事業)を建設中で、今年12月に竣工する予定だ。木造ビルの建設は、高層化も含め欧米において脱炭素社会実現に向けて建築業界で近年、積極的に技術開発、建設への挑戦が進められるようになってきた。日本のスーパーゼネコンなどを含め参入しているが、住友林業もその一角に食い込もうとしているわけだ。
このほか、特徴的なトピックスとして宇宙分野における木材の活用へのトライアルがある。京都大学とともに昨年3月から「国際宇宙ステーションでの木材の宇宙曝露実験」を実施。木材(ホオノキ)の割れ、反り、剥がれなどはなく、温度変化が大きく強力な宇宙線が飛び交う極限の宇宙環境下で、試験体の劣化は極めて軽微で材質は安定していたこと、木材の優れた耐久性を確認したとしている。24年にはその成果を踏まえ、木造人工衛星1号機を打ち上げる計画だという。それらを通じて、高耐久木質外装材等の高機能木質建材や木材の新用途開発に役立てるとしている。
志布志市の港で木材加工工場など建設
住友林業は山林事業を中心に九州でもなじみのある企業である。その事例の1つとなるのが、鹿児島県志布志市において志布志市臨海工業団地(5工区)の土地売買契約を締結したこと。国産材を活用する木材加工工場とバイオマス発電所の建設を建設し、25年中の操業開始を目指している。工場では、これまで志布志港から丸太のまま輸出されている木材や、間伐材などを付加価値のある製品に加工。国内向けの木材の安定供給、アジアや北米などへの製品輸出を目指すとしている。これにより九州地域の森林資源の競争力を高め、国産材の価値向上・利活用を促進するとともに、バイオマス発電所を含め「サーキュラーバイオエコノミー」を実現し、脱炭素社会に貢献するとしている。
このほか、(株)地域みらいグループ(本社:福岡市)とともに今年3月から、同グループで佐賀市にある「佐嘉酒造」の酒蔵を全面リニューアルする事業に取り組んでいる。前述した木化事業によるもので、約1万m2の敷地に延床面積3,610m2木造4棟・鉄骨造3棟を計画。木造の事務所は天井高約5mで、木質感あふれる執務空間となるほか、滞在時間の長い事務所や酒を長時間貯蔵する蔵など、木の断熱性能や調湿機能が生きるエリアを木造とする。見学ルートや休憩所なども設け、地域の住民の交流拠点とすることで、地域活性化の拠点となる酒蔵とするという。
最後になるが、住友林業は今、住宅事業から得られる利益をベースに、今後成長が期待される木造非住宅、なかでも中高層建築物の普及と場開拓、さらには将来的には宇宙関連事業への進出をも見据えた研究開発、投資を推進するといった、今後の成長へ向けた種まきに余念がない状況である。ただ、たとえば前者を含む山林・木材活用は、時代の要請が強まっているとはいえ、実現には採算面や従事者不足など数々の高いハードルがある。とはいえ、仮にそうした森や木を循環的に活用するウッドサイクル、サーキュラーエコノミーを実現する事業スタイルを確立できれば、ほかにはない強みをもつ企業体に変貌できるし、企業の歴史をさらに延長できるだろう。国内外にこのようなビジネスモデルの確立を志向している企業はあまりなく、そうした観点からも今後の動向が注目される。
【田中 直輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:光吉 敏郎
所在地:東京都千代田区大手町1-3-2
設 立:1948年2月
資本金:500億7,400万円
売上高:(22/12連結)1兆6,697億円
URL:https://sfc.jp/法人名
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