2024年11月14日( 木 )

「戦わずして勝つ」の外交戦略の中国に落とし穴はないのか(1)

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副島国家戦略研究所 中田 安彦

china 今回は、中国の外交戦略について考えてみたい。安倍政権のように中国の台頭を警戒するにせよ、できる限り連携を深めようとする立場をとるにせよ、巨大な中国における激変は日本にも大きな影響を与えかねない。中国がこの世界をどのように理解しているのか。中国の戦略家の意見も紹介したい。

 さて、中国では、景気後退、6月中旬からの株価暴落、そして今月に入っての人民元切り下げ、そして、それと前後しての天津の化学工場での爆発事件など、あまり良くないニュースが続いている。8月上旬には中国共産党党首脳と長老たちが集まって、政治・経済の行方を密室で議論する北戴河会議が北京郊外で開催されている。夏前の米中の「経済・戦略対話」の議論を踏まえて、秋の習近平訪問に備えるのだろうが、どうも経済変動と事件、事故は、習近平政権が実行している反腐敗の政治浄化運動とも連動しているようにも見える。

 中国をめぐっては、今年は大きな動きが2つあった。1つは安全保障をめぐっての問題で、南シナ海での岩礁埋め立てが地域だけではなく国際的な問題になった。もう1つは経済秩序に関するもので、2013年に設立を表明した、アジアインフラ投資銀行(AIIB)とBRICS開発銀行(新開発銀行)が設立されたことだ。3月12日に急にイギリスが参加表明をしたことで、欧州諸国の参加が加速、日米を除いたG7諸国はすべて参加というかたちになった。これまで安全保障関係では米英は歩調を合わせてきた感があり、ここでアメリカを裏切ってイギリスが参加表明したことは大きい。
 イギリスという世界有数の金融都市がワシントンの言うことを聞かないという状態である。これまでイギリスの金融街シティは米ウォール街に従って、言わばそれの勢いに乗っかることで金融業を発展させてきたが、リーマン・ショック以降、とくにオバマ政権になって金融業界への風当たりが厳しくなり、バークレイズやHSBCなどイギリスの主要銀行が巨額の罰金を司法当局に課されるということが相次いでいた。イギリスとしては、独自に人民元経済圏の建設に人民元建て債券発行などの面で協力をすることで、かつての植民地である香港への影響力を残すとともに、中国との関係を維持するという狙いがある。
 もともとイギリスが清国に外交的圧力を掛け、アヘン戦争で清国をボロボロにする前、つまり19世紀半ばより前は、中国が世界最大のGDPを誇っていた。1820年の世界の経済規模は中国、インド、ロシア、イギリスとなっており、ブラジルを除くBRICs諸国が上位3位を独占していたわけだ。だから、中国のポテンシャルは高いということをイギリスは理解しており、「アメリカが中国を抱き込まないならば、俺たちだけで抱き込む」という動きに出た。ドイツなども自動車産業で、フランスも原子力・航空機産業で中国は、大事なお客さまだ。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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