設計から施工まで 重量鉄骨の一貫体制に強み
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松井工業(株)
代表取締役 松井 隆明 氏福岡宇美工場を拠点に関東および関西エリアを中心に、大型・超高層建築物の重量鉄骨の製造工事を手がける松井工業(株)。3代目社長・松井隆明氏に、自社の取り組みや職人不足への対応策などを聞いた。
長年の施工実績を基に、受注基盤を確立
──60年以上の業歴がありますが、大規模建造物の鋼構造物工事を手がけるようになった経緯をお聞かせください。
松井 松井工業(株)は1961年10月に設立した、オフィスなどで利用される椅子やテーブルなどの金物製品をつくる松井スチール家具製作所が前身となります。68年に現商号に変更し、その後、大規模建造物の鋼構造物工事へと主業を転換しました。私が入社したのは99年で、同時に神奈川県にある日本溶接構造専門学校で鉄骨技術を習得しました。というのも、大学での専攻が経済学部国際経済学科で、まったく鉄骨経営と無縁だったからです。
鉄骨というものは、経営上多くのライセンス資格が必要で、自身が取得することで鉄骨製作全体を把握することができます。併せて、今後の国際入札プロジェクトへの参画も視野に入れ、アメリカ溶接協会(AWS)が発行している監理技術者のライセンスも取得しました。こちらを取得することで、国際入札プロジェクトにおいてAWSスペックで建築する鉄骨製作工場の資格を得ることができるようになります。
当社の強みは、鉄骨製造の設計から切断、溶接、検査、塗装まで一貫して行うことができることです。90年に宇美町に工場と社屋を新設し、一般的な建築鉄骨製造工場の多くが外注している切断や孔あけなどの一次加工のすべての工程をトータルで対応できる体制を整えました。この一貫体制を実現することができているのは、建築士および鉄骨制作管理技術者、製品検査技術者、溶接管理技術者および技能者などのプロフェッショナルな人材が従事しているからです。また、当社の工場は高規格鋼材に製作対応可能なHグレード認定を取得しており、再開発案件などのビッグプロジェクトへ参画しております。
営業エリアは、福岡から関東へ
──近年、関東からの受注が増えていると聞いています。
松井 もともと、福岡県を中心に九州沖縄から関西地区が主体でしたが、私が専務取締役就任後に、東京方面へ営業エリアを拡大したことが今につながっています。人口が集中するため、再開発にともなう超高層案件が多いこと、また国内最高レベルの鉄骨製作管理が求められることなどが、関東地方の魅力でしたね。公共性の高い再開発計画は、民間投資案件に比べて計画が延期、中止される可能性が低く、安定的に受注計画ができます。今では、関東地方への製造が9割ほどになっています。というのも、地方の案件と比べて、関東地方では早期段階にオファーが来るなど、計画自体が早めに行われます。それにより、自社の製造計画自体も組みやすくなり、自ずと関東地方の受注高が増えていきました。
──関東にも同業他社がいたと思いますが、受注高を増やしている要因は何でしょうか。
松井 やはり、当社の基軸となるキーワード、「安全、品質、納期厳守」の徹底です。クオリティ管理やあらゆる鉄骨のタイプへの対応力に加え、どうしても重量物加工・製造になりますので、重量物をつり上げる設備や大規模な敷地を持つ工場が全国に限られています。当社は、最新鋭の設備を備え、顧客のニーズに沿うよう、鉄骨加工の流れに合わせた合理的な生産ラインを組んでいますので、過去の実績をみてオファー先にピックアップされていると思います。
また、鉄骨製作に必要となる鉄骨製作図面の対応能力が高いこともオファーにつながっていると思います。各高規格の鋼種の製作にも対応できます。関東では使用する鋼材のスペックが地方よりも高いため、施工試験を受け合格して採用してもらっています。日本のメーカーは次々に新しいスペック規格の鋼材をリリースしてくるので、それに対応できる管理施工能力を常に持ち続けています。
職人不足を補うため、担い手を育成
──九州職業能力開発大学校の非常勤講師を務められています。
松井 日本の大学・専門学校では、コンクリート造建築物や木造建築物についての授業はよく行われていますが、鉄骨造に関しての教育プログラムがなかなか浸透していないようで、鉄骨造を教える講師や環境が整ってないように思います。ですので、鉄骨製作を把握している現役の私に非常勤講師の声がかかってくるのではないでしょうか。講師という立場ではリクルートはできません。ただ、少しでも多くの学生に鉄骨製造に対して興味をもっていただければと思い、今でも非常勤講師を務めています。
また、新卒入社の社員たちの負担を減らそうと、奨学金の代理返済も今年から導入しました。最大240万円で、毎月2万円を代理返済するというものです。
──職人不足への対応は、どのように考えられていますか。
松井 長く事業を続けていくうえで、やはり人材が重要となります。機械化できる工程には限界があり、残りはどうしても人による作業が必要となります。しかし、日本人だけで賄おうとすると、なかなか難しい時代になってきました。当社は17年ほど前に中国・大連からの実習生を採用しており、同業者のなかでも取り組みは早かったほうだと思います。現在は、ベトナム、ミャンマー、インドネシアなどから6名、意欲に満ちたエンジニアおよび技能実習生を受け入れています。今後、18名から22名位の採用を考えており、新たな社員寮建設も計画しています。
──建設業界でも近年、女性職人が増えています。
松井 そうですね。ただ、当社の場合は現状、工場内での女性作業員はいません。しかし、関連会社には在籍しています。11年に鉄骨設計、積算、品質管理などの業務を専門的に請け負う関連会社(株)M.S.Eを設立しました。鉄骨をつくる際に図面・設計図が必要になります。そこには、外国人実習生を含めた女性エンジニアが多数在籍し、女性ならではのきめ細かな図面設計をしてもらっています。
──最後に、これからの貴社の取り組みをお聞かせください。
松井 現在の建設業界は職人の高齢化とともに職人不足が慢性化しています。当社も例外ではありません。業界において機能分担可能な部分はアウトソーシングし、当社にしかできない部分の付加価値を高めていき、日々進化する建築技術に対応していきます。
【内山 義之】
<プロフィール>
松井 隆明(まつい・たかあき)
1977年1月、福岡県大野城市出身。西南学院大学経済学部国際経済学科卒。99年、松井工業入社。品質管理部、営業部を経て、2007年に専務取締役に就任。15年、代表取締役社長に就任。趣味はスポーツ観戦。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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