2024年12月22日( 日 )

バイデノミクスとレッセフェールの死衰(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は7月11日発刊の第336号「バイデノミクスとレッセフェールの死~米中対立が惹起する 40 年ぶりのレジームの転換~」を紹介する。

(3)脱中国依存供給網の緊急性

クリーンエネルギーで中国圧倒的存在感

 一見IRA法は環境投資に焦点を当てているように見えるが、実は中国が圧倒的に強いクリーンエネルギー関連製品をブロックする仕組みとなっているといえよう。中国はスマートフォン、PCなどのエレクトロニクス製品のみならず、環境・グリーンエネルギー・EVなどの分野においても圧倒的存在感を持っている。

 「太陽光発電設備の国別導入量では中国は世界一だが、太陽光パネルの材料であるウェハーの世界シェアは96%。セルのシェアも78%ある。モジュールのシェアは73%で、世界の太陽光パネルのほとんどは中国製部品に依存している。風力発電設備については、やはり中国が世界最大の導入国であり、風力部品のナセル、タワー、ブレードの中国の製造能力の世界シェアは5~7割に上っている。」(Wedge ONLINE 6月22日 山本隆三氏)

図表9、図表10、図表11

EVでの中国優位はさらに圧倒的

 また、中国はEVが主流になるということを見越し、いち早くEVに補助金を与え、世界で最も積極的にEVの普及を進めてきた。IEA(国際エネルギー機関)によると2022年のEV(BEV+PHEV)販売台数は、中国590万台(前年比80%増)、米国99万台(55%増)であり、中国は世界のEV販売台数の60%近くを占めている。その結果、テスラを除いて世界の主要EVメーカーのほとんどを中国が占めるようになっている。EV最大手の比亜迪(BYD)の2023年1~6月のBEV販売台数は61万7,000台(90%増)とテスラの88万9,000台に肉薄している。

図表12、図表13

 2023年第1四半期において、中国が日本を抜き世界最大の自動車輸出国になった。上海汽車集団(SAIC)や比亜迪(BYD)などの中国企業のみならず、テスラ、BMWなど他の外国メーカーも、中国を輸出EVの製造拠点として活用し始めている。テスラの上海ギガファクトリーでは2022年の生産台数は71万台に上っている。VWはまた、約10億ユーロ(約1,470億円)を投じて中国にEV開発・調達センターを建設することを発表した。今やEV生産において初期投資の累積額が中国に集中し、EVのエコシステムが充実していることが背景にある。

中国で形成されたEVエコシステム

 中国は、EVのエコシステムとしてのバッテリーおよびバッテリー部品生産、バッテリー素材メタルの資源確保と精錬など川上分野でも、過半のシェアを押さえている。バッテリーメタルの埋蔵量はチリ、アルゼンチン、コンゴ、インドネシア、オーストラリア、ブラジルなどに集中しているが、中国はいち早く上流益を押さえることで、精錬においては圧倒的シェアを確保している。

 こうしたEV化における中国の規模のメリットに対して、日独米の自動車メーカーは大きく遅れを取ってしまうという可能性が出てくる。EV化が急進展している欧州では、中国の急速な浸透を抑えるために、2035年の100%EV化の旗を降ろした。こうした趨勢の中で、米国産のEV、バッテリーのみに補助を与える米国IRAは、中国メーカーの米国参入に対する大きなブロックとなるだろう。バッテリーを米国生産しているパナソニックはその恩恵をフルに享受しており、設備投資を急増させている。稼働中のネバダ州に続いてカンザス州、オクラホマ州でも工場建設を計画し、現在の50GWから2028年には150~200GWへと能力を増強する。

図表14、図表15

(4)米国で起き始めた産業投資の波

 CHIPS法、IRAの施行によって米国産業に大きな変化が起きている。図表16に見るように、2023年に入って米国での製造業建設投資が急増している。また図表17はSEMI(国際半導体製造装置材料協会)の推計による半導体設備投資の各国別推移であるが、2023年前半をピークに中国が大きく減少する一方、米国の突出した伸びが想定されている。海外製品に押されてきた米国産業機械市場が大きく飛躍する場面に入った可能性がある(図表18参照)。

 以上のような積極的財政支出が、厳しい金融引き締めにもかかわらず米国の好景況を維持させている一因である可能性もある(図表19、20参照)。

図表16、図表17、図表18、図表19、図表20

(了)

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