2024年12月24日( 火 )

不動産の国庫帰属制度

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
岡本弁護士
岡本弁護士

 本誌41号(2021年10月末発刊)で紹介しておりました「相続土地国庫帰属制度」が、今年4月27日から開始されましたので、改めてご紹介いたします。

 同制度は、相続または遺贈により土地を取得した所有者が、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を求める制度です。相続などにより取得したことが要件ですので、売買などで自ら取得した不動産は対象外です。また、本制度開始前に相続などによって取得した土地についても対象となりますので、数十年前に相続した土地についても対象になります。

 ただし、どのような土地でもこの制度を利用できるわけではなく、土地の管理コストを不当に国に転嫁することなどを防止するために、「通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地」に該当しないことを国庫帰属の要件にしています。具体的には、次のような土地は国庫帰属の承認はされません。

1.申請の段階で直ちに却下される土地
①建物の存する土地
②担保権または使用および収益を目的とする権利が設定されている土地
③通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
④土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地
⑤境界が明らかでない土地その他所有権の存否、帰属または範囲について争いがある土地

2.審査の段階で該当すると判断されると不承認となる土地
⑥崖(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5m以上のもの)がある土地のうち、その通常の管理にあたり過分の費用または労力を要するもの
⑦土地の通常の管理または処分を阻害する工作物、車両または樹木その他の有体物が地上に存する土地
⑧除去しなければ土地の通常の管理または処分をすることができない有体物が地下に存する土地
⑨隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理または処分をすることができない土地として政令で定めるもの(袋地など)
⑩その他、通常の管理または処分をするにあたり過分の費用または労力を要する土地(土砂の崩壊、地割れ、陥没、水または汚液の漏出その他の土地の状況に起因する災害が発生し、または発生する恐れがある土地など)

 申請時には、審査手数料として土地1筆あたり1万4,000円の審査手数料が必要です。また、承認申請が認められると10年分の管理に要する費用(負担金)の納付が必要となり、負担金を納付したときに、土地の所有権が国庫に帰属します。なお、負担金は原則20万円ですが、一定の土地は面積に応じて算定されます。たとえば市街化区域の宅地は、200m2で79万3,000円になります。

 以上の通り、承認要件のハードルが高く、利用できる場面は限定的かもしれません。また、申請から帰属の決定までの標準処理期間は8カ月と想定されており、相応の負担金も発生します。

 新たな制度ができることで、選択肢が増えることになりますが、土地を手放す方法としては、売却できることもあります。また、所有者が代金を支払って土地を引き取ってもらう、土地引き取りサービスを展開する不動産業者もおりますので、土地を手放す方法については十分ご検討ください。なお、引き取り業者にとっては、不要な土地を手放すことに注目が集まっている今は、ビジネスチャンスかもしれません。


<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所

所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/


<プロフィール>
岡本  成史
(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事