2024年12月22日( 日 )

岸田首相の中東3カ国歴訪と日本のエネルギー危機回避策(前)

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、8月4日付の記事を紹介する。

サウジアラビア ジェッダ イメージ    このところアラブ中東の世界をめぐる動きには目まぐるしいものがあります。今月上旬には、サウジアラビアのジェッダにおいてウクライナ和平案検討会議が開かれる予定です。

 戦争の終結について先の見通せないなか、ウクライナのゼレンスキー大統領は自らが提案した10項目の和平案を中東諸国に限らず、欧州やアフリカなど30カ国の代表団を前に直接説明し、支持を得ようと目論んでいます。先にサウジアラビアとイランが長年の対立関係を中国の仲介で解消したことにヒントを得たようです。

 ウクライナからの穀物輸出が滞っているために、中東やアフリカ諸国は厳しい食糧危機に直面しています。そうした状況を改善するためにも、ウクライナ戦争の一刻も早い停戦が求められているわけです。

 ゼレンスキー大統領はサウジアラビアを筆頭とする中東諸国を味方につけ、ロシアへの圧力を強めたいと考えているに違いありません。

 そうした動きと連動するように、岸田首相は7月16日から3日間にわたり、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールの3カ国を弾丸ツアーで飛び回りました。

 これら3カ国は日本にとって化石燃料の大口輸入元です。何しろ、サウジとUAEだけで日本の原油輸入の7割以上を占めています。カタールからは原油に加えて液化天然ガス(LNG)も大量に輸入しているのが日本です。ウクライナ戦争が勃発して以来、ロシアからのLNG輸入の安定供給には黄色信号が灯るようになりました。

 加えて、ウクライナ戦争がアジアに飛び火し、台湾有事となれば、中東からのエネルギー輸送のシーレーンが途絶える危険性も無視できません。そうなれば、日本経済は未曾有の危機に陥ることになります。

 何としても、ウクライナ戦争の早期終結とアジア正面における危機回避策を推進せねばなりません。そのためにも、アメリカ一辺倒から脱却し、ロシアや中国とも太いパイプを形成しつつあるサウジアラビアなど中東諸国との関係強化が日本政府には求められます。

 これまで、それほど重要なエネルギー供給源であった中東諸国ですが、日本の首相が訪問したのは2020年1月以来のこと。中東諸国からすれば、先の広島でのサミットにも招かれず、「2050年カーボンニュートラル」政策を打ち出し、脱化石燃料政策を進める日本には不信感が高まっていたフシも見受けられます。

 というのも、日本政府は2021年10月の閣議決定で、「2030年には2013年比で炭素排出量を46%削減する」方針を定めているからです。原油も天然ガスも削減すると大見えを切ってきたのが日本でした。

 しかし、ウクライナ戦争の影響もあり、エネルギー価格の急騰という想定外の事態に直面し、改めて中東諸国との関係改善を余儀なくされたという次第です。それまでサウジアラビアとも安全保障を含め強力な信頼関係を維持していたアメリカは、自国内でシェールガスが発見されると、手のひら返しのように、サウジとの関係を冷却化させてしまいました。

 日本はアメリカの後ろ盾をテコに中東諸国との関係を維持してきたのですが、今後は独自の路線を開拓する必要に迫られているわけです。しかも、日本が脱炭素化を打ち出し、カタールからのLNGの輸入契約の更新を不用意に打ち切ってしまった後、中国がそれまでの日本以上に大量の輸入契約を勝ち取るという素早い反応を見せています。

 これでは、日本の立場は危うくなるばかりです。そうした危機感から、「新たな中東外交」を掲げ、首相就任後初となる中東3カ国歴訪に臨んだ岸田首相ですが、その成果はあったといえるのでしょうか?

 今回の訪問には100社を超える日本企業や政府関係機関のトップからなる経済ミッションが同行しました。遠くない将来、脱炭素化に舵を切らざるを得ないだろう中東諸国に対して、日本の誇る先端的なグリーンエネルギー技術や環境・医療分野での技術移転を促すため、サウジとだけでも両国の企業間で50本を超えるビジネス上の覚書が交わされたとのこと。

 こうした民間企業同士の多面的なプロジェクトこそが、日本と中東諸国との信頼関係を縁の下で支えることになるはずです。その意味でも、今回の岸田首相の中東訪問によって、日本と湾岸6カ国が加盟する「湾岸協力会議(GCC)」との間で自由貿易協定の交渉が2024年に再開することが決まったことは何よりも前向きな成果だったといえるでしょう。

  次号「第352回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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