2024年11月14日( 木 )

元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書・ニューヨーク編(6)

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日本ビジネスインテリジェンス協会
理事長 中川 十郎 氏

スウェーデン・ルンド大学デジエル博士との運命的な出会い

デジエル博士(右端)。左端が著者

 苦労して翻訳し、1990年9月にダイヤモンド社から出版した『CIA流戦略情報読本』の著者H.E.マイヤー氏(元米国国家情報評議会副議長、ウィリアム・ケーシー元CIA長官直属補佐官、元「フォーチュン」誌副編集長)から、「10月にパリで世界情報会議を開催する。日本代表として参加し、日本総合商社のビジネスインテリジェンス活動について講演してほしい」との要請があった。パリではベルリンの壁崩壊で情報に対する関心が沸き立っていた。

 講演で私の「情報逓増理論」を発表した。その情報理論とは、「情報は物と違い、相手に与えてもなくならない。逆に相手からも情報を貰えるので、情報を与えることにより手持ちの情報は増える」というものである。参加者はこの理論に非常に興味をもったようである。

 一番前の席で聞いていた初老の参加者が手を挙げた。「この情報逓増理論は独創的で非常に感銘を受けた。自分はスウェーデン・ルンド大学大学院でビジネスインテリジェンス講座を担当している。この講座で貴殿の情報逓増理論を“中川情報理論”として紹介したい。了承してほしい」とのことだった。昼食時になると、意見交換しようと自分の席に筆者を誘ってくれた。

 この初老の参加者こそ、ステバン・デジエル博士であった。72年に世界で初めてビジネスインテリジェンス研究講座をルンド大学大学院に開講した、経済経営情報研究における第一人者であると後でわかった。

 「一度ルンド大学に招聘するので、中川情報理論と日本の総合商社の国際的な情報収集、活用法について詳しく大学院生に講義してほしい。日本のNEC小林会長のC&C理論(コンピューター通信理論)に関心をもっており、日本の情報産業にはかねてから関心をもって研究している」とのことだった。翌91年4月、ルンド大学での筆者の講演が実現した。

 92年2月にはデジエル博士が遠路はるばる日本を初訪問。日本ビジネス競合情報専門家協会発会式で「ヨーロッパにおける競合情報とその管理」と題した基調講演をしていただいた。

 この出会いが、筆者のその後の情報研究でデジエル博士に一生お世話になるきっかけとなった。デジエル博士の紹介で筆者は、北京、香港、シドニー、チリ、クロアチアなど、世界各国での国際情報会議に講演者として招聘され、世界のビジネス情報研究者との人脈確立のお手伝いをいただいた。デジエル博士から何度か、故郷の風光明媚で世界的に有名なクロアチアのドブロニックの別荘に招待されたが、実現しないうちに博士が2004年、94歳で逝去されたことは誠に心残りであった。

 筆者が国際経済経営情報研究のため、米コロンビア大学に2002~03年に留学したのを機に、ルンド大学の情報学名誉博士号を授与するので論文を執筆するようにとのことで準備中であったが、デジエル博士の急な逝去で名誉博士号が幻となったのは誠に残念であった。

(つづく)


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。

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