岸田首相の「大きな声を」聞く力
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NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のメルマガ記事を抜粋して紹介する。今回は、リニア新幹線の危険性とその建設中止を訴える8月21日付の記事を紹介する。
リニア中央新幹線についてJR東海の意向を受けたヒステリックな主張ばかりが喧伝されるなかで冷静なオピニオンが掲載された。ルポライターの昼閒たかし氏による論考。「リニア工事見通し立たず地元民が懸念する「丹那トンネルの二の舞」という現実、水源枯渇の歴史と川勝知事の正当性とは」。https://x.gd/Zbal8
しかし、記事公表直後から同記事を検索するのが困難になっている。ニュースポータルサイトの記事配列の影響であると推察される。ネット上の情報空間には静岡県の川勝平太知事を攻撃するヒステリックな主張が多く掲載される。市民はメディア情報空間が「カネの力」で著しく歪められていることを知っておく必要がある。
リニアはJR東海が政治力で強引に推し進める合理性を欠く事業。安倍内閣は合理性を欠くこの事業に3兆円もの国費投入を決定した。こうした背景から正論がかき消され、リニア建設を強行するための暴論が情報空間にまき散らされている。この問題を冷静に論じた重要文献がある。
神戸大学名誉教授の石橋克彦氏の著書『リニア新幹線と南海トラフ巨大地震「超広域大震災」にどう備えるか』(集英社新書)。https://x.gd/m390G書籍紹介に次のように記載されている。
「政府の地震本部が「30年以内の発生確率が70~80%」とする南海トラフ巨大地震。その震源域は広大で、沿岸部のみならず内陸も激しく揺れる。活断層の密集地帯を走るリニア中央新幹線は無事でいられるだろうか? リニアは既存の新幹線より脆弱で、大部分が地下トンネルのため避難は困難をきわめる。そして、新たな複合災害を誘発する可能性が高い。地震学の知見に基づき、その危険性を警告する!」
石橋克彦氏は東京大学理学部地球物理学科卒業の地震学、歴史地震学を専門とする学者。原子力安全委員会専門委員、国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会委員などを歴任。著書に『大地動乱の時代──地震学者は警告する』(岩波新書)、『原発震災──警鐘の軌跡』(七つ森書館)、『南海トラフ巨大地震──歴史・科学・社会』(岩波書店)などがある。
上掲書の第1部タイトルは「リニアは地震に耐えられない」、第2部タイトルは「ポストコロナのリニアは時代錯誤」。長周新聞が同書についての詳しい解説をネット上に掲載されているのでぜひご参照賜りたい。https://www.chosyu-journal.jp/review/21362
リニア新幹線は、路線の9割近くをトンネルが占める。M7前後以上の地震が起こると、トンネル内でズレ破壊が生じる。時速50㎞で走行する列車は緊急停止をかけても止まるまでに約70秒の時間がかかる。地震発生と同時にトンネルと列車がある幅で切断される。
数mの段差が生じるだけでなく、隆起側が沈降側にのし上げるかたちになる。列車はちぎれ、砕かれ、一部が大地にくわえ込まれることになる。救助隊がトンネル坑口から入っても全車両が破壊されて散乱し、大量出水により現場に近付くことさえ困難になることが想定される。上記の事態想定も非現実的でないという側面がある。
日本は世界最大の地震国。日本列島の地下で4つのプレートがせめぎ合う。プレートの境界が巨大活断層であり、巨大地震はこの接合面で発生することが多い。地上での事故であれば救出作業を行えても地下深いトンネル内でのトンネル破壊、列車破壊では救出活動も困難になる。現在の新幹線で品川-名古屋間に要する時間は87分。これが40分になることにどれだけの意味があるのか。
東海道新幹線不通時のバイパスが必要なら北陸新幹線の延伸を急ぐ方が賢明だ。冒頭に紹介した昼閒たかし氏の論考は丹那トンネル建設による湧水枯渇の事実を冷静に振り返るもの。静岡県の川勝平太知事がリニア建設による大井川水系の水流出を危惧する見解を再三表明している。
JR東海ならびにリニア利権と結びついていると見られる勢力がヒステリックな川勝平太知事攻撃を展開しているが、川勝知事の懸念表明は歴史的経緯を踏まえれば極めて順当なものといえる。東海道本線の熱海駅と函南駅の間にある丹那トンネル。隣には新幹線の新丹那トンネルも掘削された。御殿場線を経由する東海道線ルートを一気に短縮化したトンネルとして知られている。
しかし、丹那トンネル建設が、地域の水源を枯渇させ、産業を破壊するという弊害ももたらしたという事実がある。リニア建設においても同じ排水方法が使われる可能性が高いため、「大井川の水がなくなる」ことが深刻に懸念されている。日本経済を取り巻く環境は急変している。
巨大地震に対する備えを本格化しなければならない時期が到来している。このような局面で原発稼働にのめり込む、リニア建設を強行するのは「愚か者」と指弾されて反論できない。リニア建設中止に向けて日本の主権者が「大きな声」を発すべきだ。
続きは8月21日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「リニアに必要な『引き返す勇気』」で。
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