2024年07月16日( 火 )

米国繁栄、中国衰弱の二極化が始まった(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は8月22日発刊の第338号「米国繁栄、中国衰弱の二極化が始まった」を紹介する。

米経済の驚くべき強さ

 米国経済の驚くべき強さは特筆に値する。40年間で最大の引き締めにもかかわらず、リセッションの気配がまったくない。IMFによる米国経済の2023年見通しは2022年7月時点で1.0%であったが、その後3カ月ごとの改定の度に上方修正され、2023年7月時点では、1.8%に引き上げられた(図表1参照)。

 しかし実際は、2023年1Qは2.0%、2Qは2.4% と事前予想を上回る結果であり、アトランタ連銀の経済予測モデル ”GDP Now” よる3Q予想は5.0% と一段の加速を見込む。最大の牽引車はGDPの7割を占める好調な消費である。消費者心理が改善し小売売上など消費需要が強まっている。消費好調の背景にはコロナ禍時代に積み上がった貯蓄の取り崩し、政府の社会保険支出増などもあるが、最も大きな要因は、雇用が堅調で家計の賃金収入が増加し続けていることである(図表2参照)。

 雇用は過去の利上げ局面である2000年のITバブル崩壊時や、2008年のリーマン・ショック時とは大きく異なり、情報を除く全産業で力強く増加している(図表3)。かつてない「消費増<=>雇用増」の好循環が成立しているようである。それを支えているものが、堅調な企業収益、抑制されている労働分配率(図表4)、増加が続く企業部門のフリーキャッシュフロー(図表5)である。政府による社会保険支援増額、さらにChips法、IRA(インフレ抑制法)による産業支援など財政需要増加も寄与している(図表6,7)。

インフレ鎮静化から利下げが視野に、
長期金利上昇は今がピークか

 焦点のインフレは、CPIが2022年6月の9.1%から今年7月は3.2%に急低下した(図表8)。インフレ要因を分析すると、エネルギーおよびサプライチェーン寸断による財・食品のインフレがほぼ沈静化しており、今最も燃え盛っている住居費(帰属家賃)も、それに12カ月程度先行する住宅価格が低下に転じているので、1年後には2%以下に収斂していくだろう(図表10)。

 焦点の賃金上昇率は平均時給(AHE)が前年比4.4%と下落ペースが鈍くFRBを心配させている。しかし、(1)最近の上昇をけん引してきた低賃金労働者(生産・非管理労働者)の伸びが急鈍化していること、(2)高賃金労働者(プロフェッショナル・管理労働者)の伸びは低く、かつ機械化によるリストラで上昇に歯止めがかかるとみられること(図表9)、(3)新産業革命による生産性上昇により賃金上昇のすべてを価格転嫁する必要はないこと、などのポジティブな面も指摘できる。FRBはこれ以上の利上げを我慢するだろう。

 となると、いずれ利下げが視野に入るだろう。利下げには供給力投資を強めインフレ圧力を引き下げるという側面がある。住宅価格抑制には、利下げによる住宅供給増加というチャンネルが有効である。また、賃金抑制には利下げが設備投資増加を通して労働代替・賃金下落圧力を生むというチャンネルが期待される。

 ジャクソンホールのコンファランスでは、利下げの合理性も議論のテーマとして浮上するかもしれない。米国長期金利は名目4.26%、実質1.93%の先週末がピークかもしれない。(1)今後の景況感、(2)インフレ圧力、(3)利上げ圧力、のいずれもが金利低下に作用する。2024年にかけては利下げから始まる株高も見込み得る情勢といえる。

 現在の米国では、過剰供給力が放置された1930年時代の大恐慌時と異なり、新産業革命による生産性の向上(=供給力の増加)が旺盛な需要創造でカバーされるという好循環が起き始めている、と考えられる。

(つづく)

(後)

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