2024年12月22日( 日 )

IR誘致の問題点と今後の見通し(前)

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運輸評論家 堀内 重人

 大阪府と大阪市は、2025年の大阪万博が終了した後の夢洲に、統合型リゾート施設(以下、IR)の誘致を目指している。今年4月に国交相の認定を受けた「区域整備計画」によれば、2029年の秋から冬頃の開業を考えているとのこと。IR誘致には横浜市、東京都、和歌山県、長崎県も関心を示してきたが、横浜市は誘致計画を白紙撤回、東京都は現在様子見の状態である。和歌山県は議会の反対を受けて計画が中断し、国への申請すら行っていない。現時点で国にIR誘致を申請したのは大阪府・大阪市と長崎県だけであり、長崎県は認定が得られていない。本稿ではIRの問題点を整理し、今後どのような姿勢で臨むべきか、読者とともに考えたい。

大阪IRの概要

大阪湾 人工島 夢洲 ゆめしま イメージ    大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)内の約49万m2の市有地に、大阪IRは計画されている。そこでカジノが設けられるほか、コンベンション機能として国際会議場や展示場、さらには3つの大型ホテルが建設される。また、3,500人が収容可能な劇場なども計画されている。

 これら施設の合計延べ床面積は、東京ドーム(4万6,755m2)の15倍もの広さとなる約77万m2。大型ホテルは全客室の20%以上をスイートルームとするなど、高級路線を目指しており、海外の富裕層をターゲットとしている。

 事業者は、米MGMリゾーツ・インターナショナルと日本のオリックスを中核とする共同企業体である。規模の大きい建物をいくつも建設することから、初期投資額は約1兆800億円と巨額だが、その51%に当たる5,500億円は融資で調達する。すでに三菱UFJ銀行や三井住友銀行から融資を確約する「コミットメントレター」を受け取っているほか、同2行を中心とする協調融資団が組織されている。残りの約5,300億円については、MGMとオリックスが40%ずつ出資。さらに1,000億円強を、関西企業を中心とする20社(※)の出資を仰ぐとしている。
(※)岩谷産業、NTT西日本、大阪ガス、大林組、関西電力、近鉄グループホールディングス、京阪ホールディングス、サントリーホールディングス、JR西日本、JTB、ダイキン工業、大成建設、大和ハウス工業、竹中工務店、南海電気鉄道、日本通運、パナソニック、丸一鋼管、三菱電機、レンゴーの20社

 想定されている来場者数は年間2,000万人。これにより、近畿圏に年間1兆1,400億円の経済効果が期待できるとしている。カジノは民間の事業者が運営するが、その売上に対する納付金や入場料(USJ並みの数千円に設定されるとのこと)などを通じて、府と市は毎年1,060億円の収入を見込む。なお、この収入は夢洲周辺の整備や子育て支援などに充てるとしている。

懸念される土壌汚染、そして地盤沈下

 だが、夢洲でのIR整備については、安全性を懸念する声がさかんに上がってきた。

 夢洲はかつて産業廃棄物の保管場所でもあった。実際、予定地の周辺で猛毒のヒ素やフッ素化合物による土壌汚染が確認されている。汚染残土の処分などの環境対策費として、大阪市が790億円を負担することが決まっているが、その財源は起債で賄うことになる。

 そもそも夢洲は埋め立て地である。ボーリング調査の結果、液状化の恐れのある層が敷地内の地中なかに存在することが判明している。事実、夢洲では地盤沈下が激しく、大阪市環境局の職員は土壌汚染よりも地盤沈下の方を心配しているほどである。

横浜市を断念させた、カジノの「負の効果」

 横浜市もかつてはIR誘致に積極的姿勢を示していた。山下埠頭の一角にIRを整備する構想で、2つのグループから提案があったという。IRの旗振り役だった菅義偉前首相のお膝元ということもあり、横浜市のIR誘致は確実と目されていた。

 そんな横浜市も、IR反対派の山中竹春市長の誕生で状況が一変、誘致計画は白紙撤回された。IRの出現によって治安が悪化するのではないか、何よりギャンブル依存症──これに陥った人は借金を重ねる傾向にあることから、しばしば家庭崩壊を引き起こす──が増加するのではないかと懸念する声が、市民からさかんに上がっていたからである。

 横浜市としても、カジノのこうした「負の効果」は無視できなかったとみえる。撤退の理由としては、地元企業の協力が十分でなかったなどと言いつつ、あくまでも資金面での事由を強調しているが、「誘致ありき」で進められ失敗に終わった韓国のカジノ「カンウォンランド」の事例を研究しており、カジノに滞在する時間や使用できる金額を制限するなど、ギャンブルによって生じるさまざまな弊害を防ぐ手立てを模索していた。ギャンブル依存の危険性を訴える啓蒙活動の展開も考えていた。だが、「横浜市はきちんと対策を講じてくれるのか」という市民の不安は払拭できなかったようだ。

 横浜市の撤退は、隣の東京都にも影響を与えた。観光産業の活性化など、期待されるIRの経済効果にもまして、ここでも治安の悪化やギャンブル依存症の増加、さらには子どもの教育への悪影響が問題視され、「様子見」となったのだ。

 また、東京都ではIR誘致を港湾局が担っている。整備されるとすれば、土地を取得しやすい湾岸エリアになることが予想されるからだが、大阪IRで地盤沈下が問題となっていること、さらに環境対策として790億円も支出しなければならなくなった点も、東京都を慎重にさせているようである。

(つづく)

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(後)

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