IR整備の問題点と今後の見通し(後)
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運輸評論家 堀内 重人
大阪府と大阪市は、2025年の大阪万博が終了した後の夢洲に、統合型リゾート施設(以下、IR)の誘致を目指している。今年4月に国交相の認定を受けた「区域整備計画」によれば、2029年の秋から冬頃の開業を考えているとのこと。IR誘致には横浜市、東京都、和歌山県、長崎県も関心を示してきたが、横浜市は誘致計画を白紙撤回、東京都は現在様子見の状態である。和歌山県は議会の反対を受けて計画が中断し、国への申請すら行っていない。現時点で国にIR誘致を申請したのは大阪府・大阪市と長崎県だけであり、長崎県は認定が得られていない。本稿ではIRの問題点を整理し、今後どのような姿勢で臨むべきか、読者とともに考えたい。
地元企業との連携で安心感を醸成──大阪府・大阪市の取り組み
一方、大阪府・大阪市は地元企業との連携に力を入れることで、それぞれの議会で区域整備計画の同意を取り付けた。
既述の通り、大阪IR は、MGMとオリックスが中心となって推進するが、そこに関西電力、パナソニック、サントリー、NTT西日本、近鉄など、地元になじみのある企業が数多く参画することで、市民が安心感を得られるようにしようというわけだ。
企業側もIRに大きな期待を寄せている。たとえば近鉄は、大阪都市圏における利用者の減少に直面してきた。大阪市内では地下鉄の延伸によって、郊外では駅周辺の空洞化と自家用車への依存によって、人々はどんどん近鉄を利用しなくなっているのである。
高速道路の延伸もまた、長距離の大阪~名古屋間や、大阪~伊勢志摩間の特急の利用者を減少させることになった。近鉄は「ひのとり」「しまかぜ」などの豪華看板特急を導入し、利用者離れに歯止めを掛けようとしてきたが、そこへコロナ禍が押し寄せた。
このような状況にあって近鉄は、大阪IRに起死回生のチャンスを見出しているようだ。夢洲にIRが整備されれば、奈良や名古屋から大阪メトロ中央線へ乗り入れる直通の特急電車を運転するなどして、利用者の増加が期待できるからである。
だが、そもそもIRは、推進者たちが喧伝するような経済効果を、本当に地元にもたらしてくれるものだろうか。
カジノからの収益は市民に還元されない?!──和歌山県の事例
たとえば和歌山県は、カナダのクレアベスト・グループを事業者とし、和歌山湾にある人工島「和歌山マリーナシティ」へのIR誘致を目指していた。
施設の名称は「The PACIFIC」。米カジノ大手シーザーズ・エンターテインメントが運営するカジノ施設以外に、1万2,000人収容の国際会議場、計2,638室の宿泊施設などを備え、2027年秋頃に開業する計画であった。
初期投資は4,700億円であり、年間来場者数は約1,300万人を見込んでいた。和歌山県に入る入場料や納付金の見込み額は、開業後5年間で入場料が計600億円、納付金が1,100億円と想定していた。和歌山県はそれらの収入を、ギャンブル依存症への対策費に充てるとしていた。つまり、カジノからもたらされる年間1,700億円の収入は、行政サービスの向上など県民の暮らしのためではなく、カジノ利用者を増やすため、すなわち外資の事業者を潤すために用いられるというわけだ。
また、IRが和歌山県の観光業の振興に寄与するかといえば、IRのある和歌山市を訪問する人が幾分増える程度。大阪IRと距離的に競合することもあり、「関西にIRは2つも要らない」と批判が巻き起こった。かくして和歌山県のIR誘致計画は議会の承認を得られず、国への申請も行わないまま現在に至る。
初期投資費用の調達さえ困難──長崎県の事例
国への申請に漕ぎつけても、実際にIR整備しようとなると、今度は「資金」という大きな壁がたちはだかる。政府は2021年10月から2022年4月までIRの区域整備計画の申請を受け付けた。申請があったのは大阪府・大阪市のほかに長崎県があるが、この長崎県に、はやくも暗雲が立ち込めているのだ。
長崎県は、佐世保市のリゾート施設であるハウステンボスへのIR誘致を目指している。ハウステンボスには入場料が無料のフリーゾーンと有料のエリアがあるが、IRに関しては両者を併用する予定とのこと。事業者としては、オーストリアの国有企業カジノ・オーストリア・インターナショナルの日本法人(CAIJ)を選定した。初期投資額は3,500億円、年間来場者数840万人を見込む。
初期投資費用はCAIJ側が全額用意するという。だが、3,500億円という金額は、自社で調達するにはあまりにハードルが高い。そのためコンソーシアム(共同事業体)を形成しているが、パートナーとなる企業のなかで、数百億円を捻出できるような大企業は見当たらない。九州には九州電力やJR九州、西鉄といった大企業があるが、IRには出資するだけの利点がないと考えているのだろう。要するに、初期投資費用すら調達するメドが立っていない状況なのだ。そのためか、長崎県は、IR誘致を国に申請したものの、国からはいまだ認定されていない。
IR誘致の多角的な検証を
このように、IR誘致を推進してきた自治体はどこもさまざまな問題に直面し、実際に国に申請したのは結局、西日本の2自治体のみという状況である。
その2自治体にせよ、今後資金面の問題はなんかクリアできても(長崎はそれも危ういのは、上述の通りである)、そこから安定した入場料収入や納入金が得られる保証はない。むしろ、横浜などで問題視されたように、治安の悪化、ギャンブル依存症やそれにともなう家庭崩壊、子どもへの悪影響などが懸念されるのみならず、その対策に貴重な財源が振り向けられる。誘致した自治体にとって、決してうま味のある話とはいえないだろう。
それでもIR誘致を強行し、大阪府・大阪市と長崎県にIRが開業するとしても、運営会社が経営破綻する可能性もある。そうなると、今度はその跡地の利活用が課題となる。IR誘致が真に地域活性化につながるのか、いまこそ改めて多角的に検証されるべきだ。
(了)
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