2024年11月23日( 土 )

生き残りかけ「業が一丸となる」ための挑戦

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長崎県鉄筋工事業協同組合
理事長 平本 大介 氏

長崎県鉄筋工事業協同組合 理事長 平本大介氏

 長崎県内の鉄筋工事業者を取りまとめる専門工事業団体である長崎県鉄筋工事業協同組合。業界内で労務環境の改善が思うように進まないなか、組合・非組合の枠を超えた協力体制の構築を図る理事長・平本大介氏に話を聞いた。

30年遅れを解消へ
労務環境改善が不可欠

 ──長崎県の鉄筋工事業者をまとめる長崎県鉄筋工事業協同組合(長鉄工)としての役割をお聞かせください。

 平本 ピーク時は30社を超えていた長鉄工の会員数は現在18社で、ここ10年は減り続けています。主な原因は、後継者不足による事業承継問題や人手不足での廃業です。当社((株)みつひら産業:長崎県佐世保市)の社員も、20年前は60人ほどいましたが、現在は36人まで減少しています。会員企業も状況は同じで、社員数は半減していると思います。業界的には、まさに今が分岐点になるのではないでしょうか。私も危機感をもって業界の意識改革に取り組んでいます。

 入職者を増やすためには、労務環境の改善が不可欠です。当社も約3年前に日給月給制から月給制に変えました。現在は、初任給も上げて完全週休二日制にしていますが、なかなか応募はありません。会員企業のなかでも月給制にしているのはごく一部です。

鉄筋工事 イメージ    鉄筋業界は、日本の一般企業の枠でいうと雇用体系が30年は遅れていると感じています。(公社)全国鉄筋工事業協会会長・岩田正吾氏が、2021年に(一社)建設産業専門団体連合会(建専連)の会長となり、その30年の遅れを一気に解消されようとしています。22年10月には建専連会長として「協会の目的は価格を適正にすること」と、建設キャリアアップシステムのレベルごとに技能者の最低年収の目安を提示しました。この最低年収を確保するには、いくらで契約をしなければならないか、発注者や元請、国民に認識してもらうのが狙いです。

組合の枠を超えた、
協力体制構築を図る

 ──今年5月に理事長に就任されました。これからの鉄筋業界の方向性・取り組みについてお聞かせください。

 平本 私が組合活動に従事して18年になります。私の世代では一番キャリアは長いでしょう。今までもさまざまな提案をしてきました。先ほど述べた通り、30年の遅れは大きく、一気に縮めるには大変な労力を要します。それでも本気で変えようと思ったら、業界内で組合、非組合関係なしに協力できるところとは協力し、足並みをそろえていくしかないと思います。

 過去には、組合と非組合の間に溝ができ、いがみ合っていた歴史もありますが、過去は過去として、副理事長のときから交流促進の必要性を訴えてきました。理事長に就任後、ようやく非組合員との情報交換の会合の場を設けることができました。もちろん、組合員には周知したうえでです。将来を見据えた方向性が一致しているのであれば、協力体制は取れると思います。

 長鉄工の真の役割は、鉄筋工事に従事する人たちの雇用満足度を向上させることだと思います。それを全うするためには、さまざまなことをやらなければなりません。組合員・非組合員の枠を超えた協力体制の構築の後には、顧客・受注先との価格交渉も行っていかなければなりません。

 ──「2024年問題」についての対応をお聞かせください。

 平本 大きな影響を受けるでしょう。ある意味、受注制限を強いられることと同義ですから。今でも、通常業務の前から仕事を始め、間に合わなければ残業をしています。2人で取り組んでいた業務を3人体制に変えることができればいいのですが、募集しても応募が少なく、それも難しい状況です。熊本のTSMCと同じく、諫早市にもSONYや京セラ、その他工場が建設中です。完成すれば、学生がそちらに職を求めるのも容易に想像がつきます。長崎県内各エリアの鉄筋工の数は決まっているので、非組合員との関係構築も含め、同業者間で手を携え協力し合っていくしかないですね。

鉄筋工事 イメージ    また、組合員の各企業から定例会時に、相場を把握するために一定期間の構造物種別と工事難易度ごとの請負額の共有(専用シートの提出)を求めています。その際、2つのルールを決めています。1つ目は、嘘は書かないということ。2つ目は、安く請け負っている企業を絶対に批判しないこと。お客との長い付き合いのなかで安く受注することもあるでしょう。それを相場が崩れるからと責めてしまえば、本当の価格を示さなくなります。ですので、この2つのルールを徹底しています。価格をオープンにすることで、安く受注をしている企業は「もっと高くてもいいのではないか」と価格交渉を行うでしょう。同時に、適正価格での受注実現には、我々も粘り強く長期的に顧客・受注先と交渉していく覚悟が必要です。これらの取り組みを継続することで価格相場を安定させ、労務環境の改善と職人不足の解消へとつなげていきたいと思います。非組合員との会合を重ねていくなかで、双方が積極的に情報交換・共有できるようになれば、足並みもそろい、長崎県内の鉄筋工事業界は良くなっていくと思います。

 このままでは10年後には今以上に鉄筋工、ひいては鉄筋工事業者が減ってしまうでしょう。1人、1社じゃ何もできません。同業者に対しても粘り強く働きかけ、組合と非組合の枠を超えて、我々鉄筋「業」が一丸となって取り組むことができる体制をつくっていきます。

【内山 義之】


<プロフィール>
平本 大介
(ひらもと・だいすけ)
長崎県生まれ。九州産業大学商学部商学科卒業後、(株)ROYAL(現・ロイヤルホールディングス(株))を経て、2001年に(株)みつひら産業に入社。21年5月、長崎県鉄筋工事業協同組合の副理事長に就任。23年5月、同組合理事長に就任。

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