創業114年、世界へと挑戦を続けるメンターテイメント・カンパニー
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(株)山口油屋福太郎
アフターコロナの急流に乗る
動き出した経済を読み、課題と向き合う(株)山口油屋福太郎は、1909(明治42)年に福岡市新瓦町(現・福岡市博多区祇園)で創業した老舗企業である。もともとは食用油の製造業者として拡大してきたが、現在は業務用食材卸売業を基幹とし、めんべい事業、明太子事業、飲食事業と多角経営を行い、売上高の割合は、食材卸売業がおおよそ65%、その他が合わせて35%と、安定したバランスを保っている。
2023年は、経済が急速に動き出した。日本のアフターコロナは海外に比べると遅れているといわれるが、同社の全体売上高は、ほぼコロナ前に戻り、看板商品であるめんべいは在庫が品薄の状況が続いているという。
「めんべいは生産が追いついていない状況ですね。コロナ禍に工場の稼働を縮小した影響と、人や材料確保の問題もあります。県外催事を控えて、既存店舗に回すなどして工夫しているところです。協力工場への依頼割合を増やすことや、すでに取り入れている機械化をさらに一歩進めることも検討しています」と代表取締役の田中洋之社長は語る。
また、経済活動が戻ってきた今、すべての企業に共通する大きな問題が、水道光熱費の上昇、原材料費や人件費の高騰、人手不足だ。サービスの値上げをしても厳しいという声をあちこちで聞く。また、円安の影響で外国人労働者も減少している。この苦境にどう立ち向かい、うまく乗り切れるか、それが企業にとって存続の分岐点になるといわれている。
コロナの影響を受けながらも、白砂糖・卵・小麦・乳製品不使用の体に優しい「ケアリングアイス」の販売、パンの製造販売開始、ららぽーと福岡への出店、そして海外輸出も順調に伸ばしてきた。輸出は国策としても後押しされており、年間1億円に届くところまできている。アジアの割合が7割強で、その他はイギリス、アメリカ、オーストラリアなどへも販路を広げているのだ。 加えて、北海道で工場を構えて商品化した「ほかじゃ」が10周年を迎え、新商品をリリースする予定としており、合同出資で始めた熊本県のエミュー観光事業の本格化など、アフターコロナの急流に慌てることなく、着実に歩みを進めている。
拡大するめんべいのファン層
トレンドに敏感な若者の心をつかむ同社の看板商品であるめんべいは、30~40代が主な購入層であるが、若者からも支持を受けている。博多駅構内の売場に並ぶ顧客を見ると、同フロアの他店舗に比べて若い顧客が多い。01年に開発されためんべいは、賞味期限が短い明太子をどうにか日持ちする商品にできないかと思案したことからスタートした。山口毅代表取締役社長(現・代表取締役会長)が、妻の勝子専務取締役(現・取締役相談役)と二人三脚で販路を開拓してきた。
当初は周囲から「売れるわけがない」と不評を買いながらも、「顧客においしいものを食べてもらいたい」という一心で営業を続けたという。それから約20年、お土産の激戦区である博多で、めんべいは今や博多土産の定番として不動の地位を築いた。各地のご当地名物と次々とコラボレーションをし、その数は80を超えた。今年は数アイテムが予定されているが、既存の供給を維持するために、新規案件は当面控えている。会社説明会では「めんべいが大好きで、一緒に販売したいんです!」と志望動機を語る者も2割程度いるといい、ブランド力の強さと魅力は、まさに会社の名刺代わりの商品だといえる。
「今後は、どれだけ若者のアイデアや感性を取り入れていけるかが重要だと思います。彼らのトレンドは早いです。そして、世の中の流れ自体も早い。飽きられる前にどんどん変わっていく。そのためにも情報を集め、若いスタッフの意見を聞くようにしたいです。それがめんべいを支えてくださっている、ファンへの恩返しにもなります」と田中社長。同時に、リブランディングにも取り組む予定だという。HPや店舗ディスプレイなど、マイナーチェンジを図る。めんべいの止まらない挑戦と進化に、今後も目が離せない。
一緒にお客さまの人生に、感動を届けよう
メンターテイメント・カンパニーを掲げて同社は明太子などの食を通じて、メンターテイメント・カンパニー(明太子とエンターテインメントを組み合わせた福太郎の造語)を目指すとしている。社訓や行動指針にも出てくる「笑顔」は重要なキーワードだ。何をすればお客さまを笑顔にできるのか、それは味や価格だけではない。「おいしかった」を超えて、双方の心に生まれるものなのだという。そして、お客さまの人生に、いくらかの感動や輝きを届けたいとしている。
「これからは、気づく力がある人、そして気づいたことを発言できる人に、ぜひ入社していただきたいと思っています。従順でマニュアル通りに動く能力も必要ですが、チャレンジ精神がなければ個人も会社も成長しません。前向きに取り組む姿勢を咎めたりすることはないので、積極的に動いてほしいです。現場に裁量を任せている部分も多く、スタッフから出るアイデアを大切にしています。人生の3分の1は会社にいるのだから、一緒に楽しくしていきましょう」と語る田中社長。
多角経営で事業が多いからこそ、さまざまな角度から物事を考察し、化学反応のようにアイデアも生まれやすい。バックアップ体制も整っており、キャリアアップを目指す者、チャレンジ精神旺盛な者にとっては、願ってもない環境だろう。そして、地場産業、同族経営の企業の根幹にあるという、まずは地域の人と働くスタッフに貢献するという意識だ。特有の寛容さや優しさは良い面だけではないかもしれないが、それがなければ創業の理念は薄れ、地元に支持される会社は存続しないとされている。
「同じような商品は誰でもつくれます。めんべいだって類似商品は山ほどあります。商品とともにある企業の精神を含めて、存在意義を社内外に明確に示していくことがこれから重要になると思っています。また、業態を越えて、人や仕入れも協力・協業の時代がきています。経営側と現場の意識が合うまではまだ時間も必要ですが、未来を見据えて動きたいですね」。創業114年の歴史の重みを背負いながら、朗らかに語る田中社長の経営戦略に注目していきたい。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:田中 洋之
所在地:福岡市南区五十川1-1-1
設 立:1955年1月
資本金:1,000万円
TEL:0120-71-4444
URL:https://www.fukutaro.co.jp
<プロフィール>
田中 洋之(たなか・ひろゆき)
1969年5月生まれ、山口県熊毛郡平生町出身。カリフォルニア州立大フレズノ校経営学科卒。米国で海外ランドオペレーター業に従事後、パリに本社を置く、バカンス社クラブメッド入社。同社退職後、2005年に(株)山口油屋福太郎に入社。常務取締役、代表取締役副社長を経て、19年に代表取締役社長に就任。法人名
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