2024年07月16日( 火 )

中国経済が不振にあえぐ3つの理由(後)

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 上海財経大学高等研究院の田国強教授は、根本的な理由として、ここ数年間に蓄積され、深い影響をもたらした世の中の環境における以下の3つの重大な変化を挙げている。

(1)大国である米中両国の大きな戦略的変化
(2)件数も多く高頻度、急激かつ過激な政府の規制や政策
(3)観念的な要素や世諭誘導におけるひずみ

 1つ目の米中両国について、とくにアメリカが協力から競争へと転換し (方針、制度、イデオロギーの争い、そして勢力のトータル的な競争への振り向け)、結果として貿易摩擦が常態化してしまった。とくにハイテク分野における中国への締め付けや度重なる制裁で保護貿易の流れがすぐには収まらなくなり、元からあった国際的な政治的・経済的環境(欧米を中心に)の不確実性や分断化か一段と進み、多くの国がアメリカの味方となって産業チェーンの脱中国を進めだ。これで数十年におよんだ世界の産業チェーンにおける中国の地位が揺らぎ始める。悪影響が重なったなか、「世界の工場」であった中国は貿易や産業チェーンからの分離という大きな重圧を受けている。

香港 イメージ    中国進出といった点について見ると、投資額を見ても企業数を見ても、先進国が上位に並んでいる。「中国外資統計公報2022」によると、香港・マカオ・台湾およびイギリス領ヴァージン諸島、アメリカ領サモアを除き、立地企業数の上位10カ国はアメリカ(7万5,624社)、韓国(7万1,867社)、日本(5万4,631社)、シンガポール(2万8,673社)、カナダ(1万7,169社)、オーストラリア(1万3,723社)、ドイツ(1万1,836社)、イギリス(1万1,199社)、イタリア (6,918社)、フランス(6,687社)の順となっている。これらの企業がこっそり抜けてしまえば、中国の経済や雇用は重大な影響を蒙ってしまう。

 そして2つ目の政府の管理や政策の目まぐるしい変化により、企業はビジネス環境や政策的環境に対する自信や信頼を失っている。

 政府による規制の度重なる強化といった「改革」をしてはいるか、政策や各業界のルールの修正が実効性を欠いており、力を入れすぎ急ぎすぎ、回数も多く過激化している。猫の目のような改革の結果として、行き過ぎた管理、ぶれの重なり、事業体の体力低下、見通しの木十分または低下を招き、企業の自信も政府への信頼感も薄れる。これにあちこちでのコロナ発生やそれにともなう度重なる規制により、経済にさまざまなダメージが加わり、雇用の大部分を賄ってきた中小零細企業やサービス業が深刻な経営困難にはまる。中堅企業や大手企業も経営が一段と悪化し、投資も伸び悩んでしまう。個人所得の低下や失業により収入源を失う人も現れ、お金がどんどん減ると感じるようになった国民が財布に手を付けなくなり、緊縮状態にはまってしまう。

 3つ目の観念的な要素や世論の変化について、これまでとの開きが大き過ぎて心配感を招いている。

 中国は2012年の共産党第十八回大会で新たな指導者が誕生し、国民的な盛り上がりのなか、わずか5年間で企業の数が2倍となる1.1億社に達した。しかし、数十年におよぶ自由化への改革のなか、解決すべきだが未解決という問題が山積したことで、ひずみが生じてしまい、とくに市場経済に不可欠な社会的倫理やモラルや秩序の整備が追い付かなくなったことで、この十年間で自由化反対という考えが徐々に巻き起こっている。

 問題のほとんどは自由化への改革で発生したと見て改革の必要性を否定した上、民間経済についても、成長を促すのは目的ではなく手段であって、政治レベルの問題と見なすなど、否定したり差別したりしている。いわゆる「民間経済不要論」を訴えたり、私有制はなくしてしまえ、などと訴えたりする声も出ている。このような「政治的安全」と銘打って締め付けられた民間経済は甚大な影響を蒙っている。ジャック・マー氏が設立したアリババの解体や、亰東の創業者である劉強東氏の退任などを受け、企業の経営者は自信を失くす一方である。

 そこで中国経済を不振から脱却させる方法であるが、大事なのは政府の政策に頼ることではない。政策は概ね、繰り返し発表されて実行困難である 「スローガン」的なものも多く、信ぴょう性が疑われているからだ。まずは民間経済や実業家の自信や彼らへの信頼感を回復することだ。何しろ中国では、雇用の95%を民間企業が担っているのだから。

 中国政府は27日、資本市場の活性化と投資家の信認向上を目的に、28日から証券取引にかかる印紙税を半減すると発表したが、上海の株市場の反応は薄く、平均指数は1%しか上がらなかった。

(了)


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