2024年11月22日( 金 )

新たに外務大臣に就任した上川陽子議員の十八番“司法外交”のパワー

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、9月22日付の記事を紹介する。

 上川新外務大臣は9月18日、国連総会に合わせてニューヨークを訪問しました。G7外相会合の議長を務め、対ロ制裁の維持を盛り込んだ議長声明をまとめると同時に、アメリカのブリンケン国務長官など各国の外交責任者と本格的な対面協議を開始。その一挙手一投足に世界の注目が集まっています。

 彼女は1953年生まれで、東京大学卒業後、三菱総合研究所にて勤務。その後、ハーバード大学ケネディ・スクールで政治行政学修士号を取得すると、民主党のボーカス上院議員の政策スタッフとしてワシントンで経験を積みました。帰国すると、グローバリンク総合研究所の社長に就任するという国際的な行動派です。

 2000年衆議院選挙で静岡1区から出馬し、初当選。自民党内では国際派・政策通で知られる存在に。2女を育てながら家庭と仕事を両立させるという活躍ぶりを見せてきました。あまり表には出ませんが、夫は元日本銀行幹部。彼女は日本舞踊の名取でもありますが、スクワットを毎日100回以上こなすなど、健康管理にも留意しているようです。

 2007年、安倍内閣にて初入閣。2014年、法務大臣を拝命。以来、安倍元首相の信頼を得ながら、3度の法務大臣職を務め、15年にわたり安倍政権を支えてきました。岸田政権となると、茂木幹事長の下で幹事長代理を拝命。自民党内にできた「党改革実行本部」の座長に収まると同時に、「人生百年時代戦略推進本部」の部長にも就任。

 国会では経済産業委員会に所属し、憲法審査会の幹事も務めてきました。外交を重視する岸田首相が「自分の派閥から外相を任命したい」と白羽の矢を立てたのが彼女です。岸田首相曰く「彼女なら中国、ロシア、北朝鮮ともしっかり向き合える」。

 彼女のモットーは「生命(いのち)を大切にする政治」。生命に欠かせない水に注目し、「おいしい水推進議員連盟」を創設。その他、10を超える議員連盟の会長を務めているほどの知的好奇心の旺盛な政治家です。地球環境問題や国際人口問題にも関心を寄せ、「生命」とのかかわりで、「難聴児に対する医療、療育」の拡充にも取り組み、高齢者の難聴問題にも向き合ってきました。医薬品や医療機器問題に関する議連の会長も務めています。

 さらには、「地球に太陽を」のキャッチフレーズで知られるITER(国際熱核融合実験炉)への積極的支援でも知られる存在です。法務大臣としては、犯罪被害者の救済に全力で取り組み、「被害者の権利保護に関する基本法」の制定に尽力。3度の法務大臣の在任日数は1662日で歴代最長という記録を樹立しています。

 自らが「司法外交」という造語もつくり、アジア諸国などへの法制度整備支援事業を推進。この事業は「寄り添い型」の支援が特徴。何かといえば、法律家、弁護士、裁判官など専門性を有する人材を長期に渡り、現地に派遣し、相手国のパートナーと相互理解を深めつつ、当該国の実情に合った法整備を目指しているわけです。そうしたきめ細かな対応は当該国から高い評価を受け、他国の追随を許さない日本の大きな強みになっています。

 「アジア極東犯罪防止研修所」の運営にもかかわり、141の国から4,600人の研修生を受け入れてきています。あまり知られていませんが、このなかから、ネパールの首相やタイの法務大臣など多くの要人が誕生しているのです。そうした「司法外交」を念頭に、ASEAN法務大臣会議などマルチ・プラットフォームで新たな関係性を築くために、ASEAN各国を歴訪し、ASEAN事務局への支援も強化してきました。行動力においてはほかの国会議員を寄せ付けないものがあります。

 また、国際仲裁機能の強化にも熱心に向き合ってきました。日本企業が海外でビジネスを展開する際に、何らかの紛争が生じた場合、どの国の法律に基づき、どのように解決するのかを、あらかじめ契約書に記載するのが通例になっています。とはいえ、現在、その大半はシンガポールかアメリカの法に準拠しており、日本企業にとっては不利となっているのです。そこで、彼女は2020年、虎ノ門に最先端のICT設備を備えた国際仲裁専用施設を開設しました。日本の法律を優先的に適用させる考えに他なりません。ソフトパワーを中心に据えた多層的な政治や外交を目指すとの意気込みが感じられます。

 安倍元首相の提唱した「自由で開かれたインド太平洋」戦略の実現のために、「司法外交」を実践していこうとの強い意思を読み取ることができます。その中核にはこの地域の平和と安全を基盤とした「法の支配」が位置づけられていることは論を待ちません。売名行為に熱心で利権漁りに敏い政治家が多いなか、彼女のように人知れず言行一致を積み重ねている存在は貴重です。

 その意味でも、日本初の女性首相の可能性を秘めていると言っても過言でありません。70歳といえば、プーチン大統領や習近平国家主席とほぼ同い年。健康長寿大国・日本を世界にアピールでき、しかも、「寄り添い方型の司法外交」の実践家たる新外相です。これまであまり知られてこなかった上川新外相への期待を込めてのエールと受け止めていただければ幸いです。

 次号「第358回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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