「基礎工事」を新区分に、九基協の職人不足対策
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九州基礎工業協同組合 理事長 谷 清昭 氏
その名の通り、建築物を根元で支えるという重要な役割を担う基礎工事。その基礎工事の業界団体であり、九州の基礎工事業者をまとめる九州基礎工業協同組合(以下、九基協)の理事長・谷清昭氏に、業界の現状や課題、同組合の取り組みなどについて話を聞いた。
全基連を中心に
人材育成・情報共有図る──九基協および全国基礎工事業団体連合会の主な役割や取り組みについて、お聞かせください。
谷 九基協の上部団体である(一社)全国基礎工事業団体連合会(梅田巖会長/以下、全基連)は、1974年7月に建設大臣(現・国土交通大臣)の許可を受けて全国基礎工業協同組合連合会として設立したのが始まりです。2016年4月に現在の全基連として設立しました。現在、九基協を含めた7組合で構成され、所属企業は194社になります。
全基連は、経営の革新化や情報化の推進などの「経営戦略化事業」や、工事丸投げ下請問題への対処と適正取引のための行政との同調などの「取引改善に関する事業」、基礎杭溶接管理技術者の育成や車両系建設機械(基礎工事用)運転者の定期安全衛生教育などの「人材育成・能力向上事業」といった11事業を推進しています。
私たち九基協は、全基連の下で全国の各地区での組合が組織されていくなかで、九州地区をまとめる組織として10年3月に発足したものです。正会員が14社、賛助会員が11社の合計25社で構成されており、発足当初から徐々に会員が増えている状況です。当組合の主な役割は、全基連からの情報や取り組みなどを会員に伝達・共有することです。
──そもそも基礎工事とは、どのようなものでしょうか。
谷 基礎工事とは、地面と建物のつなぎ部分にあたる「基礎」をつくるための工事です。建築物を建てるにあたって、地盤の弱い場所でも高い強度を確保するために必要なのが杭打ちです。全基連は、その杭打ちを専門とするプロフェッショナル集団で構成されています。基礎杭打ちには代表的なものとして「場所打ち杭工法」と「既製杭工法」の2種類の工法がありましたが、時代の流れとともに新工法が続々とできています。
場所打ち杭工法とは、工事現場で組んだ円筒状の鉄筋を掘削した地盤のなかに入れて、その後コンクリートを穴に流し込んで固めて杭をつくり上げる工法です。代表的な工法に、油圧駆動によって低振動・低騒音での施工が可能な「全周回転オールケーシング工法」や、従来の堀削技術では難しかった粘性土や砂などの軟弱地盤および水中堀削に対応した「AC工法」などがあります。既製杭工法とは、工場でつくられた杭を建築現場で掘った穴に打ち込む工法で、重機を使って杭を地面へと打ち込む「打込み工法」や、中空部を通じて土を掘りながら設置する「埋込み工法」、先端部に羽根を有する鋼管杭に回転力を付与することで地盤に貫入させる「回転杭工法」などがあります。
──九基協や全基連での人材育成支援などについては、いかがですか。
谷 基礎工事には多くの資格が必要となりますが、九基協に加盟することで、全基連が行っている講習および試験を受けることができます。
たとえば基礎杭溶接管理技術者という資格は5年に1回の更新が必要で、新規受講者の場合は2日間、更新希望者の場合は1日の講習を受けなければなりませんが、全基連でこの講習・試験を行っています。また、車両系建設機械運転業務従事者の安全衛生教育講習会なども行っています。
ほかに、求職者についての無料の講習会も行っており、これはハローワークを通じて基礎工事に関係する玉がけやクレーン操作など6種類ほどの講習会を行うものです。というのも、これから基礎工事業界に入ってこようとする人は無資格者がほとんどです。基礎工事に従事するには最低3種類ほどの資格が必要となるのですが、この無料講習会では泊りがけで10日前後の講習を行うもので、会員企業の雇用面および人材育成面に寄与する制度となっています。
九基協では奇数月に会員を集めた会合を行い、国土交通省との交渉や相談窓口を担う(一社)建設産業専門団体連合会(岩田正吾会長)の会員である全基連による、タイムリーな情報の共有を行っています。ほかにも、会員の各企業に仕事量や月ごとの稼働状況などを発表してもらうほか、「今度うちの地区ではこのような工事が始まりますよ」とか、「全国のどの地区で工事が盛んに行われているか」「どの地区が冷え込んでいるか」などの業界状況や、「建設機械が今どのくらいの金額で売れているのか」などの情報共有や意見交換なども行っています。
また、ざっくばらんな自由討議も行っており、最近では外国人技能実習制度や特定技能制度の見直しが行われているなか、今後の外国人の雇用問題についての話題も増えてきています。たとえば、外国人技能実習生および特定技能1号取得者は、組合全体で約2割を占めており、会員企業からは「家族を呼び寄せるためにはどうしたらよいのか」「永住権を取得するにはどうしたらよいのか」などの相談もあります。新たな制度には期待したいですね。
なお、当組合に加盟するメリットの1つとして、外国人特定技能1号取得者を直接受け入れられることがあります。当社((株)進明技興)にも特定技能1号取得者が4名在籍していますが、皆さん若いですし、すごくがんばってくれていて、刺激になっています。
職人不足が加速し、
外国人雇用が重要視──「2024年問題」についてはいかがですか。
谷 2024年問題の影響はもちろん大きいと思いますし、とくに元請の姿勢に大きく左右されると思います。たとえばスーパーゼネコンや全国規模のゼネコンであれば、すでに働き方改革が進んでおり、現場は完全週休二日制で、残業も以前ほど多くありません。一方で、地場ゼネコンが元請となっている場合は、まだそれほど働き方改革は浸透しておらず、土曜日も動いている現場が多いのが現状です。どういった元請と付き合っているかによって、我々基礎工事業者への影響度合いは違ってくると思いますが、現状は非常に厳しいところが多いのではないでしょうか。
──職人不足についての対応をお聞かせください。
谷 団塊の世代が75歳以上になる超高齢化社会を迎える「2025年問題」も目の前に迫っています。仕事量は多い一方、職人不足の状況で、職人不足を日本人で賄えるのか、外国人で賄うのかについては、会員企業からもよく相談があるのですが、残念ながら日本の学生や中途社員が建設業に入ってくることにはあまり期待できません。となると、外国人に頼らざるを得ません。
とはいえ、我々基礎工事業界では、職長クラスになるのに10年くらいはかかります。たとえば、一級土木施工管理技士の資格を取るのにも、専門学校を出ていなかったら4年はかかります。さらに一人前になるには経験も必要で、職人を育てるためには長い期間が必要です。一方で、現役世代の職人は60代が多く、そう遠くない時期には一斉に職人がいなくなり、技術力が落ちていくのは容易に想像できますので、今すぐにでも外国人の雇用をしていかないと間に合わないと思います。現在、2割ほどの外国人比率を、5年先、10年先には5割まで増やさないと、社業そのものの継続が難しくなると思います。
──業界が抱える課題およびその対応策について、お聞かせください。
谷 近年の資材高騰は、全産業の問題と言っていいでしょう。九基協として元請に値上げ交渉はしておらず、交渉は企業ごとに行っています。燃料や人件費が上がったからと個別での値上げ交渉はせずに、すべて含んだトータルでの価格交渉をしています。
もっとも大きな課題は、職人不足です。外国人だけでなく日本人の若手入職者の確保も考えていかなければなりません。ですが、建設業界では日給月給制の企業が多く、九基協の会員企業のなかにも日給月給制のところは少なくありません。社員を募集する際にも、月給制や社会保険など整備しておかないと興味をもってもらえませんし、年間所得を平均560万円ぐらいにしないと、業界に入ってくれる人は出てこないと思います。そうするためには元請と交渉を行い、適正価格で受注することが重要になってきますが、なかなか難しい問題でもあります。
ほかにも、基礎工事は業種区分において、とび・土工工事に分類されているのも問題だと思います。現在、外国人技能実習生が技能試験を受ける場合、実際に従事している杭打ち業務ではなく、業務外となる型枠なども含めたとび・土工工事の業務を受けなければなりません。2016年6月に建設業の業種区分における「解体工事」が新設されましたが、全基連では基礎工事の業種区分追加についても現在、国土交通省に働きかけを行っているところです。
基礎工事で一定以上の技能を身につけた職人は、国土交通大臣表彰を受けることができ、全基連では優秀な職人を国土交通省に推薦しています。もちろん審査はありますが、審査に合格して表彰を受けることは、職人にとって大変な誇りです。また、企業に対しては優良企業の認定制度もあります。
我々基礎工事業者は、その名の通り建築物を建てる際の基礎を構築するという、非常に重要な役割を担っています。そうした誇りを胸に、会員企業や職人には切磋琢磨し技能向上を目指してほしいと思いますし、私も九基協の理事長として、業界の地位向上に努めてまいります。
【内山 義之】
<プロフィール>
谷 清昭(たに・せいしょう)
1958年4月、高知県出身。兵庫県立武庫工業高等学校卒業後、(株)高田工業に入社。(株)九州重機工業に転職後、97年7月に(株)進明技興を設立、代表取締役社長に就任。2023年に代表取締役会長へ。2010年3月、九州基礎工業協同組合を設立、理事長に就任。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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