2024年07月18日( 木 )

懸念される台湾有事を防ぐには 九州・福岡と台湾との交流に尽力

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福岡県議会議員
福岡県台湾友好議員連盟顧問
加地 邦雄 氏

 福岡県議会で日台友好議員連盟の設立に取り組み、議連会長を務め、現在も議連顧問として台湾などとの国際交流に尽力している加地邦雄福岡県議会議員(福岡市南区選出、7期目)。中国の台湾侵攻が数年のうちに現実のものとなる可能性が懸念されるなか、加地議員にこれまでの日台友好に関する取り組みや台湾有事に備えて日本人として何をなすべきかなどについて話を聞いた。

九州と台湾との交流
その記憶を伝えるために

福岡県議会議員/福岡県台湾友好議員連盟顧問
加地 邦雄 氏

    福岡では、台湾関連の友好議員連盟の設立は福岡市議会のほうが早かった。加地県議はある日、津田隆士福岡市議会議員(当時)から、県議会での設立を提案され、その後自民党県連会長などを務めた蔵内勇夫県議会議員からも促されて取り組むこととなった。

 日台議連を設立するとなると、中国を訪問しにくくなるだろうから、県議会議長にはなれないだろう──議長は訪問団団長として毎年中国の友好都市である江蘇省を訪問している──と考えたが、そうなったらそれで仕方ないと腹を決め、設立に動いた。約10名の議員が集まって2012年に設立され、同年には台湾を訪問。なお、加地氏はその後14年に議長に就任している。

 当時の大きなミッションの1つが、中国歴代王朝の文物を所蔵する故宮博物院の海外展示の福岡誘致。当時、日本全国で6カ所が誘致活動を行っていたという。加地氏は議連訪問団を率いて台北市を訪れた際に、故宮博物院に九州国立博物館で展示することを要請した。台湾の対日窓口機関である亜東関係協会(現・台湾日本関係協会)の廖了以会長が来福した際に歓待するとともに、誘致を提案した。廖氏は中国国民党の秘書長(幹事長に相当)を歴任した要人だ。

 ただ当時、台湾の外交部関係者は、他の県は知事が台湾にきているのに、福岡県は動きが鈍いと不満を漏らしていた。現在では想像できないが、在台北駐福岡経済文化弁事処の処長は総領事館に相当する高官であるにもかかわらず、十数年前は福岡県庁を訪問しても「県は中国側の顔色を見て、課長クラスしか会わなかった」(加地氏)という。

 そこで加地氏らは誘致に真正面から取り組むのではなく、外堀を埋めていくことを考えた。折しも辛亥革命100周年であり、その記念の想いも込めて、台北市の青年公園に桜の木100本の植樹を行うなどした。そこで、台湾側に訴えたことは、日本と台湾は50年間同じ国であり、福岡、九州には辛亥革命に尽力した歴史があるものの、双方の若者にはそうした歴史が十分に知られていない。この誘致は日台には深い交流の歴史があるという原点に立ち返って、それを日台双方の若者に理解をしてもらうためのものだということであった。

 加地氏の訴えは廖氏の琴線に触れた。廖氏は福岡を有力な候補地として決めた。知事も一緒に馬英九総統(当時)に会いに行き誘致を提案するなら、福岡に決めるという段取りをつけてくれた。加地氏は知事、議長や福岡の財界関係者とともに訪台し、誘致に漕ぎつける。そして14年、九州国立博物館での展示が実現した。

故宮博物院(台北市)
故宮博物院(台北市)

台湾有事を防ぐため
地方から動きを起こす

 九州は台湾に近く、中国が台湾に侵攻した場合には対応するうえでの前線となる。その意味でも「台湾有事は日本有事」であり、日本、とくに九州は自ずと巻き込まれる。台湾をよく知る加地氏に、「台湾有事」について日本はどうすべきか聞いてみた。

 加地氏は憲法上の制約や台湾と国交がないなどという問題があり、できることは限られているとしつつ、そのなかで、地方が台湾との関係を深め、中国側に台湾に攻め入ることを躊躇させる状況を構築することに尽力したいと話した。

 台湾に住む邦人は22年10月時点で約2万人(外務省「海外在留邦人数調査統計」より)。日本にとって台湾も中国も同様に重要であり、経済活動においても安定した国際環境は非常に重要だ。加地氏らは中国の台湾侵攻を防ぐため、国が表だって動けないのであれば地方議会が中心になって動くべきという意識をもっている。

 加地氏は全国の同志とともに全国日台友好議員協議会を16年5月に設立、自身は会長代行を務めている。加地氏自身、議連の活動において、団体と団体よりも個人と個人の付き合いを意識してきたことを踏まえ、籍を置く議会に議連がなくても志がある人に入ってもらえる組織にしようと、議員連盟ではなく議員協議会とした。地方で大きなネットワークをつくって、地方議会が旗を振ることで国も動かし、台湾を守っていきたいと熱い想いを語る。当時、地方議会の日台議連は約20であったが、現在は約78に増え、所属する地方議員も約2,000名に増えたという。

 最後に中国の武力侵攻は実際にあり得るのか、再び聞いた。加地氏は、中国はロシアのウクライナ侵攻が長期化したことに学び、最初に台北に侵攻して蔡英文総統を拉致しようと試みるだろうとの識者の予想を紹介。その際に問題となるのが、アメリカが本気で動くのかということと、米軍が沖縄から出発して間に合うのかということだ。アメリカには自衛隊に対応させるという意図があったとしても、日本側には憲法上の制約があり、かつ弾薬の備えは数日分しかなく、対応しきれないのが現実だ。

 加地氏によると、台湾有事や憲法改正のようなテーマは、選挙で訴えても票に結びつかないという。しかし、そうした国の安全の根幹に関わるテーマに正面から取り組む議員を増やし、育てていく必要がある。氏は、自民党福岡県議団は会長以下、そうした議員を育てていこうという意識をもっていると自負する。今後も、台湾有事が日本も深く関わる問題であると市民に訴えかけ、理解を広げるため、日台議連などの活動を続けていく。

【茅野 雅弘】


<プロフィール>
加地 邦雄
(かぢ・くにお)
1950年、福岡市生まれ。県立稲築高等学校、大東文化大学経済学部卒業。学生時代には三島由紀夫氏が結成した民間防衛組織「盾の会」に所属。三島が自殺前に訴えた憲法改正の遺志を継いでいる。福岡青年会議所副理事長、第2回アジア太平洋こども会議・イン福岡実行委員長などを歴任。99年に福岡県議会議員初当選(南区、現在7期目)。元議長、福岡県台湾友好議員連盟元会長を歴任し、現在は同議連顧問などを務める。

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