IR整備の問題点と今後の展望(前)
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運輸評論家 堀内 重人
大阪府と大阪市は、2025年の大阪万博が終了した後の夢洲(ゆめしま、大阪市此花区)に、統合型リゾート施設(以下:IR)誘致を目指している。そして2022年12月21日に公表された「区域整備計画案」では、2029年の秋から冬頃に施設を開業したいとしている。
IRに関しては横浜市の計画が既に頓挫。東京都は関心を示しているが、現在は様子見の状態である。和歌山県もIRに関心を示していたが、議会で反対されたため、国へIR誘致の申請すら行っておらず計画が止まった状態である。
現時点で、国にIRの誘致を申請したのは大阪府・大阪市と長崎県だけであり、長崎県は国から認定が得られていない。本稿では、そうした状況にあるIRの問題点と今後の展望について述べる。大阪IRの概要
東京ドームの面積は、46,755m2(約14,168坪)であり、大阪IR計画の延べ床面積は約77万m2であるから、東京ドームの約16倍の面積がある。IRにはカジノが設けられるが、他にコンベンション機能として国際会議場や展示場、3つの大型ホテルが建設される。そして3,500人が収容可能な劇場なども計画されている。
大型ホテルは高級路線を目指しており、全客室の20%以上をスイートルームとする計画であり、海外の富裕層をターゲットとしている。
大阪IRの事業者は、米MGMリゾーツ・インターナショナルと日本のオリックスを中核とする共同企業体である。初期投資額は、規模が大きな建物を多く建設することもあり、約1兆800億円と巨額であるが、51%に当たる5,500億円は融資で調達する。既に三菱UFJ銀行、三井住友銀行から融資を確約する「コミットメントレター」を受け取っている。そして融資に関しては、2行を中心に金融機関が協調融資団をつくっている。
残りの49%に当たる約5,300億円は、MGMとオリックスが40%ずつ出資して、残りの20%は関西企業を中心に、20社(※)の出資を仰ぐとしているが、その合計の出資額は1,000億円強となる。
懸念される事項
IRが整備される夢洲は、埋め立て地であるだけでなく、産業廃棄物の保管場所でもあったことから、予定地の周辺で猛毒のヒ素や、化学的に安定した物質であるフッ素化合物による土壌汚染が確認されている。また掘削調査では、埋め立て地であるから、地中に液状化の恐れがある層の存在が判明している。
事実、夢洲では地盤沈下が激しく、大阪市環境局の職員は土壌汚染よりも地盤沈下の方を心配している。汚染残土の処分などの環境対策費として、大阪市は790億円を負担することが決まっており、その財源は起債で賄うとしている。
区域整備計画案の骨子では、IRの年間の来場者数を2,000万人、近畿圏の経済効果を年間で1兆1,400億円と想定している。カジノは民間の事業者が運営するが、大阪府や大阪市にはカジノの売上に対する納付金やカジノ施設へ入場する際の入場料などで、毎年1,060億円の収入があると見込んでいる。カジノ施設へ入場する際の入場料はユニバーサル・スタジオ・ジャパンの入場料並みになるという。年間1,600億円の収入は、夢洲周辺の整備や子育て支援などに使うとしている。
IR誘致が中止になった横浜市
かつて横浜市もIRの誘致を行い本命視されてきたが、住民の根強い反対でIR誘致は中止された。横浜市は山下埠頭の一角にIRを誘致する考えだったとされ、2つのグループからの提案があったという。横浜市が本命視された理由として、IRの旗振り役だった菅義偉前首相のお膝元でもあったことが影響した。
そんな横浜市もIR反対派の山中竹春市長の誕生で、状況が一変して撤退を決めた。横浜市民は、IRが誕生すると、治安の悪化以外にギャンブル依存症の増加、ギャンブルによる借金からの家庭崩壊の増加を懸念していた。
横浜市は、韓国のカンオンランドのカジノの失敗事例を研究しており、カジノに滞在する時間を制限したり、使用できる金額を制限したりしてそうした問題の発生を防ごうとしていた。それ以外に、ギャンブル依存の危険性を訴える啓蒙活動の展開も考えていた。
韓国のカンオンランドのカジノの失敗は、カジノによる「負」の効果の対策を十分にやらず、「カジノ誘致ありき」で進めたことが大きく影響している。
横浜市は撤退の理由について、カジノに関して2グループからの提案はあったが、地元企業の協力が十分でなかったと資金面を重視した点を強調しているが、カジノによる負の効果を恐れており、「横浜市はきちんとした対策を実施してくれるのか」という、横浜市民の不安が強く影響したのではないか、と筆者は考える。
本命視されていた横浜市が撤退してしまったことは隣の東京都にも影響を与え、その後、東京都はIR誘致の検討作業に関して様子見をしている。
東京都では港湾局がIRの誘致を担っているが、IRの誘致先候補は土地が取得しやすい湾岸エリアになる。未だ誘致する場所も決まっていないが、大阪府・大阪市が夢洲へ誘致するIRの様子を注視しており、東京都もまた湾岸エリアの地盤沈下を恐れている。そして大阪市が、環境対策として790億円も支出しなければならなくなった点も注視している。
また横浜市民が反対したように、治安の悪化やギャンブル依存症の増加、それにともなう家庭崩壊の増加を懸念している。東京都はそうした問題点に加え、子供の教育への悪影響もあるとみており、そのため慎重に検討しているのが現だ。
大阪府・大阪市の取り組み
本命視されていた横浜のIR誘致が中止になり、東京都も様子見をしているなかで、大阪府・大阪市は地元企業との連携に力を入れてきた。彼らは、それぞれの議会で区域整備計画の同意を取り付け、2022年4月に国に認定の申請を行った。
大阪IR は、MGMとオリックスが中心となって推進するが、そこに関西電力、パナソニック、サントリー、NTT西日本、近鉄など、地元になじみのある企業がIRに参画することで、地元に安心感が醸成されることを期待している。
近鉄は、大阪都市圏では地下鉄の延伸で大阪市内などの利用者が減少しており、郊外では駅周辺の空洞化と自家用車への依存で、利用者を減らしている。
長距離の大阪~名古屋間や、大阪~伊勢志摩間の特急の利用者も、高速道路の延伸もあって、「ひのとり」「しまかぜ」などの豪華看板特急を導入することで、利用者離れに歯止めを掛けることに必死の状態である。そこへコロナ禍という荒波が押し寄せたため、悪戦苦闘している。
夢洲にIRが整備されると、奈良や名古屋から地下鉄中央線へ乗り入れる直通の特急電車を運転することで、新たな活路を模索したいという思いがありIRに協力している。
(注)岩谷産業、NTT西日本、大阪ガス、大林組、関西電力、近鉄グループホールディングス、京阪ホールディングス、サントリーホールディングス、JR西日本、JTB、ダイキン工業、大成建設、大和ハウス工業、竹中工務店、南海電気鉄道、日本通運、パナソニック、丸一鋼管、三菱電機、レンゴーの20社。 ^
(つづく)
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