2024年10月05日( 土 )

朝鮮「休戦70周年」と韓国の未来図 自由主義陣営に立ち戻れ(中)

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毎日新聞元論説委員
元ソウル・バンコク支局長
下川 正晴

 今年は朝鮮戦争の休戦協定締結(1953年7月27日)から70周年を迎えた。第2次世界大戦後の「冷戦体制」を決定づけた朝鮮戦争が、北朝鮮による韓国侵略(南侵)によって引き起こされたことは多くの研究によって立証された明白な史実である。現在の世界情勢は、ロシア(プーチン政権)によるウクライナ(ゼレンスキー政権)への侵略戦争という時代を画する暴挙によって、中露VS自由主義陣営の「新冷戦体制」というべき状況にある。朝鮮戦争とウクライナ戦争、この2つの戦争の相似形を我々は見逃すべきでない。長期的な視点に立って、韓国の望ましい未来図を展望する。

韓国「価値観外交」の始発点

韓国 イメージ    韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が7月15日、ウクライナを電撃訪問した。ユーラシア大陸の東端にある韓国の大統領が、朝鮮戦争休戦70周年の年にNATO(北大西洋条約機構)加盟を目指すウクライナを初訪問したのは、歴史的な意義がある。韓国が「自由主義陣営」に立ち戻る意思を明確にした記念碑的な外交となるだろう。韓国大統領室は、これを韓国外交の進展を示すものであり、自由主義陣営との連帯を最優先する「価値観外交」の延長線上にある行動であると位置付けている。

 ユン大統領はゼレンスキー大統領との首脳会談で、「韓国の安全保障・人道・再建支援を包括するウクライナ平和連帯イニシアチブを共に進めていく」と明らかにした。首脳会談では1億5,000万ドル(約210億円)の資金支援をはじめ、「ウクライナ回復センター」の建設事業への参加などについて協議した。首脳会談では「ウクライナが必要とする軍需物資の支援」も言及されたが、以前とは異なり「非兵器システム」を前提としておらず、今度、兵器の提供につながる可能性があると注目されている。

 ユン大統領は首脳会談で「必生即死、必死即生(生きようとすれば必ず死ぬものであり、死ぬ気になれば必ず生き残る)の精神で我々が強く連帯して共に戦っていけば、必ず自由と民主主義を守り抜けるだろう」と述べた。「必生即死、必死即生」、この言葉は韓国の政治的伝統が体現された発言として、歴史に記録されるに違いない。

元「民主化新聞」の堕落

 このようなユン大統領の外交は、日本国民からすれば多くの賛同を得られるものだが、安全保障・外交政策をめぐり国民世論が分裂している韓国では「NATOとの軍事協力強化方針を明らかにしたのに続き、ウクライナまで訪問することで反ロシア基調をあらわにした」(『ハンギョレ』社説)と批判される羽目になる。

 左派紙である『ハンギョレ』の論調によれば、「北朝鮮の核問題の解決など朝鮮半島情勢を管理するためには、周辺国の中国やロシアとの協力が欠かせないのはいうまでもない」ということになる。

 同紙は「中国は韓国にとって交易量が最も多い国であり、ロシアも主要経済協力国に浮上している」とし、さらに「今回のウクライナ訪問で、ロシアに進出した韓国企業と在住同胞の安全を懸念する声もあがっている」と強い懸念を示す。

 韓国は1948年、米ソの冷静構造化が進むなかで、朝鮮半島南部で樹立された自由主義国家である。これが朝鮮戦争による北朝鮮の南侵によって再構築され、朴正熙政権時代に経済発展した。これが韓国の歴史的真実である。

 ハンギョレは「脱冷戦期のぬるま湯」から脱し得ていないばかりか、民主化時代の88年に「自由と人権」を呼号して創刊された当時とは、一変した醜悪な姿を見せている。文在寅政権時代の同紙は、元幹部が政権中枢に起用され、「御用新聞化した」と批判された。かつての韓国民主化勢力が既得権勢力に堕落した典型的な事例である。

(つづく)


<プロフィール>
下川 正晴
(しもかわ・まさはる)
下川正晴 氏1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)に従事。著作に『忘却の引揚史――泉靖一と二日市保養所』(弦書房、2017)、『占領と引揚げの肖像BEPPU1945-1956』(弦書房、2020)など。

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