朝鮮「休戦70周年」と韓国の未来図 自由主義陣営に立ち戻れ(後)
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毎日新聞元論説委員
元ソウル・バンコク支局長
下川 正晴今年は朝鮮戦争の休戦協定締結(1953年7月27日)から70周年を迎えた。第2次世界大戦後の「冷戦体制」を決定づけた朝鮮戦争が、北朝鮮による韓国侵略(南侵)によって引き起こされたことは多くの研究によって立証された明白な史実である。現在の世界情勢は、ロシア(プーチン政権)によるウクライナ(ゼレンスキー政権)への侵略戦争という時代を画する暴挙によって、中露VS自由主義陣営の「新冷戦体制」というべき状況にある。朝鮮戦争とウクライナ戦争、この2つの戦争の相似形を我々は見逃すべきでない。長期的な視点に立って、韓国の望ましい未来図を展望する。
中国に「普遍的価値」はない
『ハンギョレ』社説と対照的な論調を紹介したい。
「米覇権への挑戦を宣言した中国の出現により、陣営対決体制の復活を迎えている。米中の覇権対決とウクライナ戦争をきっかけに、世界的陣営の対決体制を形成していく新冷戦体制の主役は今も昔も変わらない」
このような主張の論稿を『朝鮮日報』(7月16日付)に寄稿したのは、国策機関である世宗研究所のイ・ヨンジュン(李容濬)理事長(元韓国外務省北朝鮮核担当大使)である。ユン政権に近い韓国保守派の代表的論調といってよい。ポイントは、習近平中国の現状に対する評価だ。
「中国が新しい覇権候補国として掲げる『普遍的価値観』はどこにも見当たらない。『中華民族の偉大な復活』という排他的民族主義を旗印に掲げ、周辺国を不安にさせているだけだ」「中国は軍事同盟国が北朝鮮の1カ国だけで、朝鮮戦争以外には同盟国や友好国のために血を流したことがない。貧しい発展途上国のインフラ建設を支援するという中国の『一帯一路』事業は、港湾などを担保に高金利開発資金を貸し出す高利貸と何ら変わらない」。
このような論調はハンギョレ社説を真っ向から否定するものである。「韓国に対する中国の圧迫は、清時代の属国扱いでもするかのよう」とし、高圧的な干渉と非難に覆われているものと厳しく批判している。
韓国「グローバル中枢国家」
では、韓国はどうすればよいのか。同氏の結論は明快だ。
「韓国がこのような中国の干渉と脅威を克服し、世界10位圏の経済国、軍事国の地位を守り抜くためには、欧州の中堅国家が大国対決の隙間で長年体得してきた生存の知恵を学ぶ必要性がある。(中略)欧州先進国のこのような長年の知恵は、韓国が経済と科学技術だけでなく、国際政治舞台でも先進化を成し遂げ、グローバル中枢国家として跳躍するためには欠かせない貴重な教訓だ」。
韓国が提唱する「グローバル中枢国家」の構想をめぐっては、これまで曖昧さが指摘されてきたが、ここでより具体的に語られていることに注目すべきだ。
そもそも「価値観外交」という言葉自体が、麻生太郎政権や安倍晋三政権時代に流布された外交用語である。最近の韓国外交では当初の生硬さが解消される一方、ウクライナ戦争の勃発によって、スウェーデンなど北欧3カ国のNATO加盟方針が決定されるなど、より国際的な広がりが見られるようになった。
ユン政権の不安な前途
日米韓3カ国は7月16日、日本海で共同訓練を行った。 この訓練は、12日の北朝鮮による弾道ミサイル発射後初めてであり、海上自衛隊の新型イージス艦「まや」のほか、米韓両軍からイージス艦各1隻が参加した。防衛省は「弾道ミサイル情報の共有訓練を含む」と発表した。
北朝鮮が7月12日午前、発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の飛翔時間は74分で、昨年3月24日の71分を超え、過去最長に達した。弾頭の重さなどによっては、射程距離は1万5,000kmを超え、アメリカ全土を射程に含む可能性がある。
ユン政権の国際外交戦略は、自由と平和を追求する「グローバル中枢国家」として地域的役割をはたすという構想だ。この構想に基づいて、ユン大統領はG7広島サミットに参加し、ウクライナを電撃訪問した。
中韓国交正常化(92年)以来、韓国経済の好況は、中国経済の好景気と連動していた。しかし中国経済が低成長に転化した今、韓国はどういう選択をすべきなのか、ユン政権内部でも発足当初は意見が一致していなかった。しかし、ここにきてユン大統領のリーダーシップが発揮されて、「韓国の価値観外交」が明瞭になってきたのは幸いだ。
2027年3月の次期大統領選挙までに、保守陣営の勢力を盛り返すことができるのか。夜郎自大的な自信過剰に侵された韓国民の多くは依然として、世界情勢の変化に疎い「井の中の蛙」であり、ユン大統領への支持率は低迷したままである。「グローバル中枢国家論」の前途も不安含みだと言わざるを得ない現状だ。
(了)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)に従事。著作に『忘却の引揚史――泉靖一と二日市保養所』(弦書房、2017)、『占領と引揚げの肖像BEPPU1945-1956』(弦書房、2020)など。関連記事
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