2024年11月22日( 金 )

ラグビーワールドカップ2023の総括とラグビー界のこれから(1)

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稀に見る死闘のファイナル

ラグビー ゴールポスト イメージ    2023年9月8日にフランス・スタッド・ド・フランスで開幕した第10回目のラグビーワールドカップ(W杯)は、10月28日に決勝を迎えた。第1回開催から数えて、36年を迎えたW杯の決勝は、ニュージーランド・オールブラックス(NZL)と南アフリカ・スプリングボクス(SA)という“南半球”両国の対戦となった。

 W杯前は、開催国のフランスとアイルランドが絶対的優勢な予想のなか、NZL・SA代表とも「今大会は早々に姿を消すのでは」の各国メディア論評が、散見された。NZLはW杯開幕戦でフランス、SAは3戦目・アイルランドに敗れたことで、その論評はさらに偏向し、ファンやギャラリーも“北半球”贔屓の気運が高まった。

 しかし“偏向な”論評や贔屓目とは、逆の結果となった。準々決勝では、NZLはアイルランド、SAはフランスに勝利。スタジアム内も、それぞれ“北半球”へ大声援を送り、NZLとSAは完全アウェー状態のなかであった。開催国フランスとランキング1位であったアイルランドの敗退、さらにイングランドも準決勝でSAに敗れ“北半球”が姿を消した。

 地元と近隣の代表チームが姿を消したことで、決勝の観客動員が心配されたが、前述通りスタジアムは大観衆のなかでの戦いが繰り広げられた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領はじめ、各界のVIPやラグビー界の往年の名プレイヤーが多数来場、観戦した。

 開幕と同じパリ近郊・サンドニのスタッド・ド・フランスで、8万人を超える観衆のなか、午後9時キックオフで幕を開けた決勝――。結果は、12-11でSAが勝利し4度目の制覇と、19年日本開催から連覇を達成。連覇は、11&15年(NZL&イングランド開催)のNZL以来となった。

 キックオフから僅か2分に、NZLのFLシャノン・フリゼルがペナルティ(P)によりイエローカード。SAのSOハンドレ・ポラードがペナルティゴール(PG)を決め3−0。13分SAハンドレ・ポラードPG(6-0)、17分NZLのSOリッチー・モウンガPG(6-3)、19分SAハンドレ・ポラードPG(9-3)と“PG合戦”の様相を呈した。

 そして決勝の結果へ大きな影響をおよぼしたNZLキャプテンのFLサム・ケインが27分にレッドカードで退場。34分SAハンドレ・ポラード、38分NZLリッチー・モウンガがそれぞれPGを決めて12-6でハーフタイム。開始から20分過ぎまでは、地域支配とポゼッションともSAが優勢であったが、NZLもSHアーロン・スミス、SOリッチー・モウンガ、CTBジョーティ・バレット、WTBマーク・テレアらの高度なパスとキックを駆使し、徐々にゲーム主導権を持ち出した。

 互いに自陣22mからゴール付近のディフェンス(DF)が強固でトライを阻止。SAは今大会PG成功率100%のハンドレ・ポラードが、相手陣でのペナルティ獲得。ゴールまでの距離角度関わらず、PGを選択し3点を重ねていった。

 後半は、45分SAキャプテンのFLシヤ・コリシがイエローカード。SHファフ・デクラークそしてハンドレ・ポラードの正確無比なキックを中心にゲームマネジメントを実行し、FW陣の強靭なフィジカルを全面にしたボールキャリーとボールリサイクルを繰り返す。

 安定したセットピースから、CTBジェシー・クリエルとFBダミアン・ウィレムセのラインアタックでゲインし、WTBチェスリン・コルビ、カートリー・アレンセのランで再三トライチャンスを構築するも、NZLの堅いDFはSAのトライを阻止。50分あたりから、徐々にNZLのペースとなっていく。

 53分、アーロン・スミスの“幻のトライ”があったものの、CTBジョーディー・バレットとリコ・イオアネが剛柔なランとパスによりゲインする。加えてLOブロディ・レタリック、No8アーディー・サベアを中心にFW陣のハードワークでボール支配を高めていく。

 そして57分、ラインアウトから、FW陣のコリジョンを駆使しながらボールリサイクルを3度実施。ボールリサイクル後、ジョーディー・バレットが約30mのロングパスを通し、WTBマーク・テレアにボールが渡る。

 マーク・テレアは変幻自在のラン&ステップで、SAタックルを巧みに払いながらFBボーデン・バレットにパス。パスが成功し、この試合初めてのトライ。スコアは12-11。その後は、互いに渾身のDFで得点を許さず、フルタイムとなりノーサイド。SAが連覇を達成した。

 マン・オブ・ザマッチには、SAのFLピーターステフ・デュトイが選ばれた。ピーターステフ・デュトイは、タックル数28本(成功率89%)の驚異的数値で、堅守を象徴するSAを牽引し勝利に大きく貢献した。

 加えてDFではHOディオン・フーリーがタックル20本(成功率83%)、LOフランコ・モスタートが同16本(成功率100%)など、出場選手23名中10名が二桁のタックル数をカウントした。

 SAの合計209本のタックルで成功率80%は、ノートライでの勝利に直結。SAは、アタック(AT)の機会がNZLより極めて少なかった(パス→NZL:221  SA:84、ラン→NZL:149  SA:85などAT項目では90%超NFLが優る)にも関わらず、1トライで防いだSAの高度なDF遂行力が勝利へ導いた。

 NZLは、フォワード・バックス一体となった創造的なATを披露し、ゲインを試みた。事実ATの数値は、ゲインメーター459m(SA:360m)、コリジョンを制しながらのDF突破が37回(SA:14回)とAT優勢でマネジメントを実行していた。

 しかしながら、前記したキャプテンのサム・ケインの退場で80分間のうち約75%は、14名での戦いとなった。世界トップレベルでの戦いで、マイナス1名は非常にタフな状況であったことは明らかだ。裏を返すと、NZLは試合の大半を14名で戦いながら、1点差惜敗は称賛に値する。

 まさに“南半球”の両雄同士の死闘であった。

(つづく)

【青木 義彦】

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