2024年10月05日( 土 )

第三次世界大戦に備えよ

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広嗣まさし(作家)

世界地図 イメージ    以下の論考は「最悪の事態」を想定してのものである。実際にはそうならないことを、もちろん望む。しかし、最悪の事態が起きた場合を考えておくことも重要だ。とくに能天気な日本人である。以下のことを真剣に考えてもらいたい。

 「最悪の事態」とは第3次世界大戦である。「そうならないよう、アメリカは中東から徐々に手を引くだろう」とは多くの識者がいう。しかし、人間のすることは予測がつかない。時として、思わぬ過誤をおかす。

 国際政治の専門家ミアシャイマーによれば、「最悪の事態」は起こり得る。イスラエル軍がハマス打倒を掲げてガザ地区を占領すれば、レバノンに拠点を置く反イスラエル勢力ヒズボラが反撃してくるだろう。そうなると、イスラエルはアメリカの後押しのもと強大な軍事力でヒズボラと交戦する。ところが、そのヒズボラはイランの多大な軍事援助で成り立っている。かくして、イスラエルとハマスの戦争が、イランとアメリカの戦争へと拡大するというのだ。

 イランとアメリカの戦争となると、イランを支持する反米勢力とアメリカを支持する親米勢力とに世界は二分され、少なくともかたちの上では世界大戦となる。「形の上で」というのは、実際に交戦国とならなくても、どちらかの側に何らかのかたちの支援をするという意味である。

 中国や北朝鮮はイランの肩を持つ反米側である。日本や韓国は安全保障条約で結ばれた親米国としてイスラエルを支援する。この図式はほぼ確定していると言ってよいのではないだろうか。

 とはいえ、大戦になってもどちらにもつこうとしない国もありそうだ。インドである。この国はパキスタンとの関係が悪いが、イランとの関係は悪くない。また、距離をおいてはいるが、アメリカとの関係も悪いとはいえない。一方、中国との関係はよいとはいえず、とくに習近平政権に対して批判的である。というわけで、イランおよびアラブ諸国側を支持するか、それともイスラエルおよびアメリカ側を支持するか、この超人口大国はどちらにも転び得る。

 インドのもう1つの選択肢は、どちらの側からも距離を置き、自らの独立性を保つというものである。これによって損害を最小限に食い止め、近未来世界においてこれまで以上の地位を獲得できる。国内の経済格差がひどいとはいえ、昔からの階層制度とそれを支える宗教があるために暴動になりそうもない。これはインドの大きな強みである。

 文化的にはかつて英国の植民地であったこともあり、欧米諸国とうまく付き合えるノウハウをもっている。アジア文明の奥深い伝統を維持しつつ、イスラム諸国のような欧米コンプレックスや欧米憎悪もなく、世界を達観できる地位にたどり着くことができそうだ。世界で一番ハッカーを多く産出していると言われ、数学に強く、アメリカへの移民の子息たちが医師になり、銀行員となっているケースが多いと聞く。この国の潜在力は計り知れない。

 日本に話題を移すと、なんとも悪い状況に巻き込まれつつあるというのが真実だ。日米安保体制のせいで、中東戦争が世界戦争に発展すればイスラエル=アメリカに加担せざるを得ない。経済的援助はもちろん、自衛隊の派遣もあり得ないわけではない。

 このような状況に鑑み、たとえば憲法を改正して、自衛隊を他国の軍隊と比べて何ら遜色のない武力行使権を持たせるという案は一定の妥当性をもつ。安保体制を脱して、一個の独立国となってアメリカへの依存を断ち切る道も開けるだろう。それによって、長過ぎた「戦後」を終らせることもできるのである。

 しかし、せっかく平和憲法があるのだから、これを武器にして技術立国としての立場を鮮明にし、一切の戦争に巻き込まれないスイス的永世中立を打ち出すことも不可能ではない。「そんな呑気なことをいうな」と血気にはやる人もいるが、現在の国際社会において軍備を増強することにほんとうに意味があるのか。

 前出のミアシャイマーは「大国は覇権主義に走るものだ」という(『大国政治の悲劇』)。これを回避するには、各国が周辺国との連携を強化し、特定の国が世界制覇の夢を抱くことがないよう監視しあう必要があると彼はいう。これを東アジアに当てはめれば、日本や韓国はまず中国と連携し、信頼関係を築くことで中国に覇権主義が生まれないよう監視する必要があることになる。そのためには、イデオロギーより実利を優先させることが重要で、それができれば、これまでのようにアメリカからの圧力を忖度することもなくなるのである。

 アメリカのイスラエル政策は時代遅れだという批判もある。同国の東アジア政策も転換を迫られているように思える。日本はいつまでも受け身であってはいけない。自分の立場を打ち出す時がきているということに気づいてほしい。

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