IRの現状とハウステンボスへ誘致の是非(中)
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運輸評論家 堀内重人
IRは「Integrated Resort」の頭文字で、「統合型のリゾート」という意味であり、カジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備法は、2018年7月に成立した。
IRの整備をめぐっては、地元への経済効果やインバウンド需要の拡大などを期待する声が多く、誘致を目指す動きが相次いだが、横浜ではIR誘致に反対を訴えた市長が当選して計画を撤回したほか、和歌山県では整備計画を国に申請するための議案を、議会が否決するなどの動きも出てきた。
長崎県は、ハウステンボスのハーバーゾーンにカジノを含めたIRを誘致する計画があり、国に申請しているという。
本稿では、カジノの是非と長崎県の計画について述べたい。建設業界の動きは
IR推進法が成立し、実際に大阪府や大阪市が「夢洲」という具体的な地名を出しことに対し、建設業界は喜んでいる。建設業界は、IRが整備されると莫大な資金が業界に舞い込むため、IRに期待している。日本の景気が停滞しており、東京オリンピックが終わったことから、「次は大阪万博とIRが大きな市場だ」と、見ていることもあり、IR関係の部署を設けたりしている。
IRに反対派の市長が当選したことで、IRの計画が撤回された横浜市であるが、投資額は1カ所辺りで数千億円から1兆円超にも達するというぐらい、莫大な金が動く。
大阪府・大阪市の場合も、IR本体だけでなく、会場となる夢洲へ向けた地下鉄の延伸工事などもあり、建設業界にとれば、旨味のある事業といえる。
だが新型コロナの感染拡大で、旅行の自粛などもあったため、実際の「発注」が何時になるか分からなくなった。大阪万博も、2025年3月の開催まで1年半を切っているが、満足にパビリオンすら建っていない。そのような状況からして実際のIR開業が2030年以降になることは必至である。
建設業界では、IR関係の部署はなくなっていないが、申請書を提出したのが大阪府・大阪市と長崎県だけであるから、IR関連の部署の規模を縮小しつつあり、今後の苫小牧市やほかの都市や県などの動きを、静観している状況である。
建設業界は、やや後ろ向きになりつつあるが、IR構想は自民党の菅内閣の「目玉事業」である。政府は、新型コロナの感染拡大の動向を見つつも、推進したいのが本音である。
ハウステンボス再建時にフリーゾーンの導入
ハウステンボスは、バブル崩壊やリーマン・ショックなどの影響もあり、2度も経営破綻をしてしまった。そこでHISの傘下に入って事業再建を始めるが、最初の決算である2010年度は、リーマン・ショックの影響も日本全体に残っていたが、「開業以来初の営業黒字に転換しました」と、その旨を公表した。黒字に転換した理由として、2010年度は佐世保市から再生支援の交付金として、8億7,890万円が支給されていたことが影響している。
当時の澤田社長は、TDLなどを意識せず、かつテーマパークとしても考えなかった。もし「観光ビジネス都市」と位置付ける経営を行ったとしても、急にお客さんや収入が増えるものではないと考えた。
また敷地が、TDLと比較して1.6倍と大き過ぎたことから、10年4月にハウステンボス敷地の南側1/3を切り離した。これにより固定資産税が大きく低減する。この部分は、無料で入れるフリーゾーンとして(写真1)、利用者を増やすだけでなく、佐世保市民や多くの人が、新たにビジネスを始めるための環境を整備する試みを開始した。
フリーゾーンとハウステンボスの境界には、新たに「南門」を設けている。一度フリーゾーンへ入った人も、入場券を見せれば再入場が可能である。
当時の澤田社長は、当初から「フリーゾーンにはベンチャー企業なども誘致したい」と考えていた。またHISは、格安航空券の販売を実施していたことから、日本国内を見るのではなく、中国や韓国、台湾を見据えて、当時の澤田社長は「医療観光」も考えていた。さらに経費を削減するため、フリーゾーン隣接して所有していた「ハウステンボスマリーナ」というヨットハーバーを、長崎県に譲渡するかたちで11年4月に手放した。
(つづく)
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