2024年11月22日( 金 )

「音」に強い拘りを持つ人たちの話(後)

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大さんのシニアリポート第129回

 運営する高齢者の居場所「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)を利用する常連客の半数近くが難聴者だ。会話の音量が半端ではない。互いに大声で話す。少々大袈裟にいえば狭い部屋はいつも大音量のライブハウス状態。亭主である私も負けずに声を張り上げるから、常に喉はカラカラ。のど飴は欠かせない。ただ常連客の耳には普通に聞こえるらしく、補聴器云々の話は出たことがない。その声音(こわね 音色)に敏感な私にとっていつも辟易とさせられる。

音で、認知症に挑め。

サロン幸福亭ぐるり    興味深い新聞一面広告(朝日新聞2023年4月14日)を見た。ピクシーダストテクノロジーズと塩野義製薬の共同開発で、「音で認知症に挑む」というプロジェクトを立ち上げたという。キャッチコピーに、「わずかでも希望があるのなら。その思いで研究を重ね たどり着いた可能性が『音』でした。変調された音を聞くと 脳が活性化し認知機能への効果が期待される。これなら、テレビやラジオなど 日常のあらゆる音を変調することで 生活に寄り添いながら認知症と闘えるかもしれない。」詳細は不明だが、これが奏功すれば画期的なことだ。

 先日、アルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」が医療保険の対象となることが厚労省から発表された。レカネマブは、脳内に蓄積されたアルツハイマー病の原因によるとみなされる「アミロイドβ(ベータ)」を、点滴投与で除去する国内初(エーザイと米国バイオジェン社との共同開発)の薬。病気の進行を緩やかにする効果があるという。ただし利用にはいくつかの高いハードルが課せられ、希望者全員が利用できるというわけではない。さらに、脳内の浮腫、微小出血などの副作用もある。

 日本ではすでに「アリセプト」などの抗認知症薬が使われているものの、効果を疑問視する声も多い。「ぐるり」の常連だったT夫妻の介護を放棄した長男に代わって、私と社協のCSWが看ることになった。夫婦とも認知症で、病院での診察の後アリセプトを服用。アリセプトの副作用は下痢である。高齢者の場合、消化器官の機能低下による脱水症状と食欲不振のため、著しい体調不良を招く場合がある。服用後その通りになった。以降、ふたりへの介護は困難を極めた。結局、施設に入所という結末を迎えることになるのだが、「抗認知症薬」どころか症状を悪化させる最悪の薬だと思う。「音」で認知症の進行を抑えることができるなら、副作用も軽減化されるのではないか。大いに期待したい。

音への強い拘りと信念が会社を再建させた

ヘッドフォン イメージ    音への強い拘りが新商品を生み出す力は、大手より小企業の方が向いている気がする。わずか従業員8人の会社「サウンドファン」(東京都台東区)が「ミライスピーカー」という画期的なスピーカーを出した。難聴のユーザーでもこれをそばに置けば、自動的にテレビの音量を聞きやすく変換してくれるというもの。「テレビの音量を下げても聞こえる」「音の輪郭が際立って感じる」と好評だ。同社が「曲面サウンド」と呼ぶ技術。弧を描くように曲げた板を振動させて音を発生させると距離が離れていても聞こえやすくなることを突き止め製品化した。販売をネット通販に絞りこんだことも成功した原因の1つだ。70~90代の親へのギフト需要を目論んでいたが、50代、60代も自分専用として買い求めるケースが目立つという。聴覚障がい者がパソコンに繋いでオンライン会議に利用するという新たな利用例も出てきた。山地浩社長は、「『聞こえ』で困っている人の多さを実感した以上、普通のスピーカーとはまったく別の価値を提供し、新たな市場をつくりたい」と意欲的だ。

 警察官の無線イヤホンや放送局、工事現場でのヘッドセットといった業務用の音響機器メーカー「アシダ音響」が一般ユーザーの注目を浴びている。同社がつくる業務用ヘッドホンが、「音が真面目で、華やかな色づけがない」とプロの音楽制作者に高評価なのである。ZARDの坂井泉水さんのようにプロのアーティストたちも愛用されたことが大きい。自社ブランドを立ち上げ、一般向けの製作を開始。カラーはグレー一色、有線のみ、重さわずか110グラム。定価6,380円。つくるそばから売れて常に品薄状態である。柳川社長は「無理に売上を追うのではなく、これまで通り品質第一でいきたい」と謙虚だ。

 通常、加齢で聴力が衰えた人のための補助具として補聴器があるが、難聴の度合いは個人差があり、正式には専門医(技術者)による微調整が欠かせない。誰でも正確な微調整が可能で安価な補聴器の登場を期待したい。「ぐるり」の面々も大いに喜ぶと思うのだが・・・。

(了)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。

(第129回・前)

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