2024年12月22日( 日 )

2024年最大の地政学リスク トランプ再選による影響

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国際政治学者 和田 大樹

アメリカ大統領選挙 イメージ    2024年が始まった。今年は台湾やインドネシア、インドやロシアなど各国で選挙が行われる選挙イヤーだ。そのなかでも最大のポイントになるのが11月の米大統領選挙の行方だ。現状では現職のバイデン大統領と前大統領のトランプ氏の再戦が濃厚で、今後の状況次第ではトランプ氏が大統領に返り咲くというシナリオも十分あり得る状況だ。

 米中西部アイオワ州では1月15日、米大統領選に向けた共和党候補指名争いの初戦となる党員集会が行われ、トランプ氏が圧倒的大差で勝利した。オハイオ州の地元紙「デモイン・レジスター」が直前に発表した世論調査では、党員集会参加者の48%がトランプ支持者で、2位のヘイリー氏が20%、デサンティス氏が16%、ラマスワミー氏が8%となり、共和党候補はトランプで事実上決まりという状況になっている。そうなれば、秋の本選はバイデンVSトランプと4年前の再戦となるが、現在バイデン大統領の支持率は33%あまりと伸び悩んでおり、両者の比較ではトランプ有利とのメディア報告もある。では、仮にトランプが勝利することになれば、世界情勢にどのような変化が訪れるのだろうか。

 まず、経済安全保障の視点から懸念されるのが、米中貿易戦争の再来だ。バイデン政権も新疆ウイグルの人権問題や先端半導体分野などをめぐって中国への貿易規制を強化しており、米中貿易戦争はバイデン政権に継承されているとも言える。第2次トランプ政権の発足となれば、中国が米国から雇用や利益を奪っているとして、中国製品の輸出入を停止するなど大胆かつ先制的な貿易規制を仕掛ける可能性がある。バイデン政権の対中貿易規制には、新疆ウイグルにおける強制労働や中国による先端半導体の軍事転用阻止など明確な理由があったが、トランプ政権下では懲罰的、攻撃的と表現できるような貿易制裁が仕掛けられ、世界経済を大きく混乱させるリスクがある。グローバル企業は、トランプ氏の予測不可能性に再び悩むことにもなろう。

 そして、今日緊張が続く中東情勢にも悪影響を与えかねない。イスラエルとイスラム主義組織ハマスとの戦闘が始まって3カ月が経過するが、今年になってイエメンを拠点とする親イラン武装勢力フーシ派に対して米英軍が攻撃を開始するなど、戦闘が中東地域で拡大傾向にある。イラン系武装勢力が反イスラエル闘争をエスカレートさせるなか、イスラエルとイランの対立も深まっており、このような状況でイスラエル重視、イラン敵視のトランプ政権が復活すれば、米国イスラエルが協調するかたちでイランへ圧力に強め、中東の安全保障がさらに緊迫化する可能性がある。

 また、自由民主主義陣営の分断を拡大させる。トランプ氏はすでに大統領に復職すれば最優先でウクライナ支援を停止すると言及したが、仮にそうなればウクライナ情勢は大きくロシア有利に傾き、フィンランドやバルト3国などにおけるロシアへの安全保障上の懸念が飛躍的に強まるだけでなく、対米不信も拡大することだろう。

 それは同時に英国やフランス、ドイツなど欧州と米国との間に決定的な溝をつくることにもなる。第1次トランプ政権時、米国はパリ協定など国際的枠組みから一方的に離脱するなどし、欧州との関係は最悪なレベルにまで冷え込んだ。その後発足したバイデン政権が真っ先に取り組んだのが欧州との関係改善だったが、第2次トランプ政権の発足はその流れを再び逆行させることになる。

 バイデン政権はウクライナや台湾の情勢を踏まえ、民主主義と権威主義の戦いを強調するが、大統領トランプの再来は民主主義陣営のなかでの分断を深め、権威主義との戦いで民主主義の衰退を助長するリスクがある。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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