2024年12月21日( 土 )

「共同親権」導入を今国会提出 離婚後の健全な親子関係が持続できる社会に近づけるか

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 法制審議会(法務大臣の諮問機関)の家族法制部会は30日、離婚後も父母双方が子どもの親権をもつ「共同親権」導入を柱とする民法改正要綱案をまとめた。政府は今国会に改正案を提出し、成立を目指す。

 以下では、改正要綱案のポイントと、今後の課題となる点について整理したい。

改正案:協議によって共同or単独親権を決める

 現行法では、離婚後は父母のどちらか一方だけが親権をもつ「単独親権」のみ認められているが、改正要綱案では離婚時に父母の協議によって共同親権か単独親権かを決めることができるとし、合意できない場合は家庭裁判所が親権者を定めるとしている。また、同居時にDV(ドメスティック・バイオレンス)や子どもへの虐待が発生していたと裁判所が認めた場合は、被害者を保護するために単独親権が設定されることとなっている。

法改正だけで問題は解決しない、課題は実際の運用

 共同親権が求められるようになった背景には、現行制度下において別居親と子どもとの面会交流が実現せず、夫婦の離婚をきっかけに健全な親子関係が断絶される事態が相次いでいるという現実がある。

 今回の改正法案は解決の第1歩となるが、課題は残されている。

 子どもの福祉のために健全な親子関係を維持する機能として、面会交流がはたす役割は重要だ。現行の単独親権制度下においても、裁判所は建前上、離婚した後の別居親と子どもとの面会交流を重視することとなっている。もしその通り面会交流が十分に実施されていれば、親子関係の断絶という問題がこれほど大きく取り沙汰されることはなかっただろう。だが現実には、たとえ裁判所が調停で面会交流の実施を認めても、同居親がさまざまな理由をつけて面会交流の実現を阻害している事例が後を絶たない。このような事態に対して、裁判所は面会交流の実施を強制させる権限はなく、また、面会交流に消極的な同居親の親権適格性に対して踏み込んだ判断(たとえば親権をとりあげるなど)も行ってこなかった。その結果、別居親に何ら問題がない場合でも、同居親の一存で、別居親と子どもの関係が断絶される事態が数多く発生し、しかも最後のよりどころである司法がそのような状況であるため、それ以上、誰も当事者を助けることができないという現実がある。

 たとえ共同親権が導入されても、現行制度下において表れているような裁判所の姿勢が変わらない限り、別居親と子どもとの関係断絶の実態は改善に向かわない可能性がある。健全な親子関係の断絶をこれ以上発生させないために、健全な面会交流の実施を担保できるような、法改正後の運用体制の構築が不可欠だ。

真正DVと虚偽DVを正確に認定できるか

 実際の運用においてもう1つ焦点となるのは、親権決定に影響を与えるDVの認定だ。先述の通り、共同親権の留保条件として、同居時にDVや子どもへの虐待が発生していた場合は、加害者の親権は制限されることになっている。DV被害が真実であれば、そのような措置は当然必要だ。だが、現行制度下で問題になっていることは、虚偽のDV申請によってDV加害者と決めつけられた片親が、慎重な確認がなされる前に、一方的な親子関係の断絶に追いやられ、そのまま関係断絶が永続化する事例が多く報告されていることだ。

 これはDV防止法の運用に関わる問題であり、同法の過剰な運用実態が共同親権の導入や面会交流の重視を有名無実化してしまうことがないように、親権をめぐる争いにかかわる局面におけるDV防止法の運用についても議論が必要ではないだろうか。

子どもの利益を最善に考えた、健全な親子関係維持が可能な社会の実現を

 共同親権の推進、あるいは面会交流の円滑な実施を求める声は、多くの場合、別居親から発せられているものだ。しかし、その利益は決して別居親のためにばかりあるのではない。むしろ、子どもの利益として、別居親と子どもとの健全な親子関係の維持が、子どもの健全な成長と福祉のためにかけがえのないものであるという立場を基本的なものとして、本件の議論を今後も続ける必要がある。

 子どもの最善の利益の実現と、その一環としての離婚後の健全な親子関係維持が可能な社会の実現のために、法律の成立をもってゴールとしない運用体制の確立に向けた取り組みが求められる。

【寺村朋輝】

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