【トップインタビュー】「優れた企画力」を有するアパレルメーカーに転換へ
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津田産業(株)
代表取締役社長 津田 鶴太郎 氏繊維・衣料品卸として70年以上の歴史をもつ津田産業(株)。福岡・九州を地盤に、現在は女性向けアパレル企業としても全国に販売網を広げている。一方で業界は激しい変動の渦中にあることから、同社では新たな方向性「優れた企画力のあるメーカー」への転換を進め、事業環境の変動へ対応しようとしている。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉 直)大きな岐路に立つ繊維・衣料業界
──繊維・衣料業界は今、どのような状況にあるのでしょうか。
津田鶴太郎氏(以下、津田) 日本の繊維・アパレル業界は今、消費者ニーズの変化やデフレの進行、国内繊維産業の衰退、為替の変動などといったさまざまな変動に直面しています。大きな岐路に立たされており、それは当社も例外ではありません。もちろん、コロナ禍でも大きな影響を受けましたから、今は次にどのような環境の変化が起こるのかを察知するのに努めるなど、バタバタせずに対峙しているところですね。食品業界では内容量の調整で対応していますが、繊維の量を減らすことが品質の低下に直結する私どもの業界では、そうした対応ができないのが難しいところなのです。
消費者が求める衣料品の姿もかつてと比べて大きく変わっています。ファストファッションの普及などにより高品質で安価な商品が求められるようになるなか、実用衣料の収益性は低下傾向にあります。当然、繊維や衣料品を卸すかつての問屋という業態では生き残っていけなくなっており、当社ではハイセンス、高付加価値な商品を独自に企画・販売する女性向けアパレルメーカーとしての業態に変化するべく、取り組みを進めています。企画力をより一層高めることができれば、特殊な商品を販売することができるようになり、その結果、より高い収益を得られるようになると考えられるからです。
──繊維や衣料品はかつて日本の基幹産業の1つとなっていました。現在、その生産の状況についてはどうなっているのでしょうか。
津田 現在では国内の繊維産業は海外の安い労働力に押され、日本各地の生産拠点は壊滅的な状況にあります。かつて滋賀県は一大生産拠点が形成されている地域の1つでしたが、その後、家電などの工場に人手が取られ、繊維系の工場はほぼなくなっています。
13年前の東日本大震災で東北地方の工場が被災、廃業したこともその状況に拍車をかけました。少なくとも縫製工場については国内では皆無に近い状況になっています。円安になってきましたから「国内回帰を」という声も聞かれるようになってきましたが、そもそも事業者が国内からいなくなっていますから、それは無理な話です。その結果、生産の機能は中国やアセアン諸国など海外に移っており、当社でもインドやバングラデシュへ移管しています。
関西・関東にも販売エリアを拡大
──販売エリアや取引先も以前と比べて変化があるのでしょうか。
津田 当社では輸出も一部行っていますが主力は国内です。アパレルメーカーとして主要百貨店、ショッピングセンター、量販店、専門店と売り先は多岐にわたっております。ただ、これまで販売先として牽引してくれていたディスカウントショップとの取引が近い将来、減少傾向になると考えています。これはひとえに円安が激化しているからです。
当社の販売網は現在、九州を主軸とし売上の6割超を占めます。ただ、これまでに中国・四国地方、関西や関東にも進出を進めるなど販売チャネルの拡大に努めています。同じ商品を同じ地域の他店で販売することに難色を示す量販店などの顧客もいらっしゃいますが、販売エリアが離れていれば問題ないケースもあり、つまり市場開拓をする余地があるのが当社の強みの1つでもあります。いずれにせよ、昔ながらの小売問屋では生き残ってはいけません。そこで、アパレルメーカーとしてより一層企画力を高め、高収益化を図ることに活路を見い出そうとしているわけです。
求められる人材像にも変化
──そのためには人材の確保と育成が非常に重要になりますね。
津田 服飾系の大学や専門学校を卒業した新入社員を確保するのは大変ですし、彼らに教育を施し育成することも難しい状況です。そもそも、卒業生がアパレル系の企業に就職するケースも減っています。そこで採用の中心になっているのが中途です。彼らには営業経験があり、取引先とコミュニケーションを取りながら商品の企画を行えるからです。
たとえば、単品の商品だけでなく「こんなコーナーを設ければより訴求効果が高まります」などといった、デザインだけでなくマーケティングセンスを兼ねそろえる総合力のある人材ですね。デザインについては韓国などの企業でも力を付けていますし、生地などの情報についても韓国企業からもたらされることが多くなってきました。海外とのビジネスには為替などのリスクも
──先ほどインド・バングラデシュの話がありましたが、海外とのビジネスが活発化しているのですね。
津田 当社の事業は内需が中心ですが、一部では輸出にも取り組んでいます。中国や香港ではメイドインジャパンではないものの、日本でプロデュースされた商品に対する評価が高く、根強いニーズがあるのです。これがアパレル業界の停滞の歯止めになっていますし、当社においても業績を下支えする事業の1つとなっています。とはいえ、海外とのビジネスにはさまざまな懸念材料もあり、その最たるものが為替リスクです。内需を中心としている以上、円安は輸入仕入価格の上昇に直結し、収益低下につながります。昨年は150円まで円安になりましたが、海外とのビジネスを行う機会が増えるなか、「これが今の日本の現状。でも実力ではないはず」と感じていますね。
また、海外とのビジネスではさまざまなトラブルへの対応力も求められます。たとえばコロナ禍の期間には、生産拠点があるインドから船便で輸入しようとした際、中継地の上海で輸送船が足止めされ、商戦に間に合わず、利益を損なうケースも経験しました。ですので、現在では夏物の場合、前年7月に製造を開始し、商戦の前の2~3カ月前には輸入を終え、在庫として確保し対応するように事業スケジュールを変更しました。当社の売上はメーカー部門が3割を超えるようになりました。在庫リスクも当然あるのですが、インドなど生産地の国民性を考慮すると、そうした方が、リスク回避策がしやすいと考えられるからです。
多角化により経営リスクの分散化図る
──ところで、御社は創業から78年が経過し、津田社長も社長就任から30年以上が経過しています。今後の企業存続に向けてどんな取り組みを行っていますか。
津田 2018年に持株会社である津田ホールディングス(株)を設立しました。現在、ホールディングスの構成企業はアパレル部門の津田産業(株)、工場部門のフクハン(株)、不動産事業の久星(株)となっています。このように多角化することで、経営リスクを分散できているのが当社の強みの1つといえます。
このうちフクハンについては、トラックの幌や学校の運動会などで使われるテントのシートを皮切りに、近年では引っ越しの際にエレベータ回りなどに使う養生シート、さらにはデパートなどの大型の垂れ幕などの製造・販売も手がけています。養生シートについては、エレベータメーカーの製品形状に合わせた自動カッティングの仕組みを導入していることなどから、エレベータ各社からご好評をいただき引き合いが増え、高い収益を得ています。また、垂れ幕ではたとえば現在、福岡中央郵便局に設置してあるものが当社の製品になります。繊維卸やアパレル事業を展開している企業が、このような多角化を行っているケースはあまり例がないのではないでしょうか。
──今後の企業存続についていかがお考えですか。
津田 ホールディングス体制としたのは、今後の業界変容を見据えた場合、1人ですべてに対応するのは難しいことから、次の世代への負担を軽減することが目的です。先ほどお話ししたフクハンは父の会長が経営を見ており、若く優秀な人材が会社を牽引しており、高い収益を上げられるようになってきました。
このように、各事業会社の社長をどのように育て上げるかが、グループ存続のカギと考えています。あとは津田産業の後継社長をどうするかが目下の課題ですね。なお、ホールディングスの傘下には入れていませんが、グループ会社として特別養護老人ホームやその他の会社などもあり、その経営には専門的な人材が担っています。
繊維・衣料業界はかつてとは大きく様変わりし、その経緯を知る人物も少なくなってきました。しかし、彼らが経験してきたことは大変貴重なものです。経営の手法を変えることも大切ではありますが、かつての手法にも良い部分があります。私は社長就任から30年以上が経過し、お世話になり多くの助言をいただいた諸先輩の証言や知恵を、後進の方々に伝えていくことも大切な役割であると考えるようになりました。そうした取り組みも通じて、業界の発展に貢献していきたいと考えております。
【文・構成:田中 直輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:津田 鶴太郎ほか1名
所在地:福岡市東区多の津1-7-2
設 立:1946年10月
資本金:9,610万円
<プロフィール>
津田 鶴太郎(つだ・つるたろう)
1962年4月生まれ。西南学院大学商学部経営学科卒。初代社長・故津田鶴治が勤めていた田村駒(株)に86年入社。その後、91年に津田産業の3代目社長に就任し、同時に営業拠点を博多区下川端町から福岡流通センターに移転した。福岡商工会議所・副会頭、(公社)福岡貿易会・副会長、福岡繊維卸協同組合・理事長などを務める。(一社)日本アパレル・ファッション産業協会会員。関連記事
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