【鮫島タイムス別館(22)】麻生太郎をキングメーカーから引きずり下ろした「岸田の乱」 仕掛け人は積年の宿敵・古賀誠か
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(株)データ・マックスはNETIB-Newsに【鮫島タイムス別館(22)】を連載しているジャーナリスト・鮫島浩氏の講演会および議員向け意見交換会を3月27日に福岡市内で開催する。詳細、申込については文末のリンク記事を参照。
岸田政権の「生みの親」である自民党の麻生太郎副総裁が窮地に立っている。安倍派、二階派、岸田派が立件された裏金捜査はかわしたと思いきや、追い詰められた岸田文雄首相が岸田派を解散する「捨て身の逆襲」に出て、麻生・茂木・岸田の主流3派体制は崩壊した。そのうえ安倍派、二階派に続いて森山派まで解散し、派閥存続を表明した麻生派と茂木派が一転して孤立する事態に陥ったのだ。
麻生氏がポスト岸田の筆頭と考えていた茂木敏充幹事長は、足元の茂木派から小渕優子選対委員長ら離脱者が相次ぎ、次期総裁レースから脱落。麻生派からも岩屋毅元防衛相が離脱し、安倍晋三元首相が急逝した後、岸田・麻生・茂木の「3頭政治」を率いてきた麻生氏は、予期せぬ「岸田の乱」でキングメーカーの座から滑り落ちた。まさに「飼い犬に噛まれた」思いであろう。
麻生氏は怒り心頭だ。今年9月の総裁選で岸田再選を支援しない意向を周辺に漏らしている。子飼いの茂木氏が失速したため、あわててポスト岸田に引き立てたのが上川陽子外相だ。上川氏は岸田派に所属していた。岸田首相や岸田派ナンバー2の林芳正官房長官への強烈な仕打ちといっていい。
麻生氏が上川氏の外交手腕を評価したうえで「このおばさんやるねえ、そんなに美しい方とは言わんけども」と口を滑らせたのは、知名度の低い上川氏をショーアップする意図的な世論誘導策だったと思われる。その狙いは的中して上川氏への注目度は跳ね上がったものの、麻生氏の「ルッキズム」に世論の批判は高まり、「派閥存続」とあわせ、麻生氏は「古くさい政治」とシンボルと化した。岸田政権に対する世論の批判を一身に引き受ける羽目になったのだ。
岸田政権発足から2年を超え、岸田首相は「麻生氏の傀儡」であることに実は不満を募らせていた。首相官邸から麻生氏と茂木氏が陣取る自民党本部へたびたび呼び付けられ、政権の大方針を言い渡されることに我慢がならなくなり、「麻生氏からの自立」を探ってきた。昨年9月の内閣改造・党役員人事では茂木幹事長の交代を画策したものの、麻生氏に土壇場で猛反対され断念。その後は財務省の後見人でもある麻生氏の反対を無視して所得税減税を表明した。岸田派も検察に立件されるという想定外の事態に直面して「検察当局はこの国の最高権力者を自分ではなく麻生氏だとみている」と実感し、ついに麻生氏との決別を決意したのだろう。
麻生氏は1999年、宏池会(現・岸田派)会長に加藤紘一氏が就任したのに反発して河野洋平氏とともに飛び出し、たった15人の「大勇会」を旗揚げした。これが麻生派のルーツだ。麻生氏はこの小世帯のグループを保守本流の平成研究会(茂木派)や宏池会を上回る第二派閥に自力で育て上げた。派閥には並々ならぬ思いがあり、まさに麻生氏の政治力の源泉でもあった。
麻生氏は派閥を手放せない──。岸田首相はそれを承知で「派閥解消」を打ち上げ、自ら率先して岸田派を解散し、派閥解散ドミノを誘発したのだから、やはりこれは「岸田の乱」と呼ぶのが腑に落ちる。
おまけに自民党内で「派閥解消」を訴えてきたのは、麻生氏とキングメーカーの座を争う無派閥の菅義偉前首相である。麻生・茂木・岸田の主流3派体制のもとで非主流派に甘んじてきた菅氏に同調したのだから、「麻生氏への当てつけ」というほかない。
だが、「岸田派解散」という起死回生の一手を岸田首相が自ら思いついたのかは疑問が残る。昨年6月に衆院解散風を煽りに煽りながら見送り、自民党内から「首相の解散権を弄んだ」とひんしゅくを買ったことに代表されるように、岸田首相が仕掛ける政局はこれまで不発続きだった。今回は岸田派が立件されるという「窮鼠猫を噛む」状況だったとはいえ、岸田首相の発案にしては切れ味が良すぎる。さりとて、絶体絶命のピンチに菅氏の提案を受け入れるほど両者に信頼関係はない。
岸田首相に入れ知恵した「影の主役」と私が見ているのは、岸田首相を第9代宏池会会長に指名した第8代会長の古賀誠元幹事長である。何しろ古賀氏は地元・福岡で麻生氏とは長年の宿敵なのだ。
古賀氏は政界引退後も宏池会の名誉会長として影響力を残してきた。岸田首相が2020年総裁選で菅氏に敗れた後、菅氏と対立していた麻生氏を頼って接近した際、麻生氏から「古賀氏と手を切れ」と迫られた。岸田首相はこれを受け入れ「恩師」の古賀氏に名誉会長退任を促したのだ。古賀氏は激怒して身を引き、岸田首相との関係は冷え切っていた。古賀氏は菅氏と連携して岸田政権を外から揺さぶってきたのである。
とはいえ、岸田首相は老舗派閥「宏池会」解散を古賀氏に無断で決定することはありえない。古賀氏と岸田首相を除く歴代会長は全員他界している。岸田首相が仁義を切る唯一の存在は古賀氏なのだ。もし古賀氏に無断で宏池会解散を表明したら古賀氏はさすがに不快感を表明しただろう。ところが古賀氏はマスコミに一切コメントしなかった。この事実は古賀氏が宏池会解散に同意していたことを示唆している。それどころか「麻生失脚」を狙って岸田首相に宏池会解散の逆襲を吹き込んだのではないだろうか。
宏池会の会計責任者を務めていたために略式起訴された元事務局長は長く派閥職員を務め、古賀氏の信頼も厚かった。彼は検察による事情聴取の内容を岸田首相だけではなく、古賀氏にも逐一報告していたに違いない。古賀氏は岸田首相とほぼ同時に宏池会が立件されることを察知したはずだ。ただちに岸田首相に電話し、現会長と前会長のふたりの「謀議」で宏池会解散は電撃的に決定したというのが私の見立てである。古賀氏による麻生氏への復讐劇といえなくもない。
古賀氏には宏池会を永久に消滅させる気はさらさらない。麻生氏が失脚すれば、いずれ子飼いの林氏を第10代会長に押し立て「林派」として復活させ、麻生派の一部を逆に引き込んで「大宏池会」として再興させるつもりだろう。麻生氏が思い描いてきた「大宏池会」構想を横取りしようというわけである。
朝日新聞政治部時代に宏池会や大勇会の番記者を務めた私には、今回の宏池会解散劇の影の主役は古賀氏と思えてならない。福岡を地盤とする麻生・古賀両氏の積年の確執が今ここに噴き出し、自民党全体を大きく揺るがしているのである。
講演会
【3/27、要申込】鮫島浩氏、講演会
『近づく解散総選挙 我々市民はいかに選択するか?』
議員向け意見交換会
【3/27、要申込、議員限定】
『鮫島浩 × 議員 政局意見交換会』【ジャーナリスト/鮫島 浩】
<プロフィール>
鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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