2024年11月24日( 日 )

2024年の世界情勢の展望 日本が経済危機の悪夢から逃れるためには(後)

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京都大学大学院教授 藤井 聡 氏

 2024年、米国とロシア、台湾などで実施される選挙、ウクライナ戦争、各国の金利政策などの行方は世界情勢、とくに経済に大きな影響をおよぼす。そのなかで懸念されるのがリーマン・ショックの再来であり、もし生じれば日本経済は凄まじい打撃を受ける。日本経済を守るためには、きたる選挙において候補者の財政政策を見極めることが望ましい。

リーマン・ショックの再来は
日本に巨大な被害をもたらす

京都大学大学院教授 藤井聡 氏
京都大学大学院教授
藤井 聡 氏

    実際、2000年代のアメリカではインフレが続き、金利引き上げ対策が続けられていた。そして、その金利の引き下げが行われ始めたことを契機としてリーマン・ショックが起こったのだ。日本のバブル崩壊も、1980年代、空前のバブル景気で沸き、高金利状態が継続していた状況のなかで、日本の政府当局が不動産のための融資についての総量規制が行ったことで勃発した。金利高騰状況下で旺盛になっていた金融商品の売買に対して、利上げ等の何らかの規制が行われたときに「バブル」は崩壊するのだ。

 今回の異様な欧米の利上げもまた、金融市場の急激なる活性化をもたらしているのであり、従ってそれに水を差す「利下げ」政策が「バブル崩壊」をもたらす重大な契機となり得るのである。そうなったとき、日本経済は凄まじい打撃を受けることになる。

 今の日本では、庶民の暮らしは物価高で極めて苦しい状況にあるが、大企業らはそれと裏腹に「空前の好景気」に沸いている。なぜなら彼らは大規模な輸出を行う企業らであり、その輸出ビジネスが、(世界各国の利上げの煽りを受けて進んだ)「過激な円安」によって、「空前の利益拡大」の恩恵に浴しているのである。

 いわば日本は、円安によって庶民は大ダメージを受けているものの、輸出企業は利益を得ている状況にある。それによって日本経済の被害は現状程度に「収まっている」という側面がある。ところがリーマン・ショックのような経済危機が外国で勃発すれば、日本経済を幾ばくかなりとも支えている「輸出企業の好景気」という要素が吹き飛び、輸出企業が一挙に大被害を受けることになる。

 そもそもリーマン・ショックが起こったとき、輸出企業だけが打撃を受け、国内産業は直接の被害を受けたわけでもないにもかかわらず、日本経済は極めて深刻な影響を受けた。厳しい状況にある日本経済にそんなリーマン・ショック級の打撃が襲いかかれば、その経済被害たるやかつてのリーマン・ショック不況とは比較にならぬほどの規模にまで拡大することは必至なのだ。

中東危機がもたらすさらなる経済被害

 以上はアメリカが2024年、今見通されているような利下げを予定通り進めれば生ずるであろうリスクシナリオだ。そして、トランプが米国大統領選で勝利すれば、米国の後ろ盾を失ったウクライナがロシアに早晩敗れることとなり、天然ガス供給量が一部復活し、インフレが収まる方向となるため、米国がやはり利下げ敢行するであろうから、上記リスクシナリオの現実味はますます高い。

 しかし、その一方で、バイデンが勝利すればウクライナ戦争の泥沼化はますます進行するため、利下げが激しく行われないという可能性もある。そのうえ、現状の中東危機が収束することなく、さらに拡大していく可能性が高くなる。そして最悪のケースでは、オイルショックのように、中東からの石油供給の縮小が生じ、石油価格が高騰するリスクもある。そうなるとインフレがさらに過激に進み、金利引き下げどころか金利引き上げが追加的に実施されていくことになる。

 こうなったとき、先程解説したような「米利上げによる、リーマン・ショックの再来」というリスクは、24年内においては生じにくくなる。しかし、それは決して喜ばしいことではなく、単なる悪夢の先延ばしにすぎない。しかも、その悪夢が先延ばしになればなるほど、その悪夢の巨大さ、深刻さはますます拡大する。そしてアメリカが利下げに踏み切る日が必ずやってくる。そのとき、アメリカ経済において大きな信用収縮=バブル崩壊が起こるリスクもその被害規模もともに巨大化してしまっているのである。膨らみ続ける風船が爆発するまでは平穏だが、それが遅れれば遅れるほどに風船はより大きく膨らみ、バーストしたときの破壊力が格段に巨大化してしまうのだ。

 そのうえ、オイルショックそれ自身が深刻な経済リスクだ。あらゆる商品とサービスの価格に影響する石油価格の高騰は、「消費増税」と同様の経済被害を日本経済にもたらすからだ。消費税とオイルショックの相違は、吸い上げられた我々の所得が財務省にいくのか産油国にいくのかの違いだけであって、我々の所得が減る点ではどちらも同じなのだ。つまり、トランプが勝とうがバイデンが勝とうが、どのみち深刻な経済被害がもたらされるリスクから我が国日本は逃げられないのだ。

岸田氏による「安倍派一掃」
日本経済の被害を拡大

 そんな危機的な状況にある日本だが、その対策が十分可能なのかというと、まったくもって期待できない状況にある。現総理大臣である岸田氏はこうした経済危機を乗り越えるために必要十分な経済対策を行うことは100%あり得ない。なぜなら、そのためには「大規模な国債発行による十分な政府資金の調達と市場への効果的な注入」が必要なのだが、プライマリーバランス規律を堅持する、大規模な国債発行は絶対にやらないという態度を頑なに変えないと、岸田氏は宣言しているからだ。

 もちろん、岸田内閣の支持率は今、低迷の一途をたどっている。まったく成果について期待できないどころか、「財源確保」の名目で増税が繰り返され、完全な逆効果を導くだけの愚か極まりない「経済政策」や「少子化対策」をやり続け、それに対する国民的不満が爆発しているからだ。加えて、自民党の「裏金問題」の煽りを受け、その支持率はさらに激しく下落している。結果、支持率が2割を割り込み1割台にまで冷え込む一方で、不支持率が7割を超えるほどに、国民から大きく反発される事態となっている。

 ここまで支持を失った岸田政権が、24年の早ければ予算成立直後の3月ごろ、遅くとも9月の総裁選までの間に総理を辞任するというシナリオが実現する可能性は十分ある。だからといって日本が良くなる可能性は絶望的に低い。総裁辞任時の総裁選は、全国の党員が参加せず、国会議員だけで行われることとなるからだ。そうなれば確実に派閥の論理で総裁が決定される。そして今、積極財政を行い得る安倍派議員たちは総裁の目を完全になくしている。従って、宏池会系の緊縮派議員が総裁となる可能性が極めて高い。茂木幹事長、あるいは場合によっては鈴木財務大臣が総裁となり、岸田内閣よりもさらに激しい緊縮財政が進められるリスクが考えられる。

 冷静に状況を見据えれば見据えるほど、日本の悪夢は確実であるという実態が浮かび上がる。それを避けるためにも、24年中に開催される可能性も考えられる次の衆議院選挙だけは、1人でも多くの国民が緊縮派議員の嘘とまやかしを見抜き、積極財政の必要性を十二分に理解すると同時に、各候補者の内実をしっかりと見極め、入れてはならない候補をしっかりと見抜き、少しでも「マシ」な候補に「投票」することが必要なのである。今の政治の腐敗と国家的危機は、ひとえに、日本国民の選挙における投票行動についての「不真面目さ」が導いた必然的帰結だ。だからこそ、この危機を脱するためにも、全日本国民の責任感ある真摯なる投票行為こそが、求められているのである。

(了)


<プロフィール>
藤井 聡
(ふじい・さとし)
1968年奈良県生駒市生まれ。91年京都大学工学部土木工学科卒業、93年同大学院工学研究科修士課程修了、同工学部助手。98年同博士号(工学)取得。2000年同大学院工学研究科助教授、02年東京工業大学大学院理工学研究科助教授、06年同大学教授を経て、09年から京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)教授。11年同大学レジリエンス研究ユニット長、12年同大学理事補。同年内閣官房参与(18年まで)。18年から『表現者クライテリオン』編集長。著書多数、近著に『安い国ニッポンの悲惨すぎる未来―ヒト・モノ・カネの全てが消える――』(経営科学出版)。

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