2024年12月23日( 月 )

1人で生きていく技(前)

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大さんのシニアリポート第131回

 運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)で人気の「マッスル体操」に参加する高齢女性の大半が、連れ合いに先立たれた独り者だ。筋肉を付けてさらに長生きする。総じて来亭する女性が元気なのである。3年前私が住む公的な高層住宅で起きた4件の孤独死はすべて男性だった。平均寿命に男女差があるとはいえ、女性の元気さには目を見張るものがある。それを象徴するように、「独居生活のススメ」的な内容の本が目につく。書き手の多くが女性なので、必然的に女性目線の内容になる。

孤独を楽しんでもいいのでは

「サロン幸福亭ぐるり」 イメージ    社会福祉協議会(社協)など公的な機関の合い言葉は、「引きこもりがちな独居者を外に」である。「ぐるり」もそれに賛同して16年間、地域の居場所として機能してきた。この間延べ4万人を超す高齢者の来亭があり、35人の常連客が天国に召された。社協や地域包括支援センター(包括)では、「外に出たがらない、ヘルプのサインを発しない高齢者をいかに見つけ出し、居場所につなげるかが問題」と今でも言い続けている。でも外に出たがらない、人とのつながりを拒否する高齢者を無理にでも外に出し、地域につなげる必要があるのか疑問に感じている。無理して他人との関わりをもたず、1人で余生を満喫してもいいのではないか。個人の幸福度は人によって違うのだから。

 1人暮らしは心配だけど、過干渉は嫌だという高齢者にとってユニークな住宅がある。個人の生活信条が保証され、ゆるい付き合いが認められる集合住宅がある。「朝日新聞」(2018年12月27日)に、東京都荒川区にある「コレクティブハウスかんかん森」という名前の集合住宅が紹介されている。世代も家族形態もさまざまな人たち(1歳~81歳。38人)が1つ屋根の下に暮らす。部屋はワンルームや2DKなど、29室あり、それぞれが独立。住民が共同利用できるキッチン、食堂、リビングルーム、家事コーナーなどを備えている。食事の他に仕事も必ず1つ担当するという約束事以外は比較的自由だ。ここではお1人さまのコミュニティが可能だ。完全なプライバシーが守られる住宅がいいという人には、高齢者用のコレクティブハウスがある。個室だけど、共用スペースもある。必要なときだけ互いに助け合える利点もある。

1人の方が楽に死ねる

 『PRESIDENT』(24年2月16日号)の特集「孤独の不安が吹き飛ぶ! ひとりで生きる老後戦略」に興味深い記事を見つけた。「在宅医療のプロが教える『ひとり老後』で病院に頼りすぎない生き方」と題して萬田緑平氏が指摘する。萬田氏はがん患者専門の在宅緩和ケア医としてこれまで2,000人以上を看取ってきた。その氏が「実は1人暮らしのほうが楽に最期を迎えられる」というのだ。

 萬田氏の基本方針は、「本人が好きなようにさせること。人生の主導権は最期まで本人がもつべきだからです。本人が食べたければ食べさせますし、点滴が嫌ならやりません。たとえ医学的に正しいことであっても、本人が望まないことは決してやらないのです。それがもっとも楽に最期を迎えられるから」という。さらに「人間が亡くなる理由は病気ではありません。事故などを除き、すべての人間は老化が原因で亡くなるのです。心臓の老化が進めば心臓病と呼ばれ、肺や免疫機能の老化が進めば肺炎と呼ばれるなど、老化の段階に病名をつけているにすぎません。がんをはじめとするすべての病気は、根本的に治すことができず、腫瘍を小さくすることで、少しだけ心臓が止まるのを先延ばしすることしかできないのです」と言い切る。治すことができない病気を抗がん剤や手術など身体に負担の大きい治療で少しばかり延命をはかるより、本人が望むことをやって最期を迎えた方が幸せだと説く。

ろうそく イメージ    私と同じ棟に住む元スタジオミュージシャンのSさんが妻子に愛想を尽かされ離婚。以降酒浸りの毎日。ある日、街角で自転車ごと倒れているSさんと遭遇。若い警察官に「飲酒を止めて病院へ」と説得されていた。そのときの私なら病院ではなく焼酎を勧めただろう。誰の目にもそれほど長くは生きられないと思えるSさんには、好きな焼酎を与えるべきだったと今でも思っている。私も余命宣告されたら、間違いなく萬田流を選択する。

 また萬田氏は、「1人暮らしのほうが実は楽に最期を迎えることができます」といい、「ネックは家族だ」ともいう。「長生きしてほしい」という理由で、本人の意に沿わない延命治療を望む家族が少なくない。本人に対しても「あれダメ、これダメ」と制し、入院や点滴を強要する家族もいる。「自然に死んでいくことができれば死は決して苦しいものではない。死そのものが苦しいのではなく、苦しくなるところまで生きさせられてしまうから苦しみが生まれる」と。

 入院していた知人の母親が「「最期は自宅」を希望して帰宅。容体が急変したので救急車で搬送。意識が戻らず植物人間状態。主治医に判断を迫られたとき、母の姉が「体温がある。息もしている」と延命処置を強硬に主張。その剣幕に気圧され、家族の誰も反対することができず、2年後に病院のベッドで息を引き取ったという。「母の意に反した」と知人は悔やんだが、救急車を呼ぶということは救命を意味する。救急車要請ではなく、掛かりつけ医を呼び判断を仰ぐべきだったのだ。

(つづく)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。

(第130回・後)
(第131回・後)

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