1人で生きていく技(後)
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運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)で人気の「マッスル体操」に参加する高齢女性の大半が、連れ合いに先立たれた独り者だ。筋肉を付けてさらに長生きする。総じて来亭する女性が元気なのである。3年前私が住む公的な高層住宅で起きた4件の孤独死はすべて男性だった。平均寿命に男女差があるとはいえ、女性の元気さには目を見張るものがある。それを象徴するように、「独居生活のススメ」的な内容の本が目につく。書き手の多くが女性なので、必然的に女性目線の内容になる。
認知症も脳の老化現象。
そこまで長生きできたと考えれば幸せ認知症もそれほど恐れるべき病気ではない。認知症も脳の老化による病気だと考えれば、「認知症になるまで長生きできた」と捉えることができると萬田氏。「認知症の人は勝ち組だと考えています。病状に対する周囲の反応のせいで攻撃的になるのです。私の患者さんに、記憶力はまったくないけれど、きれいにボケている女性がいました。延々と同じ話をしますが、周囲がそれを優しく受け入れているので、本人は攻撃的になることもなく、死ぬまで同じ話を繰り返しながら満足して亡くなりました」。
高齢者のうつ病患者が多いといわれている。萬田診療所では「本人の好きなように過ごす」ことで、そういう傾向は感じないという。うつ病も脳の老化現象で、高齢者においては認知症とうつ病を区別することは難しい。薬を山のように飲んでいるひとには、ほとんどの薬を止めてもらう。それでも病状が悪化することはない。「患者さんが好きなように幸せに過ごしていれば、メンタルの病気を心配する必要はない」といい、とにかく「すべての病気は老化が原因。病院に行って検査を受ければ受けるほど、病名はいくらでもつけることができます」。私の周りにも、「病院に行くから病人にさせられる」と病院で診てもらうことを頑なに拒否。86歳の今でも元気に暮らしている。
歩け、歩け、「貯筋」に励め
「腫瘍をもっていても死ぬまで生きる工夫をする専門職」を自認する萬田氏がもっとも重要視していることが、「筋力を維持して歩くためのアドバイス」だ。「人間は歩いている限り死にません。ですから私は『棺桶まで歩こう』と患者さんに呼びかけています。活発に歩いている人は余命が10年以上増える。患者さんには『膝の上の筋肉があなたの寿命を決めます。だから歩きましょう』と伝えています。気力があるうちはどんどん歩き、“貯筋”をしましょう。筋肉はあなたを裏切らないからです」と筋肉の大切さを強調する。
「ぐるり」で週2回実践している「マッスル体操」は正にソレ。手足にオモリをつけた上下運動。両手両足を極限まで伸縮させる関節ストレッチ。全身(とくに足)の骨に刺激を与える骨体操。口と舌を動かす誤嚥予防体操。ダンベルを使うダンベル体操。約2時間のマッスル体操と毎日のウォーキングのおかげで、日常での困難さを感じたことは一度もない。掛かりつけ医院で「筋肉量は同年代で最高値」とお墨付きをいただいている。萬田氏の「余命10年以上」を期待している。
(了)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。関連キーワード
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