分断化する国際社会と日本外交の課題(後)
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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸 氏今日、世界は異常気象、食糧、エネルギー危機に加え、相次ぐ新種の感染症の出現やウクライナ戦争、イスラエル・ハマス対立、台湾海峡危機など、「人類と地球の終末」を予感させるような状況です。一方、アメリカを筆頭とする民主主義政治や市場主義経済は足踏み状態に陥ってしまいました。日本もそうですが、欧米諸国は自国内の問題の解決もままならず、世界的な難題に有効な手立てを講じることができていません。
米の日本への期待
他方、岸田首相と韓国のユン大統領は「新たな時代の日韓関係を切り拓く」と並々ならぬ意欲を見せています。ユン大統領は懸案の元徴用工訴訟問題の解決案も日本に配慮したかたちで提示し、日本政府は歓迎する意向を示しています。
とはいえ、この案については韓国内で賛否両論が渦巻いており、国民の6割は「屈辱的な内容で、反対」との考えのようです。韓国の主要メディアは、「日本側の歴史問題への対応が不十分」とか、「日本の誠意ある呼応が不足した」と厳しい論調でした。
そうした韓国での報道や世論調査の結果を受け、日本側も「ちゃぶ台返し」を懸念する声が根深いため、ユン大統領は「心配にはおよばない」と自信を見せましたが、日本側は「お手並み拝見」との姿勢です。
韓国のこれまでの大統領とは一線を画す検事出身のユン大統領。とはいえ、同大統領の政党「国民の力」は議会で少数与党。そのため、政権運営は厳しく、住宅価格の高騰、コロナ、男女・経済格差、北朝鮮、対中政策、竹島を含む日本との領土関係など、課題山積みです。
このところ世界はウクライナやイスラエル・ハマス戦争に耳目を奪われていますが、その夜陰に乗じるかのように、北朝鮮の軍事的行動が活発化しています。日本にとっても韓国にとっても、ウクライナや中東情勢問題よりはるかに深刻です。
旧ソ連時代の核ミサイル開発技術を温存してきたウクライナは、いわゆる「闇市場」を通じて、こうしたノウハウや部品を外国に売りさばいてきました。北朝鮮の「火星17号」の飛行距離は1万5,000kmを超えると目され、アメリカ本土のすべてを射程に収めていますが、そうしたミサイルの性能向上にウクライナが水面下で関わっていたフシがあります。
ところで、バイデン大統領はウクライナのゼレンスキー政権を支援するため大量の武器や資金を提供していますが、終わりの見えない戦況のため、アメリカはウクライナにくぎ付け状態に陥っています。そこに加えてイスラエル・ハマス戦争が勃発。バイデン政権はウクライナよりイスラエルへの支援を強化する姿勢を明確に打ち出しました。その結果、「最大の競争相手で脅威の源泉」と対決姿勢を見せていた中国と向き合う余裕を完全に失いました。アメリカはその埋め合わせを日本に期待しているようです。
もしアメリカが中国を封じ込めたいと思うなら、ロシアと代理戦争状態に陥り、ロシアと中国を結びつけるような事態を招来するのは愚の骨頂としかいいようがありません。なぜなら、ウクライナやイスラエル・パレスチナ対立が長期化し、戦火が中東全域に拡大すれば、中国はアメリカの圧力を受けることなく東アジアや西太平洋一帯で自国の影響力の拡大に邁進できるからです。
多極化する世界のなかで
岸田首相の考えは「現下の国際情勢で日韓、日米韓の戦略的連携がこれほど重要なときはなく、関係改善は待ったなし」というもの。と同時に、日本と韓国はNATOが主導するサイバー防衛センター(CCDCOE)への参加を通じて、中国や北朝鮮との「ハイブリッド戦争」に備える決定を下しました。北朝鮮が中国の支援を受けて加速させるサイバー攻撃に対して、日米韓で共同戦線を張るという方向です。
そこで、アメリカの協力を得ながら、日本と韓国で連携を図るというのが岸田政権の意向にほかなりません。バイデン政権としても、こうしたサイバー防衛面での日韓協力を橋渡しすることで、アジアの2大同盟国の間に残る根深い相互不信を払しょくするきっかけにしたいと目論んだはずです。
岸田首相はそうしたバイデン大統領の思惑を受けて、アメリカをバックにつけ、自らの長期政権化を目指しています。「新たな資本主義」を看板政策として打ち出し、「自由で開かれたインド太平洋」戦略を外交の中心に据えていることが、その証です。とはいえ、国内の経済浮揚が進まず、政治資金パーティーの不明朗な会計処理問題に足をすくわれ、国民の支持が得られていないのが現状です。
日本やアジア諸国のなかにはアメリカがウクライナ危機に引きずられ、アジア方面への関与が希薄になり、その間隙を縫うように、中国・ロシア・北朝鮮が不穏な動きを強めるのではないかといった疑念と危機感が生じています。日本がどこまでアメリカの不足部分を補うことができるのか、世界が注目しているわけです。
また、北朝鮮に限らず、ロシアからのミサイルや爆撃機が日本にも飛来する可能性は日増しに高まっています。北朝鮮のミサイル連続発射はそのことを暗示しているようにも思われます。その意味でも、頻度を増す日韓首脳会談を通じて、北朝鮮のみならず、ロシアや中国との関係についても率直な意見交換を通じて、単なる「封じ込め」ではなく、共存共栄につながる道筋を追求してほしいものです。
と同時に、「グローバルサウス」と呼ばれる、これからの世界をけん引するに違いないアジア・アフリカ諸国との信頼関係の増進が欠かせません。言い換えれば、アメリカの影響力の衰退が顕在化しているわけです。問題は、アメリカに代わる世界のリーダーが生まれていないこと。そのため、グローバルサウスの国々はアメリカと距離を置き始めています。逆に、中国やロシアとの関係を深める動きが強まっていることに注目せねばなりません。
その不都合な真実を如実に示しているのが「ドル離れ」です。これまでは中東の石油は米ドルでの決済が基本でした。しかし、中国と中東の関係が深化すれば、今後は人民元や新たなデジタル通貨での決済が当然視されるはず。結果的に、ドル覇権の時代は終わることになります。
そうした状況を冷静に踏まえ、日中関係の再構築と強化を図ることこそが、日本外交の要となる時代が始まったのだと思います。中国がアメリカに代わって世界の覇権を握ることになれば、台湾問題に関しても、日本をはじめ西側諸国は台湾に容易には介入できなくなるでしょう。そうなれば、中国としても軍事介入する必要はなくなり、「台湾有事」という考えそのものもなくなるのではないでしょうか。新たな発想が欠かせない時代の始まりです。
(了)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』『世界のトップを操る“ディープレディ”たち!』。関連キーワード
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