2024年12月22日( 日 )

【連載予告】経済小説『落日』谺丈二著 あらすじ・登場人物

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あらすじ

 K市に本部がある地場大手小売業の朱雀屋は時代の変化への対応が遅れ、厳しい経営環境にさらされていた。メインバンクの西日本総合銀行は少なくない行員を役員として同社に派遣していたが、意気込んで出向するものの、彼らはすぐにカリスマオーナーの朱雀剛三によって、ただのイエスマンに成り下がるしかなかった。

 残された道は強引な直接介入しかない。西日本総合銀行頭取の加藤達雄はそう考え、自行のあらゆる人間に思いをめぐらせた。そして審査部長、井坂太一を派遣することを決めた。

 加藤は井坂の人となりをよく見ていた。半ば病的な猜疑心、適当に外敵を恐れる用心深さ、自分の信念を通すためなら、たいていの苦労をいとわない強い意志。ワンマン経営者の朱雀を抑えての支配を考えると、あらゆる点で銀行内に井坂を上回る人間はいない。
 加藤の指名で井坂は腹心の部下、犬飼正雄をともなって朱雀屋に赴く。もちろん2人に渡されたのは片道切符だった。

 井坂と犬飼は世代交代という錦の御旗で、朱雀屋を変えようとする。一方、朱雀は表向き井坂を立てるものの、その実権を手放す気は毛頭なかった。ワンマン経営から組織経営へ。改革に燃え、朱雀屋再建のため、次々に新規事業に挑戦する井坂と犬飼の前に、少なくない壁が立ちはだかる。

 この物語は完全なフィクションです。登場する人物、企業は架空のもので実在するものではありません。

主な登場人物

井坂太一  朱雀屋社長 元西総銀取締役
 朱雀屋に赴くにあたって、頭取の加藤達雄から直前に西日本総合銀取締役に任じられた。基本的には真面目な経営者。ただ、取り巻き中心で事を運ぼうとする銀行的な旧態依然とした組織運営と、情緒的な人員配置や精神的鼓舞で業績改善に臨む。

朱雀剛三  朱雀屋創業者
 幼いころから負けん気と向上心が強く、地方の工業学校(旧制)から高等工業(旧制)へ進学、その後公務員になるが、母への思いから故郷に帰り、母が開いた小間物屋を継ぐ。その後もその気概はいささかも変わることなく、大型小売業やレストランなどのチェーン経営で九州各地に朱雀屋の名を馳せる。熱心な法華経の信者で、月例の幹部会議は早朝勤行、住職の法話で始まるのが恒例だった。高度成長時代には、その積極的経営で業績を拡大したものの、時代変化の波をとらえきれず、人力主義の経営でメインバンクの西日本総合銀行の直接介入を招く。

朱雀一茂  朱雀屋専務(剛三の長男)
 朱雀剛三の長男。人の良いニュートラルな人間。データ活用や新しいタイプの人材活用など、経営の近代化を父剛三に訴えるが、その提案はことごとく退けられ、孤軍奮闘の果てに朱雀屋を去ることになる。

牧下重雄  朱雀屋専務
 朱雀子飼いの朱雀屋役員。剛三のイエスマンで専務の地位に就いた。自らを最優先して考える男で、同僚や部下からの人望はない。

稲川広太郎 朱雀屋二代目社長
 牧下のライバル。創業者の朱雀からバトンを託され、朱雀の長男一茂とともに朱雀屋の経営改善に奮闘する。

沖松信三  朱雀屋専務
 冷静な情報分析には優れているが、経営幹部という自覚に薄く、部下から「評論家」と揶揄される。家族から自社店舗の評判の悪さを耳にしても、それをそのまま平然と部下に伝えるだけで、自らそれを改善しようという気概はない。

太田英輔  朱雀屋常務
 大学卒業後、しばらく勤めた銀行を退職し朱雀屋の財務部門に入り、株式上場時の担当窓口として証券会社、銀行とのコネクションを大きくした。その後、朱雀屋の経営が不振に陥るとありとあらゆる手段で決算内容を取り繕い、銀行からの融資の継続や配当を維持する。

久保英二  朱雀屋取締役
 若手役員の1人で、その能力を買われ、新規子会社の計画や運営に、精一杯の努力を重ねながら、朱雀屋の将来を危惧する。

石井一博  朱雀屋関連会社役員
 歯に衣着せない言動で上司からの評判は良くない。井坂から嫌われ、朱雀屋の各部署を転々とさせられ、最後は子会社のスーパーに落ち着く。社内では朱雀、牧下の天敵ともいわれている。親会社の危機に際して、独自に自社スーパーの生き残りを図る。

武藤芳人  朱雀屋関連会社役員
 財務、管理部門に精通。石井の部下だったが、その手腕を見込まれ新規開設のスーパーの専務に転出。その経営をめぐって井坂や犬飼と対立する。

富田和夫  朱雀屋関連会社役員
 朱雀屋の人事部長。銀行主導の経営に積極的に加担し、子会社の経営を任されるも無謀な経営で、大きな負債と人的問題を朱雀屋にもたらす。

戸田武   朱雀屋社員
 秘書室長。井坂の意を受けて、反井坂派の情報を集める。冨田の直属の部下。

高杉和樹  朱雀屋社員
 商社マンのあだ名を持つ商品部の課長。取引先との交渉で、半ば強引に、いろいろな優位条件を引き出す切れ者。大きな仕事をするにはそれなりの地位をという井坂の是認者。

坂倉健
 経営戦略コンサルタント。朱雀屋と井坂に小さくない負の遺産を残す。

原田隆   朱雀屋労組出身取締役
 朱雀や労働組合の創設メンバーで長年組合委員長を務める。組合幹部を腹心で固め、井坂が新社長になるとその肝いりで取締役に任じられる。

大川明   朱雀屋労組委員長
 原田ら旧労組の幹部から組合を受け継ぐ。書記長の島田とともに、組合の立場で、新たな朱雀屋の改革に腐心する。

島田進一  朱雀屋労組書記長
 大川の腹心。組合専従者や、支部長たちからの信頼も厚い。

木田満男  朱雀屋労組出身市議
 朱雀屋労組上部組織所属政党の市議会議員。世代交代ということで組合推薦を外される。

矢島浩   朱雀屋労連会長
 原田の意を受けて労連の委員長に就く。しかし、出身労組への忠誠心は薄い

加藤達雄
 西総銀会長。元大蔵省官僚。朱雀屋の業績に業を煮やし、熟考の末、井坂派遣を決める。

杉本琢磨  西総銀専務
 銀行時代の井坂の上司。朱雀屋との付き合いは古く、その経営不振と融資の責任を頭取加藤から指摘され、井坂派遣に同調する。

犬飼孝弘  朱雀屋常務 元西総銀部長
 将来を嘱望された第一選抜の銀行員だったが、ある事情で井坂とともに朱雀屋に赴く。銀行時代からの井坂の腹心。

佐藤秀治  朱雀屋部長 元西総銀
 犬飼の銀行同期で朱雀屋の関連会社部長。犬飼の要請で西総銀支店長から朱雀屋に派遣される。

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