2024年12月22日( 日 )

【鮫島タイムス別館(23)】岸田首相は派閥にとらわれず、人事、解散を断行できるか

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 (株)データ・マックスはNETIB-Newsに【鮫島タイムス別館】を連載しているジャーナリスト・鮫島浩氏の講演会および議員向け意見交換会を3月27日に福岡市内で開催する。詳細、申込については文末のリンク記事を参照。

 岸田文雄首相が自民党の裏金事件を受けて派閥解消を表明したのに対抗し、麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長が派閥存続を決めたことで、麻生・茂木・岸田の主流3派体制は崩壊した。岸田首相と麻生氏の関係は冷え込み、茂木氏とは今や険悪な仲である。

 自民党執行部で麻生・茂木両氏と入れ替わるように岸田首相に接近しているのが森山裕総務会長と浜田靖一国会対策委員長だ。

 岸田首相が本来なら幹事長が行うべき「裏金議員の調査」を森山氏に委ねたことは、党内運営の中心が森山氏に移りつつあることを示している。森山氏は少数派閥の森山派の会長だったが、岸田首相に同調し派閥を解散した。麻生氏の政敵である菅義偉前首相や二階俊博元幹事長と親しいことから、岸田首相の「麻生離れ」を印象付ける事象といっていい。

 もう1人のキーマンである浜田氏は無派閥だ。産経新聞の「夜の政論」という連載に登場し、注目すべき発言をした。政治記者が政治家を居酒屋に誘い出すユニークな連載で、つい本音がこぼれたのかもしれない。

 浜田氏は解散総選挙の時期について問われた。そこで岸田首相に「もう1回首相をやろうなどと考えず、自分が正しいと思ったことを思い切りやったほうが良い」と助言したことを明かし、「衆院解散の時期も大切だろうが、その前に派閥の呪縛にとらわれない人事を断行できるかも焦点だ」と語ったのである。

 内閣支持率は低迷している。主流3派体制は崩壊し、岸田首相の党内基盤は脆弱だ。9月の自民党総裁選で再選をはたすには、その前に解散総選挙を断行して勝利するほかない。そこで岸田首相が4月の訪米直後か、6月の国会会期末に衆院解散に踏み切るとの警戒感が与野党に広がっている。だが、浜田氏は解散を断行する前に、党内の反対を振り切ってでも、やらねばならぬことがあるという。それは「派閥の呪縛にとらわれない人事」だというのだ。

 岸田首相は率先して老舗派閥・宏池会(岸田派)を解散し、自民党内で人事とカネを差配する派閥を解消していくと宣言した。次の総選挙ではその本気度が問われる。総選挙の前に「派閥解消」の成果を国民に見せる必要がある。衆院解散に先立って内閣改造・党役員人事を断行し、派閥推薦を一切受け入れず、要職を無派閥議員で固め、清新な布陣で国民の信を問うべきだというわけだ。

 現時点で存続している派閥は麻生派と茂木派しかない。浜田氏の進言は、要するに、麻生派と茂木派を放逐する人事を断行して「派閥解消」を国民にアピールせよということだ。その象徴人事は、茂木幹事長の更迭だ。

 浜田氏は岸田首相とは初当選の同期。自民党が野党に転落した時代、岸田国対委員長を委員長代理として支え、岸田内閣では防衛相に起用された。林芳正官房長官とは国会議員のバンド「ギインズ」の仲間である。麻生・茂木両氏との関係が悪化した今、岸田官邸が最も頼りとする党幹部といえるかもしれない。

 首相が解散日程を決めるにあたり、予算案や法案をいつ成立させるのかという国会日程を描く国対委員長とのすり合わせは不可欠だ。昨年の臨時国会まで国対委員長を務めていたのは安倍派5人衆の1人である高木毅氏だった。岸田首相は裏金事件で高木氏を更迭し、後任に無派閥の浜田氏を起用した。その時から浜田氏とともに解散日程を描き始めてきたに違いない。

 新年度予算案は3月2日に衆院を通過し参院に送付され、年度内成立が確実になった。予算成立までは裏金審議で防戦一方だが、成立後は反転攻勢だ。第一弾は安倍派幹部への除名や離党勧告など厳しい処分。第二弾が茂木幹事長の更迭を柱とする脱派閥人事の断行である。そのうえで4月10日に国賓待遇で米国を訪問して内閣支持率を回復させ、帰国後に衆院解散、4月28日投開票の超短期決戦で総選挙を乗り切る――これが岸田首相の総裁再選へのベストシナリオだ。

 4月解散を見送ると、国会会期末の6月解散が最後の勝負所となる。だが4月28日の衆院3補選(島根1区、長崎3区、東京15区)は自民大逆風だ。3敗すると6月解散どころではなくなり、岸田首相は解散権を行使できないまま9月の総裁選不出馬に追い込まれる可能性が強まる。先手必勝の4月解散に踏み切れるかどうかが岸田政権の命運を大きく分けるだろう。

 岸田首相との関係が悪化した麻生・茂木両氏も、非主流派の菅氏や二階氏も、4月解散には反対だ。野党はバラバラで政権交代の機運は高まっていない。岸田首相がいくら不人気でも自公与党で過半数を維持すれば岸田再選に流れができ、長期政権が見えてくる。そうなると、麻生・茂木両氏も、菅・二階両氏も、影響力低下は免れない。自民党内は4月解散に反対一色になろう。菅・二階両氏に近い公明党も4月解散阻止に全力をあげてくる。

 それを振り切って岸田首相が4月解散を断行できるかどうかが当面の焦点だ。森山氏は菅・二階両氏と親しく、執行部内の応援団は浜田氏だけかもしれない。かつての小泉純一郎首相の「郵政解散」のように、安倍派幹部に刺客を送りつける劇場型選挙を仕掛けて世論の流れを変えられるかどうか。

 浜田氏の「夜の政論」で、私がもう1つ注目した箇所がある。国対のイロハを教わったという古賀誠元国対委員長(元幹事長)の逸話だ。

 「ある若手が、翌日に衆院本会議があるのに『地元に行かなければならない』と欠席を打診した。当時の古賀先生は『どうぞ行ってください。どうぞ。私がやっている間、あなたの出世はありませんから』とサラリというんだ。国会議員なのに国会に忙しくて来られませんなんて、この野郎だ。それより優先する仕事なんてないのにさ」

 古賀氏は岸田首相の前任の宏池会(岸田派)会長である。政界引退後も宏池会に影響力を残している。麻生氏とは地元・福岡で長年の宿敵だ。岸田首相は前回総裁選で麻生氏の支援を得るために、古賀氏と決別した。それから2年が過ぎ、派閥解散で麻生氏と決別したことを機に古賀氏との関係を修復し、解散戦略でも助言を受けていると私はみている。その古賀氏の逸話が浜田氏からこぼれ出たのは単なる偶然なのか。とても気になるところである。

講演会
【3/27、要申込】鮫島浩氏、講演会
近づく解散総選挙 我々市民はいかに選択するか?
議員向け意見交換会
【3/27、要申込、議員限定】
鮫島浩 × 議員 政局意見交換会

【ジャーナリスト/鮫島 浩】


<プロフィール>
鮫島 浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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