2024年11月23日( 土 )

無縁社会の墓事情(後)

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大さんのシニアリポート第132回

 一昨年夏、俳優の島田陽子さんが病院で亡くなった。その後、遺体の引き取り手がなく、行政によって荼毘に付された。有名俳優であるがゆえ、遺骨を引き取ってくれる身内がいなかった事実に唖然とさせられた。家族間の希薄さ、核家族化、少子高齢化で一人暮らしの65歳以上の高齢者が増えている。「身内がいても弔う人がいない死者は、近年だけで10万6,000人。うち『無縁遺骨』は6万柱と急増している」(朝日新聞23年8月25日「家族がいても『無縁遺骨』」他人事じゃない」)。無縁社会の一端を垣間見てみる。

「無縁遺骨」の行き着く先

サロン幸福亭ぐるり イメージ    「無縁遺骨」という言葉を最近耳にする。文字通り、自分の骨を拾ってくれる身内がいないこと。私の場合、墓が地方にあり墓参は無理な年齢になってきた。数年前に「墓じまい」を住職に告げたところ、あからさまに拒否。「最近、合祀墓地を造成したので、そちらに移されたらいかがでしょう。一体40万円ですので、80万円ご用意い願います」と切り出されたのには驚いた。遠隔地で墓参が叶わないから「墓じまい」を申し出たのに、である。推測するに、「墓参の必要はない。供養は菩提寺でやるから」という気持ちが込められているとみた。結局、お墓をそのままにして、毎年護持会費のみを支払っている。我が家は長男が逝き、競走馬の生産者牧場で働いている次男は「競走馬命」で、結婚する気はなさそうだ。私も妻も逝けば、それこそ次男に遠隔地の墓を守れとはいえない。

 集合住宅の同棟にいる友人はこう告白する。「お舅に好かれていた妻の遺骨は、岡山の菩提寺に埋葬した。しかし、自分は入るつもりはない。理由は長男に遠隔地の墓を守らせるにはしのびないから」という。その長男は結婚に興味がなく、50歳を過ぎても独身を謳歌している。私は彼に墓の不要な「散骨」を勧めた。人気の「樹木葬」という手もあるが、運営する墓地会社が倒産すれば埋葬された遺骨は宙に浮く。数年前、都会にあったボックス型納骨堂を運営する寺院が破綻し、遺骨の引き取りを迫られた家族が窮したという事例がある。我が家もいずれ絶え、「無縁遺骨」となるのは必定である。

最後は土に還るのだから

 森下香枝(朝日新聞首都圏ニュースセンター)は、同紙で、「子どものない私の骨は、誰が拾うのか」と疑問を呈し、「『この世にし 楽しくあらば 来む世には 虫に鳥にも 我はなりなむ』。万葉集、葬送儀礼研究者の上野誠さんが教えてくれた大伴旅人の句にヒントを見つけた気がした。今春、お世話になった女性の葬儀に向かうバスのなかで虫が顔に近づいたとき、彼女の魂ではないかとフッと思った。すると安らかな気持ちになり、無縁でも何とかなるさ、と開き直れるようになった」という。

 2013年、俳優の三國連太郎が90歳で亡くなった。「戒名不要。散骨に。誰にも知らせるな」という遺言は遺族によって反故にされ、西伊豆の佐藤家の墓に埋葬された。三國は浄土真数の門徒で宗祖親鸞を敬愛しており、1997年に親鸞の伝記映画『親鸞 白い道』を製作・監督している。親鸞は、「自分の亡骸を鴨川に流し、魚の餌にしてほしい」と遺言を残した。しかし、親鸞の娘・覚信尼はそれを無視。父の遺骨を安置する草堂を建立。のちの本願寺となった。「虫にも鳥にもなる」「鴨川の魚の餌に」に共通しているのは、あえて「無縁遺骨的埋葬」を希望してもその通りにはならない場合があるということだ。

鳥にも...    「墓地埋葬法」に墓(「遺骸や遺骨を葬るところ。また、そのしるしとして立てた石・木など」スーパー大辞典)の建立を義務づけてはいない。「手元供養」(「故人の遺骨を身近に置いて常に供養すること」デジタル大辞典)という方法(遺骨をペンダントや仏像にしたり)も可能である。森下氏のように、「無縁遺骨」を杞憂する人もいる。供養する人がいなくなっても、最後は行政が契約する寺院に安置されるというシステムが残されている。気の合う仲間同士で合祀墓を建立。存命な仲間が墓参し供養している人を知っている。最後の仲間が埋葬され、その墓が無縁墓(放置墓)と化しても、仲間との埋葬だから問題ないという。未婚率の上昇に歯止めが掛からない。両親の死後「無縁遺骨」もまた上昇し続けるだろう。でも最後には土に還ると考える私には死後への杞憂はそれほどない。森下のいう通り、「無縁でも何とかなる」さ。

(了)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』『瞽女の世界を旅する』(平凡社新書)など。

(第132回・前)
(第133回・1)

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