【講演録】「敬護」の理念は、介護利用者と介護者双方の幸せを目指す
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リハプライム(株)
代表取締役 小池 修 氏「敬護」の理念で利用者の誇りを守る介護サービスを展開するリハプライム(株)。同社の代表取締役・小池修氏が(一社)福岡中小企業経営者協会第310回例会において、「敬護理念は社員の幸せを軸にする経営」というテーマで講演を行った。その講演録をお届けする。
両親の誇りを守るため自ら起業する
リハプライム(株)を立ち上げたのは、13年前に両親の介護が必要となった際の実体験がきっかけです。当時勤めていたフィットネスクラブの仕事を続けたかったので、初めは施設に預けようと考えていました。両親の入居先を探すため、近隣の介護施設を見学して回りましたが、このとき、施設の現状を目の当たりにして大きなショックを受けました。施設の職員が利用者をまるで子どものように扱っていたのです。そのように利用者を可愛がる扱い方がどの施設でも当たり前に行われていました。私は自分が尊敬する両親をそのように扱われることが、どうしても受け入れられませんでした。
そこで私は、利用者を子どものように扱う施設しかないならば、利用者の誇りを守るために自分が起業するしかないと決意しました。ただ介護サービスを提供するのではなく、日本で唯一、利用者の誇りを守ることを商品にするという考え方でリハプライムを立ち上げました。
私が介護離職ではなく、自分で起業するという選択をとったことには理由があります。当の両親が自分たちの介護を理由に私が仕事を辞めてしまうことに強く反対したからです。両親は私の足を引っ張りたくないからと、私が仕事を続けることを望んでいました。そこで私は、自ら立ち上げた事業で利益を出しながら、その事業のなかで親を守っていくための仕組みをつくることを目指しました。
初めは小規模なリハビリ型のデイサービス事業を始めましたが、すぐにデイサービスだけでは両親を守るには不十分だと気付きました。そこで訪問看護ステーションや、介護保険を使わない夜間のヘルパーなど、さまざまな介護サービスを組み合わせた「コンパスヴィレッジ」という独自の構想をつくり上げました。これはリハビリ型デイサービス「コンパスウォーク」を軸に、顔の見える範囲でシニアの在宅生活をサポートする地域包括システムです。
社員に続けてもらうには何が必要か
当社は全国に事業を展開し、起業から10年間で目標としていた社員200人と店舗数100店舗を達成しました。北は室蘭から南は石垣島まで出店しており、2024年3月時点で177拠点に進出しています。
これまで会社を成長させようとするなかで最も苦労したことは、社員の確保でした。せっかく入社しても、なかなか続かず辞めてしまう社員が少なくありませんでした。しかし、今はそういったことも少なくなり、すぐに辞めてしまう雰囲気も払拭することができたと感じています。
社員に自分たちの会社で長く働いてもらうためには、明確な理念の共有が必要です。しかし、店舗数の拡大や事業の多角化が進むと、どうしても代表自身が社員1人ひとりと対話する物理的な時間が足りなくなります。そのため、社員たちにはあらかじめ会社がどこに向かっていくのかを、しっかり伝えておくことが重要になります。リハプライムは、社員が幸せになる、それとともにリハプライムの理念を広めていくということを、会社の目指す先として社員に示しています。
個人の理想と会社の理念
そもそも理念とは何を指すのでしょうか。理念の「理」という字には、ことわりや道理、筋道という意味があります。私は「理」とは、自分の価値観を示すことにほかならないと思っています。このように考えると、自分の価値観を想うのが理想であり、さらに自分の価値観を念じて練り上げたものが理念ということになります。
これが人間1人ひとりの理想が異なる理由です。それぞれがもっている価値観が違うため、それぞれの理想も異なります。そのように異なる個人の集団である会社は、個人が成長するためのプラットフォームとしての機能をはたします。1人ひとりが理想とする自分は異なりますが、それぞれの理想の実現のために会社の事業を活用するという考え方になります。
一方、会社の理念はまず創業した社長が一番大切にしたい価値観を明示したものです。従って、会社では理念に向かって全社員が動いていくことが基本になります。リハプライムは私の大切な両親を子ども扱いされたくないという熱い想いを背景につくった会社で、「敬って護る」という意味の「敬護」を理念に掲げています。私は社員に対して、会社全体がこの情熱のもとで邁進していることを伝えています。私ははじめに理念を明確に定義し、会社の方向性についての認識が大きくずれて社員の間に浸透することがないようにしました。どこに向かっていくのかをしっかりと言語化したのです。
理念で明確化された、求める「介護」の形
どこに向かっていくのかをはっきりさせることで事業内容が改善する場合もあります。当社の場合は、病院と介護医療サービスの役割の違いを意識することにつながりました。リハプライムで働く9割以上の人たちが以前に病院での勤務を経験していたため、当初、病院の常識を介護の世界に持ち込んでしまうことがしばしば発生しました。病院は患者を治すという明確な目的があり、治すために患者にいろいろな制約を加えます。その考えに引きずられて少なからぬ社員が病院と同じ判断基準で介護の仕事を考えてしまい、利用者に制約を加えてしまうことがありました。
しかし、当社が掲げる「敬護」という理念のもとでは、介護は利用者が人生を心豊かに生きてもらうためのサービスです。この「敬護」という理念をはっきりさせたことで、社員たちは、利用者ができる限りやりたいことをサポートできるプロになろうという意識をもつように変わっていきました。
社員のやりがい 会社は幸せの基盤
会社が向かっていく先を明確にしたうえで、リハプライムは、社員がやりがいを感じられる会社となるための策を講じてきました。自分の仕事にやりがいを感じていれば、社員は定着すると考えたからです。今の仕事で幸せだと感じているならば、仕事を辞める必要はありません。
しかし、ただ単純にルーティンとして仕事を続けていれば、仕事に対してやる気を維持するのは難しいものです。一見、規模や業務内容が社員にとって良いと感じられる場合であっても、社員は次第に日々行っている業務にやりがいを感じられなくなり、やがて職場を離れてしまうことがあります。すべての社員にやりがいを感じてもらうには、理念の内容が重要であるだけでなく、理念が社員に浸透していることも重要となってきます。理念を社員の端々までどれだけ徹底して伝えられるかを考え行動することが、経営者には求められます。他社を模倣してどんなにすばらしい理念をつくっても、それだけでは意味がありません。自分が一番大切にしたい価値観と向き合い、社員に伝える努力をしなくてはなりません。
私は会社を1人ひとりの社員が幸せになるためのプラットフォームとして定義しています。社員には「全社員の充実、幸せのプラットフォームを共につくっていきましょう」と話しています。経営者は社員がやりがいをもち、会社を辞めないために実現できる方法を模索する必要がありますが、「敬護」の理念を実現するためにも、まず社員が自分自身の幸せに気づける会社を目指さなくてはいけません。
他者のための行動が人間を強くする
私は「敬護」という理念をつくるとき、誰を護りたいと考えているかも同様に決めました。社会的な動物である人間は、他者のために行動する方がポテンシャルを発揮することができます。自分のために頑張っても、許容量を超えたプレッシャーがかかったときに続きません。
「敬護」の理念において、護る対象は私たちの親の世代です。デイサービスの利用者の多くは、社員にとっては他人の親です。他人の親を預かる資格があるのは、自分の親を幸せにできる人だと思います。そして親が幸せな人は、自分自身が幸せな人ということになります。
私はこの考えに至ったことで、約4年前に社員教育の仕方をまったく変えました。それは親にとって子どもである自分が嬉しそうにしていることが、親への一番の恩返しになるという気付きがきっかけでした。
社員を能動的にする社員研修の実施
自らの幸せ追求のため、社員には挑戦するマインドをもってもらえるように、まず経営者自身が率先して動くべきだと考えます。今のままでいいというメンタリティは何も行動しないことに結びついてしまうからです。今の状態で、今の役割のままでいては、今の幸せは維持できません。なぜならば世の中は常に変化しているからです。社員には、今の幸せの状態をキープしたいなら挑戦しなくてはいけないと話しています。
社員自身の幸せの重要さに気づいたことによって、それまで研修の大半を占めていた介護事業や福祉に関する研修を一切取りやめました。代わりに職員が仕事にやりがいを感じられるようにするための内容を取り入れるようにしました。すると研修を受けた社員の反応が大きく変わってきました。
加えて、社員が受け身でいるのではなく、自分から能動的に動きたくなるように、1人ひとりの大切にしたい価値観を入社時に確認するようにしました。人は自分が大切にしたいものを蔑ろにされるとやる気をなくしてしまいます。そこで、自分が何を大切にしているのかを会社のなかの研修で明らかにしました。会社全体で、それぞれの社員が一番大事に思っていることを裏切らないようにしました。各々仕事に対してのステージが違うことを認識しながら、チームのメンバーそれぞれが一番大切にしていることを共有します。そのうえで、その人の価値観を裏切らないような仕事の仕方を選ぶようにします。そこからさらに、人間関係を良くするための、感情のマネジメントや思考のルール、タイムマネジメントなどの研修をしていくようにしています。
社員の幸福が会社を成長させる
社員の幸せを軸にすることは、社員を大切にしていくことにほかなりません。ありがたいことに、「敬護」理念に基づいたリハプライムの取り組みは、第13回「日本で一番大切にしたい会社」大賞における厚生労働大臣賞を2023年に受賞しました。
また、私は自ら研修を指導するほか、土日祝日も年末年始も関係なく、毎朝4時に起きて動画を収録し、4時3分に全社員に発信しています。このように、社員との関わりの頻度を増やし、会社の理念を発信し続けています。
当社は会社の成長と社員の幸福を両立させるために、理念を徹底的に浸透させることに重点を置いてきました。また、会社の行き先を明確にし、社員がやりがいを感じられるような環境を整えてきました。こうした取り組みを通して、リハビリ型デイサービスを基軸としたコンパスヴィレッジというシステムを日本中に広めることによって、「敬護」理念に基づく介護を普及させ、これを世界に誇る日本のスタンダードにしていくことを目指しています。
【文・構成/岩本 願】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:小池 修
所在地:埼玉県さいたま市大宮区桜木町1-7-5
登記上:埼玉県さいたま市大宮区上小町1106
設 立:2011年2月
資本金:4,000万円
売上高:(23/1)18億7,000万円
<プロフィール>
小池 修(こいけ・おさむ)
1965年、埼玉県さいたま市生まれ。埼玉県立春日部高校卒業。早稲田大学法学部卒業後、不動産会社を経て、上場フィットネスクラブで執行役員を務める。2011年、45歳でリハプライム(株)を立ち上げる。法人名
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