「ぐるり」来亭者の抱える最新葬儀・墓事情(後)
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大さんのシニアリポート第37回
それにしても、葬儀事情もずいぶん変わったものである。超高齢化社会では、間違いなく葬儀が激増する。新規参入の葬儀社も増え、過当競争を呈している。遺品の整理から部屋の清掃など、サービスの内容も多岐にわたっていると岩田氏は話してくれた。
「福祉葬」というのがある。生活保護受給者用の葬儀で、行政が費用を全額負担する。負担額は行政によって違い、本市の場合、すべて込みで20万5,000円である。身内が遺体を引き取らない場合や、孤独死などで身内不明の場合には、その後のすべてが葬儀社一任となる。警察署や病院などからの遺体の引き取り→火葬場で焼却→骨壺に入れ、契約している寺に安置するか、契約霊園に合祀する。書類の作成から、手配まですべてその金額内で済ませる。本市の火葬場を利用できれば一体5,000円。これが他市の火葬場を利用すると6万円。保冷庫を持たない岩田氏のような業者は、赤字覚悟の場合が少なくない。それだけではない。「ご遺体が生活保護受給者でない場合には、すべて葬儀社負担です。割に合いませんが、ここで営業させていただいていますので、言葉は悪いですが、”みかじめ料”的な意味合いで執り行います」と話す。
「福祉葬」の最中、身内が親戚筋や友人から香典を集めることがあるという。これが発覚すると、「福祉葬費用」が、即中止。香典は葬儀社の懐には入らないので、業者の丸損になる。「香典の授受を止めてください」といっても、聞き入れてもらえない場合が多い。「葬儀に香典は当然」とする来場者には、「福祉葬」という意味が理解できない。葬儀の最中に、「福祉葬」の説明をする困難さ、やりにくさは想像に難くない。その「福祉葬」の数が近年上昇を続けている。「厚生労働省によると、2013年度は全国で月平均約3,200世帯が利用し、04年度の1.5倍以上に増えた」(「朝日新聞」平成27年10月9日)。つまり、生活保護世帯が増え続けている実情と符合している。「東京福祉会が昨年度まで5年間に行った葬祭扶助による葬儀(福祉葬)約1万1千件のうち、火葬時に親族の見送りがあったのは55%。うち3割では親族に遺骨の引き取りを拒否されたという」(同)。
無縁の遺骨が増え続けている。置き場に窮し「粉骨」にして減(軽)量化をはかったり、遺骨の保管年数を短縮する自治体も増えてきた。千葉県館山市。「目立つのが孤独死。独り暮らしで亡くなり、身寄りがないか、いても遺体の引き取りを拒んだため、墓地埋葬法に基づき市で火葬したケースだ。過去5年で17体あった。『縁が切れていた。困る』『関わりたくない』。親族を見つけてもそんな理由で断られた」(「朝日新聞」平成26年8月14日)。宗教学者の島田裕巳さんは、「引き取り手のない遺体の増加は、家庭や地域の『人を葬る力』が失われつつある現れだ。だが、個人や家単位で墓を持つのが一般的になったのは、経済力がついた戦後のことだ」(同)と話す。
墓守が絶えたか、経済的な理由などで放置された無縁墓の急増も問題視されている。墓回収の専門業者が無縁墓を回収し破砕したり、正式な集積場に集められる墓石の数も増えている。一方で、不法投棄される「墓の山」も増えた。「兵庫県南あわじ市の山中には推定1,500トンの墓石が山積みにされ、山の高さは4メートルに達する」(「朝日新聞」平成26年7月30日)。熊本県人吉市の市環境課で無縁墓の数を調べたところ、「市内の墓1万5,123基の4割超、6,474基が無縁墓だった。8割が無縁の墓地もある」(同)という。「罰当たり」と一喝できない事情が、そこに込められている。「ぐるり」の来亭者が抱える葬儀と墓の問題は、正に現代の縮図と言える。(つづく)
<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。関連記事
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