2024年12月22日( 日 )

【鮫島タイムス別館(24)】「もしトラ」に備える麻生氏が描く政局の構想

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 自民党の麻生太郎副総裁が4月22日から4日間の日程で米国のニューヨークへ飛び、トランプ前大統領と会談する。会談場所はマンハッタンにある「トランプタワー」だと報じられている。

 岸田文雄首相が国賓待遇でバイデン大統領にワシントンに招待され、大統領専用車ビーストに同乗して満面笑顔でツーショット写真を撮り、晩餐会の英語スピーチではジョークを連発して蜜月ぶりをアピールしたばかり。岸田政権のキングメーカーである麻生氏が入れ替わるように訪米してトランプ氏を会うのは、11月の大統領選でトランプ氏が高齢不安の強まるバイデン氏を打ち負かすことを予測した「もしトラ」の動きであるのは間違いない。

 岸田首相のワシントン訪問中、英国のキャメロン外相(元首相)はフロリダにあるトランプ氏の自宅「マール・ア・ラーゴ」を訪れ、夕食をともにしていた。外国の閣僚が米大統領の政敵と堂々と会談するのは極めて異例だ。しかも米国の一番の同盟国である英国があからさまに「もしトラ」に備える動きをみせたことは、トランプ政権誕生の現実味がかなり増してきたことを世界中に印象付けた。

 日本メディアは岸田訪米を「日米同盟の強化」と持ち上げたが、「もしトラ」に動く国際社会からすると、ずいぶんと間の抜けた国賓待遇の訪米に映ったに違いない。米国内でも岸田訪米はほとんど報道されず、関心の低さをさらけ出した。

 岸田首相の帰国直後に麻生氏がトランプ氏に会いに訪米するのは、外交政策としては遅ればせながら日本も「もしトラ」に動き出したといっていい。岸田首相がバイデン氏と親しくしている様子を冷ややかに眺めていたトランプ氏の御機嫌取りにうかがうということだ。岸田首相は現職のバイデン氏と親交を深め、麻生氏は大統領復帰が有力視されるトランプ氏に接近するという「外交上の役割分担」とみることもできる。

 しかし、日本の国内政局の視点からはまったく別の風景が浮かんでくる。

 岸田首相が裏金事件で派閥解消を打ち出した後、派閥存続にこだわる麻生氏との関係は冷え切っている。岸田首相は内閣支持率が低迷し、6月に解散して7月に総選挙を実施して勝利して9月の自民党総裁選を乗り切るシナリオは難しくなってきたものの、なお総裁再選をあきらめていない。これに対し、麻生氏は茂木敏充幹事長や上川陽子外相らポスト岸田を物色しており、自分のコントロールが効かなくなった岸田首相を総裁選不出馬に追い込む政局を画策している。

 沈みゆくバイデン氏を落ち目の岸田首相に押し付け、自らはトランプ氏に真っ先に会いに行くのは、9月の総裁選以降も「新政権」のキングメーカーとして君臨することを目指す麻生氏にとっては「絶妙の役割分担」なのだ。

 トランプ氏はロシアのプーチン大統領と親しく、バイデン政権のウクライナ支援を強く批判し、ウクライナ戦争からの「米国撤収」を訴えている。「もしトラ」が実現すれば、米国の外交政策は大転換し、国際情勢は一変する。

 自民党総裁選は9月、米大統領選は11月。今年は日米同時政局の年だ。岸田首相の「最後のお勤め」としてバイデン政権に付き合わせ、トランプ政権が誕生した時点で「お役御免」とし、新しい首相に差し替える。麻生氏自身は新政権の「生みの親」として政権中枢に踏みとどまるため、トランプ氏とのつなぎ役の立場を今のうちから確保していくというのが、麻生訪米の真の目的なのである。

 そもそも岸田首相の国賓待遇の訪米を地ならしし、4月中旬の日程を調整したのも麻生氏だった。そもそも今回の岸田訪米は「卒業旅行」として麻生氏があてがった側面が強かったといえる。

 岸田首相の訪米中に国内政局は激しく動いた。

 4月16日告示・28日投開票の衆院3補選のうち、自民党は長崎3区と東京15区で候補者擁立を見送った。東京15区では小池百合子東京都知事が担ぎ出す作家の乙武洋匡氏を推薦して「1勝」を拾う戦略だったが、公明党が乙武氏の過去の女性問題を理由に推薦に慎重な姿勢をみせたことに同調し、自民党も推薦見送りに転じたのだ。

 これにより、自民党は衆院3補選を戦う前から「負け越し」が確定した。残る島根1区も劣勢が伝えられている。岸田首相が不在の間に、留守を預かる麻生氏らによって「補選全敗」の環境が整備された。このまま「補選全敗」になれば「岸田首相では選挙は戦えない」という党内世論が高まるのは必至だ。もはや6月解散どころではなく、9月の総裁選出馬にも黄信号がともる。

 補選告示直前の14日に帰国した岸田首相には手の打ちようがなかった。麻生氏が描いたスケジュールに乗って国賓待遇の訪米を満喫しているうちに「補選全敗―6月解散阻止―9月退陣」にむけて外堀を埋められてしまったのだ。

 麻生氏は83歳。裏金事件で批判を浴び次期衆院選不出馬に追い込まれた二階俊博元幹事長(85)が引退すれば、政界最高齢となる。麻生氏も次期衆院選で引退するとの観測が流れたこともあったが、本人はまだまだやる気だ。今回の訪米をみても、政界を引退してキングメーカーの座を明け渡す気はさらさらないとみていいだろう。「岸田おろし」のシナリオも着実に進んでいる。

 だが、9月の総裁選で麻生氏が描く通りに政権移行が進むかは見通せない。麻生氏に追従してきた茂木氏もついに派閥解散に追い込まれ、残る派閥は麻生派だけになった。長老支配・派閥支配への批判は広がっている。麻生氏が担ぐポスト岸田には風当たりが強まるだろう。岸田首相とともに麻生氏も退場を迫られる政変も十分にあり得るのではないか。

【ジャーナリスト/鮫島 浩】


<プロフィール>
鮫島 浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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