2024年12月27日( 金 )

映画『食の安全を守る人々』~農薬害と有機食の大切さ伝え(前)

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 農と食の裏側を追ったドキュメンタリー映画『食の安全を守る人々~未来の子どもたちのために~』の自主上映が続けられている。山田正彦元農水相がプロデュースし、原村政樹監督が制作。2021年夏に完成し、劇場公開された。残留農薬基準や添加物の規制緩和、食品表示の改悪などで食の安全がさらに脅かされている今、この映画の価値は一層高まっている。

 同作品は、山田・原村コンビが制作した20年の『タネは誰のもの』の基になった。農家の自家採種を原則禁止する内容を含む種苗法改正が国会で審議されることになり急きょ、種苗に関する部分だけ先行して発表したもので、日本映画復興奨励賞を受賞、キネマ旬報文化映画第7位に輝いている。

 鎌倉市内で14日、『食の安全を守る人々』の上映会と山田正彦元農水相のミニ講演会が開かれた。「オーガニック給食かまくら」(代表・兵藤沙羅)の主催で、70人がグリホサートなど農薬の危険性と給食の有機無償化の重要性を学んだ。

 冒頭、主催者を代表して兵藤氏が「1年半前にこの映画を有楽町で見たが、シリアスで農業の問題を真剣に捉えている。学生時代、米国にいて食べ物がプラスチックでできているようなイメージがあったが、この映画で日米が逆転したような感想をもった。まず、知ることで消費者の意識が変わる。これを機に、自分にできる一歩を踏み出せたら」とあいさつした。

グローバル企業がもたらす農薬害、解決策は有機農法

 続いて、『食の安全を守る人々』が上映された。約1時間40分の作品で、食と農に関するいくつかの深刻な問題を取り上げている。内容は表題の通り、食の安全を守るために闘う人たちの記録である。

 終始登場するのは、プロデューサーの山田正彦氏。東京都中央区の日本モンサント社(現・バイエル)前での抗議風景の後、国会議員会館内の各議員室を回りながらグリホサートの危険性を説く姿が映し出される。

 鈴木宣弘東京大学大学院農学生命科学研究科教授が、日本だけ農薬が増えている実態を示し、規制緩和は米国の都合で進められていると指摘する。

ゼン・ハニーカットさんが登場する映画の一コマ
(4月14日筆者撮影)

 米カリフォルニア州に住むゼン・ハニーカットさんは、3児の母。子どもは3人ともアレルギーをもつ。湿疹や躁鬱(そううつ)、発達障害に直面し、原因を追究すると、除草剤のラウンドアップの主成分、グリホサートに突き当たる。食卓からこの農薬を排除するため、問題意識を同じくする母親たちとともに米国環境保護庁(EPA)やモンサント社に掛け合う。5年後、地域のほとんどのスーパーでは有機野菜だけが並ぶようになった。

 同じくカリフォルニア州に住むドウェイン・ジョンソンさんは、学校の用務員をしていて末期がんになった。学校の校庭整備に使ったラウンドアップのせいだとしてモンサント社を提訴。地方裁判所の陪審は、同社に約320億円の支払いを命じる評決を出した。以後、世界で5万件の訴訟が続く。

 ロバート・ケネディ・ジュニア弁護士は、モンサント社と闘い続けている。叔父のジョン・F・ケネディ大統領は『沈黙の春』でDDT(モンサント社が開発した有機塩素系殺虫剤)の危険性を告発したレイチェル・カーソンを妨害から救った。「モンサントは悪い企業文化をもつ」との叔父の証言を述懐する。

 山田氏は日本人の身体にグリホサートがどれだけ蓄積しているか検証するため、国会議員23人を含む28人の頭髪を検査した。その結果、19人から同成分が検出された。驚くべき事実である。

 仏カーン大学のジル=エリック・セラリーニ教授は、危険なヒ素までが含まれていることを明らかにした。日本の法律では、こうした添加物は表示義務がない。日本の脳神経科学の第一人者、黒田純子博士は、グリホサートの被害は本人に影響が出なくても、子どもや孫の世代に重大な悪影響をおよぼす可能性があると指摘する。

 韓国では、小学校から大学までのほとんどが有機無償給食を実施している。20軒に1軒の農家が有機生産に取り組む。

 ゲノム編集技術を用い、肉量が3倍のマダイや角なしウシが開発された。日本では、ゲノム編集食品の表示義務がない。

 遺伝子組み換え食品については23年4月から、最新の検出技術によって検出できないものしか「遺伝子組み換えでない」と表示できなくなった。混入が5%以下の場合のものは「分別生産流通管理済み」の表示が可能。5%超のみ「遺伝子組み換え」または「遺伝子組み換え不分別」の表示が義務付けられているが、食用油やしょうゆなどは対象外だ。

 米北西部、モンタナ州のロイ・ベンジャミンさん一家は3,000haを超える大規模農場主。この広大な畑で、15年前から農薬や除草剤を一切使わず作物を育てている。健康を考えてのこと。米国やカナダでは、乾燥させるために収穫前にラウンドアップを散布している。今は作物を天日乾燥させるため、肥料にもなり、コストが少ないという。

 千葉県いすみ市は太田洋市長の下、17年に学校給食の完全有機米使用を実現した。農薬と化学肥料を一切使わない。「民間稲作研究所」の稲葉光國氏(20年12月死去)の指導で、子どもたちが昔ながらの農業を体験している。その収穫物が給食に出される。懐かしく、心豊かな光景で映画は締めくくられる。

(つづく)

【ジャーナリスト/高橋 清隆】


<プロフィール>
高橋 清隆
(たかはし・きよたか)  
 1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)、『山本太郎がほえる〜野良犬の闘いが始まった』(Amazonオンデマンド)。ブログ『高橋清隆の文書館』

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