2024年07月16日( 火 )

岸田首相のフランスと南米ツアーの成果はあったのか?

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、5月10日付の記事を紹介する。

イメージ    岸田首相は4月28日に行われた3補選の敗北を受け、その責任を回避するかのように、5月2、3日にフランスのパリで開催されたOECD閣僚会議に出席し、議長国の代表として演説を行いました。

 その後はブラジル、パラグアイなど南米を歴訪。日本国内では、政治とカネの問題の決着を始め、能登半島地震など災害復旧や今後の予知、予防、復興への道筋を明確に打ち出すことが先決ではないかと、外遊三昧の姿勢を批判する声も上がっていましたが、「外交は十八番」と自信満々の岸田首相には、そうした声は届きませんでした。

 実は、日本は今年、OECD加盟60周年を迎えたのです。それに合わせて、岸田首相がOECD閣僚会議出席で目指したのは「デジタル分野で世界的なリーダーシップを発揮すること」に他なりません。

 「世界で最もAIに理解があり、AIの研究開発や実装がしやすい国を実現する」というのが岸田政権の目指すところのようです。「AI橋渡しクラウド(ABCI)」の高度化やAI機能を完備した次世代スーパーコンピューターの開発も目指しています。

 岸田首相はAIをめぐる国際的な枠組みとして昨年5月のG7サミットで提案した「広島AIプロセス」への賛同者を増やすことに主眼を置いていることは間違いありません。というのも、昨年の広島AIサミットでの提案はAIの開発者から利用者まで「すべての関係者」を対象に守るべき責務を定めたものですが、法的な拘束力はないからです。

 そのため、具体的な規制は各国の取り組みに委ねられており、世界的には具体的な成果は見られていません。その一方で、AI技術を悪用した偽情報の拡散が国際社会や民主主義の根幹を揺るがす新たな脅威となりつつある、との危機感に岸田政権は捉えられています。

 アメリカの大統領選挙のみならず、世界各地で行われている選挙においても、候補者になりすまし、勝手な主張を展開させることで、候補者の信用を貶めるような選挙妨害も頻発中です。岸田首相もそうしたフェイクニュースの被害を受けているため、AIの開発、利用促進、規制を一体的に進めることには意欲を示していることは理解できます。そうした背景もあり、岸田首相はパリにて広島AIプロセスの賛同国、いわゆる「フレンズ(友好国)」会合の新設を訴えたのです。

 岸田政権とすれば、AIを含む新たな課題への対応を議論するOECD閣僚会議の場が、課題解決に有益なルールづくりにとって重要性と緊急性を訴えるうえで最適と判断したに違いありません。具体的には、偽情報対策として世界的に検討が行われているネット上の記事や広告などに発信者の情報を付与する技術の実用化を支援する内容を表明しました。とはいえ、岸田政権では日本国内でも急増する偽動画による詐欺行為を取り締まることすらできていません。現在、OECDは先進国を中心に38カ国が加盟していますが、東アジアは日本と韓国のみで、東南アジアの加盟国はゼロです。

 そこで、岸田首相はインドネシアやタイなどの新規加盟を後押しする考えを表明しました。生成AIの利用や気候変動など地球規模の課題解決に向け、「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国を巻き込もうとする発想です。また、こうした東南アジア諸国のなかには中国との関係に苦慮している国もあります。

 そこで、そうした国々がOECDという国際機構に加盟することを支援し、中国との交渉を側面的にサポートできるとの思惑も秘められていました。要は、支援とのバーターと言っては語弊がありますが、日本が目指すAI政策の同調者を1国でも増やそうという狙いが込められていたわけです。

 問題は、そうした岸田首相の思惑がどこまでグローバル・サウスに届いたかという点でしょう。残念ながら、グローバル・サウスの代表格であるブラジルのルラ大統領との首脳会談では「ブラジル産の安くておいしい牛肉を買って欲しい」との切実な要望に対してまったく耳を傾けず、「核兵器のない世界を共に目指しましょう」と、その場の空気を読まない対応に終始したのが岸田首相でした。

 結果的には、フランスと南米を駆けめぐる「弾丸ツアー」の成果は、自己満足の「やった感」を残しただけで、これといった具体的な成果はないままで終わりを迎えたようです。なにやら岸田政権の末路を暗示しているように思えてなりません。


著者:浜田和幸
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