2024年12月21日( 土 )

【トップインタビュー】働き方改革を成長エンジンとして「理想の引越会社」をつくる

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(株)スタイル
代表取締役 白川淳 氏

 引越業界では近年、春のシーズンを中心に「難民」問題が指摘されるようになるなど、事業の担い手不足がとくに深刻化している業種である。その背景には低賃金や長時間労働を強いられる労働環境の問題があり、対応に苦慮している企業が多い。「スタイル引越センター」のブランド名で事業を展開している(株)スタイルは、そうしたなかで働き方改革に取り組み業績向上につなげている異色の企業だ。そこで同社の白川淳代表に話を聞いた。

大手勤務で痛感した労働環境の厳しさ

(株)スタイル 代表取締役 白川淳 氏
(株)スタイル
代表取締役 白川淳 氏

    ──現在に至る御社の動向について教えてください。

 白川淳氏(以下、白川) 私は20歳から全国展開をする大手引越企業に就職し、最後は支店の営業責任者を務めた後、30歳で独立し、「スタイル引越センター」として2009年1月に創業しました。

 当初は大変苦労をしましたが、年々業績を伸ばし、23年11月期には売上高15億2,500万円を達成し、今後も成長を見込んでいます。新型・新規格の最新型引越専用車両(10t車など)を導入するなど、現在では18両のトラックを保有し、正社員90人(うち引越ドライバー約50人)、常勤勤務者(パート、アルバイトを含む)約120人の体制で事業に臨んでいます。

 また、独自の引越管理システムを開発・運営するなど、業務の効率化にも積極的に取り組み今に至っています。なお、累計引越件数は23年12月時点で15万5,500件に達しています。

 ──独立されたのはどのような心境からだったのでしょうか。

 白川 大手の組織では従業員の置かれる厳しい状況を変えることが難しいことを痛感しました。「ならば自分で働き方改革を行い、理想の引越会社をつくろう」と考えました。このことをご理解いただくには、引越業界における一般的な業務内容について説明する必要があります。まず、引越作業は運送と引越の融合であり、ドライバーなど現場スタッフにはどちらの業務にも安全に対する高度な配慮が求められます。とくに後者についてはエレベータがない建物などでは肉体的な負担が大きい作業もともないます。顧客の大切な家財道具をスピーディーに取り扱うという点で高度な作業テクニック、さらに顧客への丁寧な対応力も求められます。

 つまり、一般的な運送業と比べ、スタッフに求められる作業の質により高いレベルを要求されるのです。その一方で、賃金体系は歩合の割合が大きく、長時間労働が常で休日の取得もままならないなど、スタッフが安心して働き、安定的な暮らしができる状況にないことがほとんどです。そうした状況から、とくに引越ドライバーなど現場スタッフの入れ替わりが激しく、3年も勤務すればベテランといわれるほどです。担い手の入り口が広い一方、出口も広いのが実状で、私はこうした状況を変えなければこの先、引越業界には未来がないと考えています。

下がり続けた引越単価

 ──そうした状況をつくり出した要因は何なのでしょうか。

 白川 引越1件あたりの単価が長い間低下傾向にあり続けてきた、引越業界が置かれる難しい状況が要因となっています。引越の主要な顧客は一般消費者であり、デフレ経済の進行などにより低料金での引越を求めるニーズが強いのです。そのため大手を含む事業者間で価格競争が激しくなり、かつては通常月の引越料金は4人家族、3LDKの引越で10万円程度でしたが、今では5~6万円程度が相場となっています。

 加えて、近年は資材価格や燃料費も高騰していることから収益性はさらに低下傾向にあります。たとえば、荷づくりに欠かせない段ボールは引越1件あたり80~100枚が必要になりますが、サービス競争のなか無料で提供するケースがほとんどです。段ボール価格が上昇傾向にあるなか、収益の低下に追い打ちをかける要因になっています。このような状況を補うため、1つのチームが1日に多くの引越作業を行うことで収益を確保せざるをえず、長時間労働を余儀なくされているのです。

10tトラックも導入
10tトラックも導入

    近年は、春の引越シーズンにお客さまの希望する日時などに引越が難しくなる「引越難民」の発生が問題視されるようになりましたが、これは引越料金が高くなりすぎたことが影響しているのです。3月末の料金は先ほどと同じ条件で30万円程度になることもあります。このことから、通常月の料金がいかに低水準であることがわかっていただけるでしょう。このままの状態が継続すれば、繁忙期はもちろん、通常期においてもお客さまに十分な引越サービスを供給できなくなる可能性が生じているのです。

スタッフ確保へ「逆張り戦略」を展開

 ──御社ではどのような戦略でこの状況を克服しようとしているのでしょうか。

 白川 冒頭で「理想の引越会社」を目指すと言いましたが、そのために業界の「逆張り戦略」に取り組んでいます。とくにスタッフの確保については、同業他社は3月の繁忙期に向けて拡充するのが一般的ですが、当社はその真逆で繁忙期に必要となるスタッフ数を平常月でも確保するようにしているのです。具体的には、現在18台のトラックが稼働していますが、常に3台分の余力を残し、それをスタッフの負担を平準化することに役立てています。

 一方で、受注量の平準化も重要になります。そのため、営業の体制を強化し、平常月であっても常に1,100~1,200件の引越作業を受注し、閑散月にあっても8,000万円以上の売上を確保できるように取り組みを行っています。繁忙期には月間約3,000件の業務が発生しますが、余力のトラック3台とスタッフをつぎ込むことで、他の15台の業務負担を低減できるような仕組みを構築しているのです。

高い技術をもったスタッフによる作業を実施
高い技術をもったスタッフによる作業を実施

    ──従業員の方々の待遇面の改善、働き方改革についてはいかがでしょうか。

 白川 引越ドライバーや営業担当者らを含むすべての従業員に対し、高い水準の給与と年3回のボーナス(経常利益による)を支給しています。勤務時間も午前7時から午後4時まで(ドライバーの場合)、リフレッシュ休暇も年3回用意するなど福利厚生面も充実させました。毎年2~3人の男性社員が育児休暇制度を利用していますが、制度利用を遠慮しないですむような社内環境も整備しており、そうした点も同業他社にはない取り組みではないでしょうか。

 こうしたことにより、他社で従事した経験のあるスタッフの採用も多く、当社では運送業界で課題となっている2024年問題の影響がほとんどない状況です。創業当初からの3年間は大変苦労しましたが、このような仕組みを構築し、スタッフの教育体制などを充実できたことが、今の成長につながっていると認識しています。

高い志をもつ全国の同業者と連携

 ──ところで、御社では関東などの同業他社と長距離引越に関する提携をするなど、同業他社との協力関係の構築を積極化しているように見えます。

 白川 たとえば、福岡から東京へお引越をされるお客さまについてはこれまで、ドライバーの長時間移動の負担や帰りの便が空荷になるという問題から、地場引越事業者では対応が難しい業務でした。この提携では、関東の事業者が請け負った荷物を当社のドライバーが運び引越作業を代行することで、これまで利益を生まなかった帰りの便の収益化を可能とし、同業他社とウインウインの関係を構築するものです。なお、この提携の前提として、当社は全国の地場引越事業者111社(23年5月18日時点)で構成される「引越業界の未来をつくる会」への参画があります。高い技術品質と知識をもった業界の未来を変革するという志の高い事業者の集まりで、私はその理事に就任しております。

 引越業には特別な法的規制がなく参入障壁が低いことから、多くの事業者が市場に参入しています。そのため、長く同業他社とのつながりが薄く、あえていえば「他社はすべて敵」という考えが主流となっていました。私が勤めていた大手引越事業者では、同じ会社であっても異なる支店をライバル視する風潮があり、そのため繁忙期にトラックやスタッフが足りなくなっても、同じ会社でそれらを融通することがないくらいでした。そうした体質によってこれまで成長してきた側面がこれまでにあり、すべてを否定できませんが今の時代には適さなくなり、少なくとも生産性を低くする要因になっていることは否定できません。

「未来をつくる会」の会合の様子
「未来をつくる会」の会合の様子

引越は「ライフライン」

 ──引越業界には改善すべきことがまだ多く残されているということですね。今後、どんな姿を目指すべきでしょうか。

 白川 私は、引越事業は「ライフライン」であると思っています。引越はお客さまが新たな暮らしを始めるお手伝いをする仕事であり、引越が円滑に行われることで社会もスムーズに運営されると考えるからです。業界に残る排他的な古い体質や考え方から脱却し、競争から共存の道を歩み、「引越難民が発生している」などと指摘されない、ライフラインの一翼をしっかり担う業界へと発展しなければなりません。そして、事業者がつながりをもつことで付加価値を高め、引越単価の上昇につなげるなどの取り組みも行う必要があると考えています。

【田中直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:白川淳
所在地:福岡県糟屋郡篠栗町和田5-1-1
設 立:2011年12月
資本金:1,000万円
売上高:(23/11)15億2,500万円


<プロフィール>
白川淳
(しらかわ・じゅん)
1978年7月生まれ、福岡県田川郡出身。大手引越企業に20歳で入社。10年間勤務し、支店の営業責任者を経験した後、独立。趣味はスノーボード。運行管理者の資格をもつ。SMI成功哲学・道経一体経営学を学んでいる。

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