2024年07月16日( 火 )

日本ビジネスインテリジェンス協会、第186回情報研究会 音楽の力~脳への好影響

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 日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS、中川十郎理事長)は5月30日、第186回情報研究会を東京で開催した。当日は7名が登壇、約4時間におよぶ白熱した発表の場となった(当日のプログラムは文末に掲載)。

 そのなかで今回は、特別講演『音楽の力~脳への好影響』と題して行われたステフアン・ケルシュ教授の発表を中心に報告を行う。

ケルシュ教授講演『音楽の力~脳への好影響』の要旨

 ステファン・ケルシュ氏は、音楽が感情に与える影響とその科学的根拠について、多岐にわたる事例を基に講演を行った。主に、音楽がどのようにして人の感情を喚起し、脳や身体にどのような影響をおよぼすか、また健康増進のために音楽をどのように活用できるかを講演した。

 ケルシュ氏によれば、音楽は驚きを通じて人の感情を引き起こすという。音楽は人間の予測能力を利用しながら、期待を裏切ることで驚きを生み出し、それが脳の感情構造、とくに眼窩前頭皮質や扁桃体を活性化するという。驚きが快感に変わるには、適度な予測の積み重ねが必要で、これにより音楽の楽しさが増し、一部の人々には鳥肌が立つほどの感動を与える。

 音楽は、人間の社会的絆を強化する役割についても重要な働きをもつ。拍子を合わせたり、歌ったりすることで、人々はより協力的で信頼し合うようになり、これが社会的なつながりを深める。とくにこの現象は幼稚園児に見られ、音楽が人間の基本的な帰属欲求を満たし、ポジティブな感情を引き起こすことを示している。これらの感情は人々の健康と幸福をサポートし、協力や平和に貢献することに大いに意味があるとケルシュ氏は強調する。

 また、音楽の治癒効果についても具体的な例が挙げられた。たとえば、音楽を聴きながらビートに合わせてタップするだけで、痛みの感覚が大幅に軽減されることがある。これは、精神的リソースを多く消費するため、ネガティブな思考や痛みの感覚にリソースが割かれなくなるからだという。また、うつ病や統合失調症の人々に対しても、音楽がネガティブな思考のループを断ち切る助けとなるという。

 ケルシュ氏はまた、言語と音楽が同じ脳ネットワークで処理されていることを明らかにし、音楽が脳の感情システムを活性化することで、深い治癒効果をもつことを強調した。たとえば、アルツハイマー患者に対する音楽療法では、幸福システムの新しい神経細胞生成が刺激される可能性があり、予防と早期介入が重要であるとする。

 ケルシュ氏は、講演全体において、音楽が感情を喚起し、社会的絆を強化し、健康を促進する強力なツールであることを明らかにし、音楽の多様な効果を科学的に解明して、実践的な応用方法を示した。

ケルシュ氏の著書とプロフィール

    ケルシュ氏は、「グッド・バイブレーションズ」(ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス、2022)を出版している。今回の講演内容が詳しく語られているということであり、音楽の治癒に興味がある人には大変参考になる内容だと思われる。

ステフアン・ケルシュ
(ベルゲン大学生物心理学・音楽心理学 教授)

 1968年アメリカ合衆国テキサス州ウィチタフォールズ生まれ。ヴァイオリンを学びブレーメン芸術大学 を卒業後、ライプツィヒ大学で 心理学と社会学のディプローム(修士号)を取得。マックス・プランク認知神経科学研究所での論文をもって同大学で理学博士号取得 。ハーバード大学、ベルリン自由大学「Languages of Emotion」研究クラスター教授 などを経て、2015年より現職。

 その他、研究会では、斎藤アンジェ玉藻さんのバイオリン演奏によるバッハの無伴奏曲シャコンヌの演奏と、柳田祥三・大阪大学名誉教授を迎えての、『音楽、発声、太陽光、禅の脳への影響』と題したパネル討論も行われた。

当日のプログラム
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【寺村朋輝】

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