【トップインタビュー】DX最先端業界のトップ企業に見る 未来に必要な人材と、企業としての人材観
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アップパートナーズグループ
代表社員 菅拓摩 氏アップパートナーズグループは、約340名の従業員を有し、約2,800社のクライアントをサポートする西日本最大級の税理士法人グループ。税理士をはじめとして社会保険労務士、司法書士、公認会計士、中小企業診断士といった資格保持者と、幅広い業種に対応する経営コンサルタントまで擁して、会計、財務、経営面からIT化支援まで幅広い分野の顧客ニーズに対応する。税理士・経理の業務分野は、将来的にAIへの置き換わりが最も進む分野の1つと目されているが、それは現時点で、DXと先進的な人材戦略が最も取り入れられている業界として、その取り組みが広く他業界への影響をおよぼす起点となっている。西日本における代表格もいうべき同グループの人材観と企業としての社会貢献、そこから顧客サービスの在り方までを同グループ代表の菅拓摩氏に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)社員に合わせた人材戦略
時給設定と週2リモート──企業の事業継続にとって人材戦略の重要性が増しています。人材の定着のための取り組みについて聞かせてください。
菅拓摩氏(以下、菅) 会社のリソースとして社員の福利厚生に割く割合は明らかに大きくなりました。会社と個人の生活を両立させるうえで、従来は個人が会社に合わせることを暗に期待する傾向が社会全体にありましたが、当社では個人が会社で働きやすいように、会社側が積極的に個人の事情に合わせる部分が多くなったと思います。とくに税理士は女性が多い職種ですから、子育てなどをしながらでも働きやすい環境を整えるということが会社側に求められていることは間違いありません。当社は仕事を続けてもらいやすい環境となるよう、そのための制度を整えています。
産休・育休の後で職場復帰する際に、子育てのためにパート勤務への切り替えを希望する社員もいます。その場合、産休前の給与を基に時給換算をして、同一時給でパートとして働くことが可能な制度を設けています。たとえば、35歳で産休前に役職がついて課長で、年収が800万円だったとします。その人が産休後、パート勤務を希望する場合は、800万円を基に時給換算するようにしています。
──同一労働、同一賃金ということですね。
菅 パートになり実務時間が減ることによって、こなす案件の数は減るでしょうが、仕事内容は変わりません。パートになっても時給としては同一賃金で働けるような制度です。ほかにも、たとえば時短勤務をするとして7時間しか働けなくなる場合は、年俸を8分の7にしようという風に考えます。そして子育てがひと段落して、また正社員に戻ることを希望したら戻ることができます。
──コロナ禍が明けて通常の経済活動が可能になりましたが、働き方の変化はありますか?
菅 当社はコロナ前からリモート勤務も可能でしたが、コロナ禍になって増えたリモート勤務が、元に戻ったかというとそんなことはありません。明らかに働き方の変化として現れています。当社は週2日でリモート勤務を可能にしています。リモートを選択する日としては、金曜日と月曜日を選ぶ人が多いですね。週に3日は出社していますから、社員同士の対面での交流は十分に確保されています。
社会への視線 助け合いの意識
──社会貢献として実践していることはありますか。
菅 社会貢献といえるかどうかわかりませんが、当社は請求業務をいまだに紙で行っています。就労支援として請求書の発送業務を障がい者施設に委託しているのです。施設の方に1つひとつ丁寧に請求を折って封入してもらっています。
ほかには私が動物が好きだということもあって、介助犬の育成支援をしています。介助犬は盲導犬よりもずっと育成期間が長いのです。盲導犬は半年くらいで訓練が終了するようですが、介助犬は1年以上かかります。要介助者が落としたものを拾うとか、状況に応じて対応すべきことが無数にあって犬が憶えなくてはならないことが多いのです。介助犬の育成はほとんどがボランティアによって支えられていて、当社としてもその力になれればと思っています。
そのほかには、昨年なくなってしまいましたが、佐賀にあった小さな動物園のような施設の運営支援もしました。そこには子どもたちがたくさん来て楽しんでいました。あとは、引退した競走馬が余生を過ごすための牧場の支援です。最後まで面倒を見るということがとても大変で、それを1人で運営している牧場を支援しています。私も北海道まで世話をしに行ったことがあります。
DX導入を仲立ちする
人材育成の重要性──経営者がそのような取り組みを率先して行うと、考え方や方向性が自然と社員にも伝わって、会社の雰囲気にも影響を与えるのではないでしょうか。では、顧客へのサービス強化のために、会社として取り組んでいることはありますか。
菅 当社が提供するサービスを通して顧客企業のDXを支援することが私たちの重要なミッションです。DXのためには顧客の業務スキームを理解したうえでそれを可視化してDXのフローに落とし込む必要がありますが、それなりの専門的能力が必要です。SEとまではいきませんが、それに近い能力で実務とシステムの仲立ちができるスタッフを増やすことに取り組んでいます。
今は会計ソフトも進化していて、アプリが口座の入金を確認すると販売管理ソフトと連携して自動で売上と紐づけて処理するので一切手入力要らないような、そこまで進化しています。しかし、事業者はその進化に対応できていないことがほとんどです。意外なことに大手企業ほどできていなかったりするのです。
大手の場合、資金があるので完全に自社のやり方にカスタマイズしたシステムを組んで、そのなかで独特の販売管理や経理の処理を行っていることがあります。しかし、会計分野でDXを実現するには、他のシステムとの互換性やアップデートやセキュリティに優れた既製品の導入が必要です。よって独自のシステム上で回していた会社ほど、既製品にデータを入れ込むための調整が大変な作業になります。
DXされる領域と人が必要な領域
──DXを行う場合、従来その業務に携わっていた人たちの仕事がなくなるという不安が障壁になる場合があります。
菅 それはたしかに重要な問題ですが、多くの実務の現場を見ると、従来、経理を一身に背負ってきた人たちが年齢的に辞める状況にきているのが現実として見えます。この人がいなくなったら困るという状況でギリギリで回している現場からの要請が少なくありません。何十年も同じ人が経理を一手に引き受けて、業務がその人にしかわからない、属人化してしまっている状況です。一生懸命会社のために尽くしてきてもらったのですが、いつかは辞めなくてはならない、そのとき誰も業務がわからないでは事業継続が困難になります。
実は当社でも似たような状況が発生しました。長年の経理担当者が産休に入ることになったのです。だから、私は困った事態が少しは生じるのではないかと心配していました。ところが、当人は産休前に引き継ぎを凄くうまくやってくれて、複数の人間に分担して引き継ぎをしながら同時にDXを行ったのです。その結果、大変スムーズに業務の引き継ぎに成功しました。当社もそういうきっかけがなければアナログのまま進行していたかもしれません。
──顧客先でDXのためにそれなりの会計ソフトを導入しながらうまく運用できていないという場合もあると思います。
菅 当社はそれぞれの顧客のニーズに応じて、すでに導入済みの会計ソフトでも対応できるようにしています。ただし、既存のソフトやシステムで明らかに業務とのミスマッチが起きている場合は提案を行います。
また、経理担当者が企業にいる場合でも、実は自社では経理は一切やりたくない、任せられるならすべて任せたいというところは多いです。まず、経理ができる人がどんどん減って採用が難しいという現実があります。それに応えるように会計ソフトの進歩は目覚ましいです。たとえばfreeeという会計ソフトは、簿記ができなくても試算表がつくれるような基本設計になっています。そのようなDXが進めば、いわゆる経理職人のような人材は要らなくなります。一般事務の感覚で経理ができ、領収書と入出金明細がわかれば勝手に会計書類をつくってくれます。そうなると、入力だけをする経理担当者は事業者にとって無駄でしかありません。しかし、まだ人の手が必要な会計分野も残ります。たとえば、お金の動きをチェックする、あるいは管理会計として企業の戦略を立てたりマネジメントする、そのような会計として人が携わる部分は残されると思います。人の判断力が問われる部分が、人が携わる会計として今後重要になってくることは間違いありません。
税理士の未来 想像力と人間力
──税理士・経理の世界はAIに置き換わっていく世界だといわれています。そのなかで人の職業として税理士に求められるものはどのように変わっていくでしょうか。
菅 よく当社のスタッフに話していることですが、AIが急速に進化して会計ソフトも進歩するなかで、税理士に求められる仕事も変わることは間違いありません。今、多くの企業が税理士に顧問業務を依頼しており、個人事業主で一定程度以上の所得がある人も税理士に顧問依頼しています。しかし、AIが実装された会計システムが一般化すれば、今まで税理士に回っていた仕事の多くをAIがやるようになります。そのような仕事では税理士はいらなくなるということです。
ですが、税理士にできる仕事がすべてAIに置き換わってしまうかというとそうではありません。たとえば、AIが顧客に対してA、B、C案を提案する、そのうちのどれを選択したらいいか。あくまでも顧客は人間ですから、人間としての判断が必要です。その場面で税理士は、顧客に寄り添って助言や提案、判断を行う存在として役割をはたすことができると思います。または、利益を上げている企業がその利益の使い方について判断に迫られるとき、あるいは資金繰りに困っている場面で何らかの判断が必要なとき、そのような判断の局面において、AIを活用しながら最終的に的確な判断のサポートができるそのような人間としての税理士が求められるようになると考えています。
また、サービスの提供方法も変わる必要があります。顧客にとって、税理士はコストです。作業としての経理業務がどんどんAIに置き換わっていくとすれば、サブスクのようなかたちで税理士の判断が必要なときに利用できるようにするなど、新しいサービスのかたちが必要になると思います。
──新しい税理士像に適うためには、若い人材に何が求められるでしょうか。
菅 当社は新卒の採用にこだわってはいません。色んな世界を見てきて、ある程度知見があるような人の方により魅力を感じています。先ほどの話にも関連して、最終的に税理士に求められるのは人間力といえます。人間としてのコミュニケーション力であったり、エンターテイナー的な気質があったりとか、過去の経験として大学時代にイベントサークルを主催していたとか、世界1周してきましたとか、人間的な魅力です。
そしてこれからの時代、税理士に限ったことではありませんが、具体的には、想像力が求められています。たとえば、このセクションとこのセクションを繋いだらこういう仕事ができるとか、この会社の社長はこういうことで悩んでるから、こういう人を紹介したらうまくいくんじゃないかとか、そういう力です。ですから20代のスタッフには、「貯金なんかするな、自分のためにお金を使え」と言っています。今使ったお金が10年後に10倍になって返ってきます。
AIの時代だからこそ、自分を磨く投資がますます必要になる時代であり、これからの税理士にはそれが求められていると思います。
【文・構成:寺村朋輝】
<COMPANY INFORMATION>
税理士法人アップパートナーズ
代 表:菅拓摩
所在地:福岡市博多区博多駅東2-6-1
設 立:2006年9月
資本金:6,600万円(グループ合計)
売上高:28億円(グループ合計)
URL:https://www.upp.or.jp
<プロフィール>
菅拓摩(すが・たくま)
1973年4月生まれ、福岡県出身。立命館大学大学院経営学研究科修了。2001年に父の事務所を承継した後、06年に税理士法人アップパートナーズを設立。代表社員税理士に就任。法人名
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