EV覇権競争によって強く滲み出る米国の攻撃的保護主義
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国際政治学者 和田大樹
EVの覇権競争をめぐって欧米と中国との間で貿易摩擦がいっそう激化しそうだ。バイデン政権は5月、中国から輸入する計2兆8,000億円相当の製品に対する関税を引き上げる方針を発表した。引き上げ対象となる品目は、自動車や家電製品などに幅広く使われる旧型のレガシー半導体、注射器や手術用ゴム手袋など医療製品、太陽光発電に使用される太陽電池など多岐に渡るが、注目されるのが中国製EVに対する関税が現行の25%から4倍となる100%に引き上げられることだ。
これらの措置は、不当な貿易慣行に撤する国家への制裁を許可する米通商法301条に基づく措置だが、これは大量の補助金を投入して安価なEVを大量生産し、世界的なEV市場で影響力を高めようとする中国への警戒感の表れといえよう。EVの国内生産と普及を目指すバイデン政権は、中国によるEV大量生産とその海外輸出を不当廉売と位置付けている。
中国によるダンピングも大きな懸念事項だが、バイデン政権による対中関税100%という行為からは、米国の攻撃的な保護主義が色濃く滲み出ている。最近メディアで報じられたカリフォルニア大学サンディエゴ校による調査によると、米国が昨年輸入したEVのうち、ドイツが29.5%、韓国が23.5%、日本が11.2%などだった一方、中国からは2%に過ぎなかったという。それだけ米国内で中国製EVは存在感が薄いはずだが、今回のEV関税100%とは歯車が合わないと言わざるを得ず、客観的に考えて純粋な貿易慣行からは脱線していると捉えられよう。
今回のEV関税100%は、近年の半導体覇権競争の延長線上で考えられる。バイデン政権は2022年10月、先端分野の半導体が中国によって軍事転用される恐れから、同分野での対中輸出規制を大幅に強化した。しかし、米国による規制では中国による先端半導体そのものの獲得、製造に必要となる材料や技術の流出を防止できないと判断したバイデン政権は昨年1月、半導体の製造装置で高い技術力を誇る日本とオランダに対して足並みをそろえるよう要請し、日本は昨年7月より製造装置など23品目で中国への輸出規制を開始した。オランダもその後それに続いた。
しかし、対中輸出規制を開始した日本とオランダに対して、バイデン政権はまだまだ不十分と感じているようだ。同政権は今年4月、オランダ政府に対して同国の半導体製造装置大手ASMLによる中国での一部サービスを停止するよう求めたが、これはもう同調圧力とも言っても過言ではない。また、米国は韓国やドイツなどの友好国、同盟国にも対中規制を呼び掛け、対中での国際協調を強化することに尽力を注いでいる。
EVや先端半導体などのテクノロジー分野での米国の行動は、“政治的かつ経済的に中国に優位性を与えない”、“米国の優位性を守る”という攻撃的な保護主義と捉えられよう。僅か2%のシェアしかない中国製EVに対する関税100%の背景には、こういった米国側の警戒感と焦りがある
そして、この攻撃的保護主義は来年以降の新政権でも続き、おそらく長期的な姿勢となるだろう。トランプ氏も大統領に返り咲けば中国製品に一律60%の関税を課すとも豪語しており、バイデン、トランプのどちらが大統領になっても中国への攻撃的保護主義の姿勢は変わらない。今後は、半導体やEVだけでなく、他の先端テクノロジー分野でも攻撃的保護主義が発揮され、米中貿易摩擦はいっそう激しくなる可能性があろう。
<プロフィール>
和田大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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