2024年12月04日( 水 )

日本経済、バブル崩壊からの復活と中国への教訓(1)(中)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は6月17日発刊の第356号『「日衰・中隆」から「日隆・中衰」への必然性の分析(1)~日本経済、バブル崩壊からの復活と中国への教訓~』を紹介する。

米中対立と円安への大旋回

 外部条件の最も重要な変化は米国による対日姿勢の急旋回である。米国は冷戦終結以降、産業競争力を著しく強め半導体・エレクトロニクス、自動車などの基幹産業で米国企業を打ち負かしつつあった日本を脅威と考え、日本たたきを始めた。貿易摩擦と超円高がその手段になった。たとえば日米半導体協定では米国は日本企業に対して全半導体購入額の2割を米国製品にするという通商ルールを逸脱した割り当てを求めたが、日本はそれに従うしかなかった。日本円は1900年から2010年にかけて、通貨の実力である購買力平価を恒常的に3割以上、ピークの1995年には2倍まで引き上げられ、日本企業のコスト競争力は著しく損なわれた。日本に集中していたハイテク製造業の産業集積は、韓国、台湾、香港そして中国にシフトした。日本の産業競争力を世界半導体生産シェアで垣間見ると、1990年世界半導体シェアの5割を担っていた日本は、2013年以降は1割以下まで低下した。工場も雇用も資本もコストが高くなった日本から海外に流出し、日本経済は空洞化した。円高で世界一高コストとなった日本企業は賃金抑制をすすめ、日本では世界で唯一30年間実質賃金が横ばいになり、デフレが定着した。

図表2: 懲罰的円高から恩典的円安へ 、円安が日本大復活の原動力

円安は高利益、人手不足、
世界的低賃金により持続的賃上げをもたらす

 しかし2018年に米中対立が決定的になり、中国に集中しているサプライチェーンの再編を望む米国は、著しい円安の容認に舵を切った。ドル円レートは2022年初めまで1ドル100~110円で推移していたが、以降一気に下落し150円台が定着している。それは購買力平価を4割近くも下回るもので、日本企業の価格競争力を著しく強化した。世界のなかで著しい低物価国になった日本に向かって需要が集中し始めた。日本への工場回帰と輸出増加、海外観光客の増加などの好循環が起き始めた(図表2)。さらに先進国とは思えないほどの水準に日本の賃金が低下し、それが賃金引き上げ圧力を強めている。失業率が2.6%とほぼ完全雇用状態にあること、企業収益が空前であること、日本企業は優良な人員の離反を止めなければならないこと、などの賃上げの条件が揃った。2024年賃上げ率は5.08%と33年ぶりの高水準になった。日銀は3月にマイナス金利、YCC(イールドカーブコントロール)、異次元の金融緩和のすべてを解除した。これらより日本経済がデフレと長期停滞からほぼ脱却したことが明らかである。

 今後、主体的条件と外部環境好転が相乗効果を示し、日本経済は先進国としては珍しい潜在成長率が高まる時代に入っていくと予想される。

バブルのトラウマとデフレが引き起こす
非理性的投資態度が大きく変わる局面

 しかしながら日本家計の資産配分は著しく非理性的である。日本と米国の家計金融資産の配分を比較すると、日本の著しい預金依存が明らかである。日本では年金保険を除く金融資産の73%が利息ほぼゼロの預貯金に眠っている。他方配当だけで2%、内部留保を含めれば6%のリターンがある株式と投資信託は20%のウェイトに過ぎず、非理性的配分といえる。ちなみに米国は株・投信が72%、現預金は18%とまったく逆の構成になっており、米国家計は株高により大きな資産形成を続けている。米国家計の純資産はリーマン・ショック(GFC)直後の2009年の59兆ドルから2023年末には156兆ドルと14年間で97兆ドル(対GDP比3.5倍)という巨額の資産形成を実現し、それが堅調な消費をもたらしている。日本でも、岸田政権による個人株式投資の減税枠の拡大(NISA改革)がきっかけになり今後現預金から株投信へと、怒涛の資金シフトが起こり、株高を加速させるだろう。

図表3: 米国信用創造は債務信用から株式信用へとシフトした

(つづく)

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